まったりゆったりしましょ。


降り注ぐ光に頬を滑らせ、春。


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ここはみなさまがまったりゆったりできる空間を目指しております。


ただいま新作発表中です。
新作はこちら→◆月の着信を受ける窓◆

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May 09, 2006

◆月の着信をうける窓<8・最終回>◆

テーマ:◆モノガタリ降る夜◆
noon

[photo]


「…寝てるね。」
「おう、盛大に寝てるよ。」
さやかと涼二の声がする。
…だめだ。
眠くて眠くて目を開けられない。
「おまえんとこでも、こんな酷な使われかたするの?アルバイ
トなのに?」
「…うん。というよりも、二葉がムチャなシフトを入れるんだ
と思う。」
「げ。俺にはそんなことできんなぁ。」
さやかは本当に勘が鋭い。
「ところで、さっきの写真何?」
「ああ、これ?」
ガサガサと紙の音がする。
「土蔵?」
「そう。お前は奇跡的に入れられてないよなぁ?
 みんなで悪さすんのに、お前だけじいさんが探すといなくな
ってたから。
 桜なんてそのうちお前とつるむようになりやがって…」
「いいから見せてよ。」
さやかが写真を受け取る音がする。
「何か書いてあるよ。」
「そう。小学生くらいのとき、二葉と俺で、じいさんの盆栽割
っちゃって…」
「嘘だね。」
遮るさやかの声が妙に確信に満ちていて、びっくりする。
だけど、眠くておきあがれない…
「え、なんで…」
「何となく。」
「お前さ、ほんっとうに勘が鋭いね。
 …そう。あれはね、美咲が割っちゃったんだ。」
「そうなの?」
涼二のヤツ…
「だけど、盆栽割れてんのじいさんが見つけた時、
 俺ら運悪くその場にいたんだよね。
 で、俺らがやったと勘違いして、二人でお縄に。」
ふっと笑う声がする。
「なんで本当のこと言わなかったの?おじいちゃんに。」
「うーん、それがね。
 二葉と二人で美咲が盆栽割ったの見てたんだけど、何だかふ
らふらしてて…
 でも、鉢をきちんと持ち上げて割ってたんだよね。
 今考えれば、あの時は中学受験とか重なってて、ちょっと不
安定だったのかな。
 ただその割った瞬間、(やっちゃった!)って顔になってて
さ。
 美咲みたいな優等生でも、そんな気持ちになるんだなって思
って、
 だから何か言えなかったんだよ。」
「それで、二葉が黙ってようって?」
「あ、やっぱりわかった?」
「そうよ、あんた暗いところ嫌いでしょう?せまいところも」
そうなんだ、だからあんなに怖そうな顔を…
今初めて知った。
「これ、良く残ってたね。クレヨン持ってたの?」
「そう。直前に塗り絵やっててさ。
 クレヨンて意外と残るモンなんだよ。それに、はじっこに書
いたからな。」
得意げな涼二の声。
確かあのときに書いた言葉は…。

『ひみつ』

そう、あのとき月からそっと降り注ぐ光でそう書きながら、そ
う思った。
目覚めたら、真っ先に涼二に文句を言わなきゃ。
そして、新しい土蔵にまた書くのだ。
今度はさやかと3人で。

(了)

May 08, 2006

◆月の着信を受ける窓<7>◆

テーマ:◆モノガタリ降る夜◆
noon

[window]


丘の頂上には、石碑がある。
良くわからないないようの漢字がたくさん並んでいて、
それはよく、だるまさんが転んだの柱になっていた。
今なら読めるけど、何となく読めないままにしておきたい。
読めなかった自分に、会いにきたから。
その反対側に立つと、町が一望できるようになっていた。
「ほら、あっち側が二葉の実家。そんで、もう少しこっちが、
俺の家。」
もうだいぶ明るくなった町は、もうすぐ動き出すのだろう。
街灯も明るさに紛れ始めている。
「わかんないよ、ちょっと待って。」
身を乗り出す私に、涼二は丁寧に教えてくれた。
「あの小学校のちょっと右側に工房の赤い屋根が見えるでしょ
う?
 そこからちょっとだけ、右を見てみて。」
涼二が指をさすその方向に、
かろうじて小さく見えたその家は、本当に涼二の家なのかわか
らないけど、
でも。
「近くまでこれて、
 でも遠くから見るだけでよくて、
 離れがたいのは良くわかったよ。」
私は精一杯そう伝える。
「二葉、ありがとう。」
いつのまにか月の着信は途絶え、
やわらかな朝日が辺りを包み始めていた。
私達は、ずっとその方向を見つめてたちつくしている。
あたたかな感情は、見つめられる涼二の家まで届いただろうか

