「人がすぐ辞める」チームの“リーダー”に決定的に足りないもの

 

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ホスピタリティ・コンサルタントの船坂光弘氏は、著書『接客・サービス業のリーダーにとって一番大切なこと』にて、人がすぐに辞めてしまう職場のリーダーには“あること”が足りていないと語る。

人がすぐに辞めてしまう職場と、辞めずに定着する職場。その違いは、リーダーが「あること」をしているかいないかどうかの差だという。接客・サービス業の現場リーダーを数多く見てきた船坂光弘氏に解説してもらった。

※本稿は、船坂光弘著『接客・サービス業のリーダーにとって一番大切なこと』(PHP研究所)の一部を抜粋・再編集したものです。

離職率の高い職場は「空気が冷たい」

最近、私が経営者から相談を受ける中で、「うちの会社は離職率が高い」「新しいスタッフを採用しても、すぐに辞めてしまう」といった離職に関する相談が増えています。

また、その相談を受けて、私がそれらの企業にうかがった際に総じて感じるのは、「離職率の高い職場は空気が冷たい」ということです。

外部の人間である私が事務所内に入って行っても、挨拶も無ければ、スタッフ同士の笑顔も会話も見られません。このような職場環境では離職率が高いのもうなずけます。

一方で、離職率が低い職場にはある共通点があります。それは職場に「ありがとう」と「笑顔」が溢れていて、職場の空気が温かいという点です。

気がつくと、みんな号泣していた

ある地方のトリミングサロンで、「最近、スタッフ同士がギクシャクしているのでなんとかしたい」という相談を社長から受けました。

そこで、私がインナー・ホスピタリティの研修を提案して実施した際に、メンバー同士で「お互いにありがとうを言おう」というワークをしました。これはメンバー10名が一人ひとりに「ありがとうを伝える」という、ただそれだけのワークです。

ある新人は、「〇〇先輩、いつもトリミングの技術を教えていただき、ありがとうございます!」。
あるベテランスタッフは、「〇〇ちゃん、いつも朝早く来て、店のオープンの準備をしてくれてありがとう」。
店長は、「社長、こんな私を店長にしていただき、ありがとうございます」。

普段思っている感謝の気持ちを一人ひとりの目を見ながら、心を込めて伝えていきます。すると誰からともなく泣き出し、全員が伝え終わる頃には、全員号泣していました。

私が「みんなどうしたの?」と聞くと、

新人は、「みんなの足を引っ張ってばかりいて、私はこの職場に必要ないと思っていたけど、みんなが私のことを見てくれていて嬉しい」。

店長は、「上司らしいことは何ひとつできていなくて、みんなから嫌われていると思っていたけど、私のことをこんなに想ってくれていたなんて感動した」。

ここから、このトリミングサロンは結束を固め、その年、過去最高の売上を達成しました。私はこのような経験を他企業でも何度も経験しています。

みんな「ありがとう」に飢えている

このことから分かるのは、感謝の気持ちをお互い伝えられている職場が意外に少ないということです。スタッフたちは「ありがとう」に飢えています。

「ありがとう」は相手に対する承認を意味し、お互いを承認し合える職場環境であるかどうかは、全員がお互いを信頼し、安心して働けるという点においても重要であるということを物語っています。

また、笑顔に関しても、私たち接客・サービス業の仕事の目的は本来、「お客様の喜びやしあわせに貢献すること」のはずなのに、「仕事はつらいもので、楽しく仕事をすることは悪」といった職場風土をいまだに感じることがあります。

しかし、笑顔は、「しあわせを実感できる」「親しみやすくなる」「話し掛けやすくなる」「お互いが元気になれる」といったメリットがいっぱいです。

このように、職場にありがとうと笑顔が溢れていること、たったこれだけで離職率の低下に繋がることをリーダーは理解し、まずはリーダー自らが常に笑顔で、事あるごとに「ありがとう」を伝えることから始めていきましょう。

メンバーの「心の栄養」を満たす方法

「リーダーの皆さんは、部下の心の栄養を満たしていますか?」

私がリーダー研修をするときに、まずリーダーの皆さんに必ずさせていただく質問です。

接客・サービス業は、私たちの接客やサービスを通じてお客様の心を満たす仕事です。その仕事において、スタッフの心が満たされていないのに、お客様に良いサービスが提供されるはずがありません。

それでは、どのようにすればメンバーの心を満たすことができるのでしょうか?

それには、やはりリーダーの普段の声掛けや心掛けが重要です。

交流分析で「ストローク」という理論があります。これは、相手の心の栄養を満たす行動やしぐさ、心掛けを示しており、度数で表現され、度数が上がるほど相手の心の栄養が満たされていくという考え方です。

 例えば、朝の挨拶で言えば、

・「おはようございます」と言葉を発すればストローク度数は1度数
・「アイコンタクト」が伴えば、ストローク度数は2度数
・「名前を添えれば」3度数
・「笑顔」が伴えば4度数

という具合に、ストロークが増えれば増えるほど、相手に自分の気持ちが伝わり、相手の心の栄養が満たされていくという考え方です。

 そのほかにも、

・部下を「褒める」
・部下の話を「うなずきながら聞く」
・「ありがとう」と感謝を伝える

といったひとつひとつの行動が、部下の心の栄養が満たされる大切なストロークです。

部下へのストロークを怠っていたら…

前職のホテル支配人だったとき、私はこのストローク理論に出会うまで、部下に対して自分から積極的にコミュニケーションを図ろうとしていませんでした。

そんなあるとき、ある部下から呼び出され、
「支配人、退職させてください」
と突然言われました。

理由を聞いたところ、「支配人は私がこのチームに必要な存在だと思いますか?」と泣きながら訴えられたのです。そうです、私は彼女にストローク、つまり心の栄養を満たすような声掛けや行動を何もしていなかった、そして彼女に対して無関心だったのです。

幸い彼女は辞めずに、私の部下としてとどまり、その後も長年勤務してくれました。その一件で猛省した私は、それ以来、出勤しているスタッフ全員に積極的なストロークを心掛けるようになりました。

例えば、部下を見かけたら、「おはよう、調子はどう?」「今日は、打ち合わせが多くて大変だね」「最近、遅くまで残業してくれて助かるよ、ありがとう」といったように、必ず声を掛けるようにしたのです。

お互いに心の栄養を満たし合うことによる成果

 

出典:船坂光弘(著)『接客・サービス業のリーダーにとって一番大切なこと』(PHP研究所)

「それぐらいのことで……」と思うかもしれません。しかし、このようなリーダーのちょっとしたひと言により部下の心の栄養は満たされ、その満たされた心がお客様に笑顔で向き合うことを可能にします。

声掛けのほかに私が実践したのは、休みのスタッフのデスクで仕事をして、普段ストロークが行き渡らないスタッフと会話をすることでした。また、定期的に席替えをして、私とメンバーだけでなく、メンバー同士のコミュニケーションの活性化も図りました。

これらの取り組みから感化されたメンバーも次第にストロークを意識し始め、当時の激務の中でも、不満や愚痴を言うメンバーは一人もいませんでした。

まずは出勤メンバー全員に、必ず最低1日1回はリーダーから話し掛けることから始めてみてください。