桂米紫のブログ

米朝一門の落語家、四代目桂米紫(かつらべいし)の、独り言であります。


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師弟関係というものが廃れつつある昨今ではあるが、噺家の世界は別である。

上下関係というものの根強く残る我々の世界だけは、いまだに師匠の門を叩き、数年間の内弟子修業を経ない事には、プロとして認めてもらえない。

僕も師匠都丸の元へ入門した平成六年からの三年間、自宅からの通い弟子ではあったが、ほぼ毎日を、師匠宅で修業期間として過ごさせてもらった。

毎日落語の稽古をしてもらえる訳ではない。
三年間のほとんどの時間を、師匠のお宅の家事手伝いをして過ごす。

二十歳になるかならずの、それもそれまで親の元でしか生活をした事のない人間には、家事を覚えるのも一苦労だ。
しかし慣れて来ると、そんな家事の中にも得意な仕事と苦手な仕事というのが出てきて、僕の場合は洗い物とアイロンがけは得意分野だった。
おかげでいまだに腕は落ちていない。

反対な嫌いだったのは、庭の雑草抜きの仕事だった。

当時の師匠のお家には(広くはなかったが)裏庭があり、夏場は勝ち誇ったように雑草が生えた。
狭い庭でもこれを全て抜くのは、汗と土にまみれながらの半日仕事になった。

中でも曲者は、太い茎をした、少しでも放っておくと一メートル程も伸びる頑丈な奴である。
三十分もこれらと格闘していると、腰は痛むわ、気味の悪い虫やミミズは出てくるわで、一体自分はこんな仕事をするために噺家になったのだろうかと、惨めな気持ちになったものだ。

しかし修業も二年目を過ぎる頃ともなると、だんだん要領を心得てくる。
言いつけられた裏庭の草はきっちり抜かなくてはならないが、隣家との境目の狭い場所に生えた雑草は、師匠や奥さんの目にはまずとまらぬという事を知り、僕は手を抜いてこれをほったらかす事にした。

修業期間は、毎日のようにあらゆる事で師匠や奥さんから叱られる、落胆と失意の連続である。
僕も幾度、このまま逃げて帰ろうかと考えた事か…。

僕はほったらかしにした、隣家の雑草の事をすっかり忘れていた。
夏も終わりに近づいたある日、僕はふとその雑草の事を思い出し、もうあれは自然に枯れてしまっただろうかなどと思いつつ、隣家との境を覗いてみる事にした。


何と、あの曲者の図太い雑草に、花が咲いていた。

それは醜い花ではあったが、その逞しさに、僕はひと時完全に心を奪われた。


雑草も花を咲かす…ひょっとすると僕もいつか、花を咲かせる事が出来るかも知れないなと思うと、僕は急に、その雑草が愛しくなった。



…夏になると、そんな事を思い出す。


桂米紫のブログ-夏.jpg
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