いつかこの日のことを思い出すときは、またここに来たい。
そして二人で眺めたい。
もし結婚しても、子供が出来ても、美咲を思い出して泣いても

私とここにきたいと思って欲しい。
たくさんの思いを抱えていると、自然と手を繋いでいることに
気付いた。
「二葉、ありがとう。」
少し鼻にかかったその声で、涼二の気持ちが空気と闇と光に溶
ける。
たぶん、私達は大丈夫だ。
「涼二、ありがとう。」
細い指を握り締めて、私は思う。
私達は、何も手に入れていない変わりに、何も失ってはいない

今も。
これからも。

May 07, 2006

◆月の着信を受ける窓<6>◆

テーマ:◆モノガタリ降る夜◆
noon

[green]


「多分俺、今見たら泣くと思うんだよね。」
角をあと一つ曲がったところで着くというとき、
クラウンは立ち止まった。
「絶対泣くね。」
私は即答した。
「勝ち誇るなよ…」
涼二がまっすぐ前を見る。
「カメラとか、もってきてないの?」
「写真なら、ちょっと前に撮ったからいいんだ。家の中も、土
蔵も。」
あ、もちろん二葉と一緒にじいちゃんに閉じ込められたとき土
蔵の壁に二人で書いた言葉も。
いらんものまで写真に写すなよ。
私たちはそう言い合う。
ハンドルを握る細い指。
やがて意を決したように涼二が私を見た。
「二葉、一緒にあの丘から見てくれない?」
「どうして?」
小さい頃さぁ…俯き加減で話す。
「あの丘全部をテリトリーにした缶ケリとか、かくれんぼとか
したでしょう?
 ずっと見つけてもらえなかったらどうしようかなと思って、
 あの丘から自分ちの方向ばっかり見てたんだよ。
 今、なんかそんな感じなんだ。正面からじゃなくて、遠くか
ら探すよ。」
あのときの心細さは、私だって忘れられない。
だけど、思い出したい。
「うん。」
時計は4時を回ったところで、
夜は朝に向けて青く光っていた。

丘のふもとの小さな児童公園に車を止める。
記憶よりもずっとずっと小さくなっている。
「図体ばっかり成長しちゃった感じがするよ。」
クラウンのドアに、微かに着信する月の光。
「そうだね。」
乾いた空気を吸いこむと、葉っぱと木陰の匂いがする。
丘に続く道を二人で歩き始めると、急速に沈黙が降りてきた。
児童公園を抜け、少しだけ急な上り坂を、頂上に向って歩く。
東の空を背にしているので、少しだけ朝はまだ、私達のそばに
は来ない。
丘へ続く道は一本だけれど、当時子供の狡賢さで無理やり作っ
た道があった。
思い出した位置でたちどまり、
笹をかきわけると、やはりでてきた。
踏み固められた剥き出しの赤土。
「…まだあったんだ。」
いつのまにか、前を歩いていた涼二もそばに来ていた。
「無くなっても、いつか見つけ出すよ。」
さっきの言葉の、返事の変わりになっただろうか。

May 05, 2006

◆月の着信を受ける窓<5>◆

テーマ:◆モノガタリ降る夜◆
noon

[キヲク]


記憶と記憶の間には、
曖昧でぼんやりした境界線が横たわっていて、
何か少しでもはみ出してくれれば、
その境界線はいとも簡単に崩れて記憶同士がじかにふれあい、
忘れていたものまで思い出させてくれる。 
けれど過程を誤ると、その思い出はずっとずっと奥深くに仕舞
い込まれて、
次の機会を待たねばならなくなる。
美咲の思い出はいま、そのきわどい狭間にあって、
だからこそ私達は慎重にに取り出すのだ。
真空から取り出すと、たちまち酸化してしまう美しい何かのよ
うに。


「二葉は、本当はもっと深い話しが出来る子なのに、
 いつも俺なんかの相手させて悪いね。」
実家まであと一時間足らずとなったところで、
コンビニに寄り道した。
深夜のコンビニというのは、なぜこんなにわくわくとしてしま
うのだろう。
調子にのって、普段は絶対に行かないような日用品のコーナー
まで見てしまう。
…箱ティッシュが一つ315円もする。
普段安売りの5ハコ二百円のティッシュを使っている私が
「たっかいなー…」
なんて独り言言っちゃった後にそんなこと言われましても…
ちょっとばつが悪くなっているのに、
そんなことお構いなしに一緒に日用品コーナーに佇む涼二。
俺なんかの相手、ってなんだろう?
こうして深夜に会うことは嫌いではないし、
幼い頃から一緒にいるということが幸いして、
お互いの考えていることがつかめるという男女関係は苦になら
ない。
「私は楽観主義者なので、ね。はは。」
答えになってないのを知りつつもそう言い置いて、
ぎこちなく日用品コーナーから遠ざかる。
日用品のコーナーに居続ける涼二は、
見つけてもらいたくてわざと迷子になった子供のように所在無
さげだ。
それをちょっとだけ眺めたら何だか満足したので、
ガムとチョコとコーヒーを買った。それから紅茶も。
コーヒーの飲めない従兄妹のために。


