『バベル九朔』 | 鞭声粛粛、夜本を読む

『バベル九朔』

 

バベル九朔バベル九朔
1,728円
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  万城目学と書いてマキメ・マナブと分かる読者が増えたのは、 『 鴨川ホルモー 』 や 『 鹿男あをによし 』 で幅広い年齢層の意表を突いたためでしょう。快感、快走の物語でした。その後 『 プリンセス・トヨトミ 』  『 とっぴんぱらりの風太郎 』 でガス欠っぽくなり、 『 バベル九朔 』 (角川書店、初版2016年3月)に至っては、交差点のど真ん中でエンストして物語が音もなく終わる、と言ったらいいかもしれません。

  一人の読者として万城目学さんに期待したいのは、 『 鹿男… 』 などで読み手の予想を見事に超えた物語展開であって、 『 バベル九朔 』 で描いた亜空間や異次元、時間軸のゆがみなどのありふれたSF題材の羅列ではありません。文章は巧みなのですが、肝心の物語に新鮮味を感じられませんでした。

  未消化のまま筆を進めて、力業で終結させた節もうかがえます。異次元やタイムスリップ小説は必ず生じる矛盾をいかに軽やかにごまかせるかが見所です。ラストシーンも意味不明でした。尤も、かなり好意的に解釈すればメビウスの輪を暗示するものでしたが、従来のマキメ・ワールドらしくなく、新しいマキメ・ワールドと言うほどの分かりやすさも感じられませんでした。次回作に期待しています。