隠された記憶 | ひでの徒然『映画』日記

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映画レビューを徒然なるままに書き綴ります。


隠された記憶


監督:ミヒャエル・ハネケ

キャスト:ダニエル・オートゥイユ、ジュリエット・ビノシュ

製作:2005年、フランス/オーストリア/ドイツ/イタリア


書評番組の人気キャスター、ジョルジュと出版社に勤める美しい妻アンは、息子ピエロと共に幸せな生活を送っていた。そんなある日、ジョルジュ宛てに子供が描いたようなイラストとビデオテープが届く。ビデオはジョルジュの家を外から延々と定点観測しているだけで、イラストは人の首から血が噴き出している不気味なものだった。


ビデオとイラストはその後も送られてきて、その内容もよりプライベートなものになっていく。犯人は皆目検討が付かず怯えるアンだったが、ジョルジュは心当たりがあると言い出した・・・。それは幼少の頃の隠された記憶・・・。


はたして隠された記憶とは何なのか。そして、犯人はいったい誰なのか。


Comment:

「衝撃のラスト」と銘打った推理サスペンス。

ものすごく斬新な切り口です。これは好き嫌いがはっきり分かれるのではないでしょうか。


「衝撃のラスト」の意味は、「このシーンでラストなのという意味での衝撃」、「犯人がわからずじまいでラストを迎えた意味での衝撃」、またはその逆で「ラストシーンで実は真犯人を教えている意味での衝撃」とさまざまな解釈が取れると思います。


ラストシーンを観ると、アジッドの息子とジョルジュの息子が話しています。雰囲気から以前からの知り合いで仲も良い感じです。その証拠に会話が終わるとジョルジュの息子は何気ない態度で学校の友達と話しながら帰っていきます。


すると、真犯人はこの2人なのでしょうか。ビデオはアジッドの息子が撮影していつの間にか届いているビデオはジョルジュの息子の仕業だとすればつじつまが合います。イラストはアジッドの息子がジョルジュの息子に指示しながら描いたものでしょう。


動機は、アジッドの息子はジョルジュが幼少の頃に父アジッドにした「無邪気な悪意」に対する復讐。ジョルジュの息子は大好きな父ジョルジュに対する母アンの浮気への嫌がらせではないでしょうか。


主犯はアジッドの息子ではじめは1人でジョルジュの家庭事情を調べたりビデオで定点観測したりしていたが、母アンが友人のピエールと浮気していることを見抜き、ジョルジュの息子にそのことを告げ共犯者に仕立てたとか。ジョルジュの息子はまさかアジッドの息子が父ジョルジュを復讐していることなんて知る由もありません。ただ母アンをイラストとビデオで恐がらせて浮気させないようにしていただけでしょう。そして、ラストシーンでアジッドの息子はジョルジュの息子に「お母さんの浮気は終わった」などと告げたのかもしれません。


しかし、アジッドの息子の唯一の誤算は父アジッドの自殺です。この辺りがアジッドが共犯ではなくアジッドの息子が1人で企てた計画であると考えられます。


でも1つ問題があります。アジッドはジョルジュを自分の家まで呼び出し目の前で自殺しているため、まずビデオに撮影されていると考えて良いでしょう。なぜなら、アジッドの息子は自分の留守中にも自分の家にビデオカメラを隠して録画しているのですから。また、自殺シーンではカメラワークも一切無く定点観測しているビデオ撮影のようにも見えます。でもそのビデオはジョルジュの家やテレビ局へは届けられませんでした。アジッドとジョルジュしかいない部屋の中での自殺はジョルジュを現在の地位から陥れる格好の材料になるはずのに・・・アジッドの息子は真犯人ではないのか。


ではこのビデオで一番困る人物とは・・・ズバリ、ジョルジュしかいません。ジョルジュには謎めいたところが随所にありました。妻アンが怯えていても常に冷静に対応していたり、アンがピエールらにビデオのことを話すとバツが悪そうに説明したり、中々アジッドについて語ろうとしなかったり。そして何よりも「無邪気な悪意」を持つ人物であることが挙げられます。動機は幼少の頃と同じで、アジッドを自分の目の前から消し去ること。そして現在の自分の名声を汚さず殺害するには、アジッドを自殺に追い込めばいいと用意周到にジョルジュは被害者であるということを知人や警察に植え付け、アジッドに幼少の頃と同じように狂気を持たせるように仕向けたのでしょう。ビデオとイラストはもちろん自作自演。


でもここでも1つの問題があります。アジットの家でのビデオテープです。隠し撮りされたこのビデオはジョルジュでは準備できそうにもありません。う~ん、困った。


ということは、やっぱり普通に考えて、犯人はアジッドとアジッドの息子なのでしょうか。アジッドは身体が弱そうなので、実行犯はアジッドの息子が担当し、ビデオの撮影、および、ジョルジュの息子に近づいてビデオとイラストを届ける係を任せます(近づくきっかけは母親が浮気していることを教える)。


しかし、アジッドはじっとしていられず、ジョルジュを呼び出し自殺を図ります。これはジョルジュを困らせたいから、または、ジョルジュの「無邪気な悪意」によるものかもしれません。


しかし、この様子もビデオに撮られていました。ビデオを観たアジッドの息子はジョルジュの会社に押しかけ、ジョルジュに話があると詰め寄ります。しかし、ジョルジュは相手にしません。アジッドの息子は強硬手段に訴えてジョルジュと話す機会を得ました。ジョルジュは悪態をつきアジッドの息子を脅迫します。そしてアジッドの息子は一言「やましい」と言うのです。


そしてラスト、アジッドの息子は、ジョルジュの息子に会いに行きます。この後どうなるのかは描かれていませんが、このラストシーンも定点観測のようなカメラワークであることから、このシーンもアジッドの息子が準備した隠し撮りビデオである可能性が高いと言えます。そして、このビデオをジョルジュに渡すことでアジッドの息子の復讐がはじまるのでは?


全編を通して音楽がないのは、どのシーンが隠し撮りのビデオシーンなのかを曖昧にさせるためなのかもしれませんね。


・・・といろいろな考えが巡りまして、わけがわからない状態になってしまいました。

やっぱり犯人を教えてくれないとスッキリしませんね。でも、このように想像を働かせていろいろ推察してみるのも映画の楽しみ方の1つなのかもしれませんね。



第58回カンヌ国際映画祭 監督賞
第31回LA批評家協会賞 外国映画賞



にひひにひひにひひ