深夜の下道のくせに、なかなか気がぬけない。
少し前、少し前といっても自分の中でだけだったんだろうとい
うことを思い知らされる。
確かにこの辺りは田んぼが延々と続いていたはずなのに、
ちょっと見ない間に住宅化が進んでしまったらしく、
真新しい家がポツポツと立ち並んでいる。
そのたびに、なんだか違う町に迷い込んでしまったようで、
心細くなる。
小さい頃良く登った丘は、
あの頃よりずっと低い位置にあるように見える。
新しいものが増えるのに、淋しくなるってどうしてなんだろう
ね。
何かが無くなるより、よっぽど前向きなのにね。
そう口にしようとして、かろうじて思いとどまる。
それはきっと、涼二が感じている何かと同じ種類のもので、
新しいものが全て良いとは限らなくて、
何かにさよならをしなければ得られないものだってあるんだと
いうことを。
そして、さよならをしたからといって、
新しいものが古いものの代わりになってくれるなんてことは、
ありえないことなのだと。
「…当たり前か。」
ぼそっと涼二が呟いた言葉が、あまりにも私の考えの続きのよ
うな気がして、
ちょっとびっくりする。
今、考えてること一緒だったりして…
ガムを噛む音が妙に頭の中にガリガリと私の中に響く。
「二葉、俺、最近美咲のこと思い出す。」
全く違う話題にさらりと入る年上の従兄妹は、
いつもはっとさせるようなタイミングで大事なことを言う。
つらいところを過ぎるとケロリとするかわり、
深く沈むときは惜しげもなく感情を晒すのは、地なのだろうか

「新しい何かが手に入りそうになると、いつも美咲のことを思
い出す。
 忘れたくないって思う。
 美咲は、こんな思い出し方をしたら怒るかもしれないけど、
 俺にはそうすることしかできない。」
小さく呟くと、窓の外の月を探す。
この年上の従兄妹が掴むハンドルを見つめる。
あまりの正直さに、かける言葉が見つからない。
色素の薄い目。
意思の強そうな唇。
親戚中の誰よりも(たぶん妹のさくらよりも)美咲に似ている
私を通して、
たぶん涼二は戸惑って、苦しんで、やっと言えたのだろう。
涼二は美咲と一緒に、どこかに行きたかったのだろうか。
誰かを愛し、死んでいった美咲と。
私は、いつのまにか抜けた住宅地を抜けていることに気が付い
て、息を吐く。
月はいつのまにか私の隣りに移動して、
助手席の窓に、その着信を繰り返していた

May 04, 2006

◆月の着信を受ける窓<4>◆

テーマ:◆モノガタリ降る夜◆
noon

[blue]


「二葉は、自分ちがなくなったことがないからそんなことが言
えるんだよ。」
散々考えたあげく最初に出てきたのは、
なぜ私を誘ったのか?という確信をついた問いになってしまい

言ってから、しまった、と思った。
…泣くかも。
けれど予想に反して涼二は、かみ合わない答えをだす。
少し拗ねたような言葉尻に、安堵する。
実家までの距離は、高速で二時間弱だ。
だけど深夜だし、空いているから下道を通ろう、
と一人呟いて、黙って私も賛同した。
この際好きなようにさせてやるのだ。
「二葉と一緒なら、余計な感傷に浸らずに冷静に見れるんじゃ
ないかと思って。」
切り返しようがなくて黙っていたら、ようやく噛み合った。
「嘘。ただたんに二葉の今住んでるアパートが近かったから。
 さやかなんて誘ったらこっちに来るまで何時間もかかるから
な。
 …美咲はもう、いないし。」
とってつけられたような最後のフレーズが妙に浮いていて、
そんなことなら無理して言わなくても良いのにと思う。
…要するに。
従兄妹の中でも一番楽観的な私が選ばれたのだ。
多分住んでいる場所など関係ないくせに。
車で何時間かかろうが例えその人がこの世にいまいが、
あっさり迎えに行く人だ、この人は。
妙に納得しながら、うんうん頷いていたら、
「…何年経つ?」
と涼二は自らその話題に踏みこんでゆく。
心底不器用なんだなこの人、と思う一方で、
私は、死んでしまった美しい従兄妹と、自分の年を思う。
「3年。」
口に出した言葉の軽さと、その年月の重みとを、
望んでもいないのに突然味わって、
それが苦いのか切ないのか、解らなくなる。
二人とも遺骨を直視することができなくて、火葬場で号泣して
から3年も経つ。
あの空の青さは反則だった。
「そうね、3年ね。あいつ今、どこにいるんだろう。」
私の存在などお構いなしに矛盾する問いを惜しげもなく晒すの
が、
この人の偉いところだと、私は常々思っている。
カーステレオから小さく流れるラジオが、2時を告げた。
「…深夜の、もっと深いところに。」
否定したり意見したりするすべを持たない私ができることは、
ただここにいるということだけだろう。
そして少し許されるなら、その悲しみを二人でいながら一人で
感じることくらいなのだろう。
涼二は3年前に、私は昨年、彼女の年を追いぬいてしまった。

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