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~ドイツ・オーストリア・ハンガリーの最先端IoT事情~

 


  昨年一般財団法人インターネット協会の理事長に就任して直ぐに手がけたことが、私自らが委員長を務め、2つの委員会を立ち上げることでした。その目的は、今後のインターネット業界にとって新市場になると目されるIoT(Internet of Things:モノのインターネット)と、最先端の技術交流先として日本との関係が比較的薄かった中欧地域に着目し、当社も含めて当協会加盟企業のビジネスチャンスを創出することでした。
 約1年間、両委員会とも、専門家や大使館との会合、シンポジウムによって調査研究と意見交換、実証実験の準備などを行ってきました。この1年の活動をふまえて両委員会合同の中欧視察団を組織し、短期間(本年10月16日から23日)ではありますが視察を行うこととしました。その概要を皆様にご報告させて頂きたいと思います。

 

 

1. 何故、中欧でIoTなのか?


 インターネットの接続対象がヒトからモノへと拡張されることで最初に市場が立ち上がるのは、個人消費分野よりも機械を多く用いる産業分野だと考えられます。従来から、日本の産業構造の特徴として、企業間取引は、ほとんどの産業分野において、数社の大企業を頂点とする「ピラミッド型多重下請構造」となっています。このことは、業界の「垂直統合型関係」を形成しており、インターネット的ではありません。一方、私自身交流のあるドイツ、オーストリア、ハンガリー等の中欧地域は、Industrie4.0を提唱しているドイツをはじめ、古くからギルドなど職人組合が形成されてきた歴史があり、専門技術に特化した中小企業が多く活躍しています。このため、企業間取引は、対等型の「水平分業型関係」を形成しており、インターネットを導入するのに相応しい「水平型協調構造」となっています。このような背景から、中欧地域のIoT事情を視察し、技術交流やグローバル共同事業への発展の可能性を探ってみることとしました。

 

2.訪問先とその活動概要


(1)ミュンヘン(ドイツ)10月16日~18日

①フラウンホーファー研究機構
 ドイツに67の研究拠点を有する欧州最大の応用科学の国際的研究機関。政府機関ながら企業からの委託研究で外部資金を70%も獲得し、ドイツと欧州のGDPの成長に大きく貢献し続けるオープンイノベーション拠点なのです。特に、企業からの委託研究の50%は中小企業であることが特徴です。基礎研究のマックス・プランク研究所と対照的な、応用科学を研究テーマとし、23,000人以上のスタッフを抱え、年間予算総額は20億ユーロ(約2400億円)を超えています。この独自の資金獲得手法である、「フラウンホーファー」モデルは、IoT時代にさらに効果的に機能しているように思えました。

②ミュンヘン工科大学発ベンチャー企業のNavVis社
 同社は、「世界中の室内3次元空間データをデジタル化する」企業で、GPS衛星信号が届かない室内の3次元計測を計測移動機『M3 Trolley』で計測します。同機は、6個のTVカメラと3つの赤外線レーザー計測装置を装備しており、世界中の室内空間220億㎡のうち公的スペースの50億㎡を同社の対象市場だと位置付けています。ミュンヘン工科大学は、トップレベルの大学ですが、世界を目指す大学発ベンチャーが出てくるところが、日本と大きく異なるところです。因みにこういうベンチャー指向は、東欧系の留学生や研究者から出てくるのです。

③バイエルンミュンヘンスタジアム
 75000人収容の世界最高レベルのサッカーチーム(バイエルン・ミュンヘン)が保有するホームのスタジアムでは、センサーで測りながら、人工太陽で48時間単位に半分のコートを切り替えて自然芝生をケアしています。今後は、満席状態が続く75000人の観客向けの同時接続可能な移動通信システムの実現が課題ですが、これは、今私自身最も注力しているIoTインフラとなる5G(第5世代モバイル)の世界です。

④BRAGI社
 BRAGI社は、3年半前にデンマーク系の起業家が設立したイヤホン・コンピューティングの会社です。BRAGIとは、デンマークの北欧神話の雄弁と詩の神の名前で、コンピュータプラットフォーム業界で市場創生しようとする意味が込められています。VRなどは、目を遮るために限界があり、メガネにディスプレイを付ける例が進行していますが、イヤホン・コンピューティングであれば、安全です。このコンピュータは、超小型化が進んでいて、27個のメトリック(測定項目)を有するものです。

 

(2) ブダペスト(ハンガリー)10月18日~20日

①3社意見交換会(Cellum、JobControl、Gravity)
 私が親しくしている元駐日ハンガリー大使のアレンジで、FinTechの中欧代表格のCellum社、人事管理ソフトウェア企業のJC360社、強力なレコメンデーション・エンジンのGravity社のトップが参加し意見交換を行いました。
 ハンガリーは、数学者でコンピュータの基本原理の発明者=フォン・ノイマン、インテル創業者の1人=アンディ・グローブ、マイクロソフトOfficeを開発したチャールズ・シモニーなどITの世界のレジェンドを輩出してきた国で、特にソフトウェアの開発センスは、世界一のレベルにあります。

②IVSZ(ハンガリーICT協会)
 ハンガリー唯一の情報通信業界団体。約500社が加盟。40%中小企業、30%スタートアップ、10%ハンガリーのグローバル企業、10%海外企業。IT教育、輸出、IoT、農業ITなどの部門があり、政府への提言を行っています。1年半前にデジタル円卓プログラムを開始:各業界とIT専門家との対話の場が開設。問題となっているテーマは、デジタル人材不足の解消とのこと。デジタルトランスフォーメションの実現へ向けてIT専門家に加え、デジタル文化への理解の深い人材育成を実施予定。大学教育では、IT定員の増加と農学部にIT教育を融合した取り組みを開始したとのこと。初等中等教育では、「情報」を別科目としてではなく全教科にITを組み込んだカリキュラムへ変更予定。

③MOHAnet Mobilsystems社
 同社は、IoTセンサー・アクチュエータ端末と統括管理するクラウド(HERIOSサーバ)を運用するIoTサービスプロバイダーです。ユーザー企業に対するリモート監視サービスを主業務としています。マイクロソフト社による中東・欧州賞を受賞したとのことです。

④AITIA International Informatics Inc.
 CEOが日本に50年前に留学で縁が深い。NTTのATM網の非侵襲モニタリング、音声認識、室内ナビゲーションのソフトウェアを手掛けていたとのこと。特殊分野での受託ソフト開発が得意。

⑤AISS社 
 小売業IT支援企業で、顧客にいつでもインターネットで、また、店舗で情報を得られる環境を整備。店のKiosk端末で500万人が利用19カ国で事業、5秒ごとに価格更新、オランダの導入例で40%売上増加に寄与したとのこと。

⑥ITWare社
 モバイルアプリなどの開発ツールAPPWareを提供し、アプリ開発期間を大幅に短縮可能に。
これまで、自社でもアプリ開発を行い、また共通クラウドプラットフォームKOJIMORIを提供。

⑦Commsignia社
 2012年設立。2015年本社を米国へ、V2X(Vehicle to X)開発に特化しハンガリーで実施。
自動運転に関わる衝突防止の仕組などを実用化。ハンガリーの大学だけではなく東大とも共同研究を実施。ITS国際標準化とシステムの開発に注力。

⑧Stylers社
 高トラフィック・高負荷のビジネスポータルのソフトウェア開発とメンテナンス、モバイルアプリの開発とメンテナンス、ユーザーエクスペリエンス・デザインに注力。メディテーション・サービス・サイトやシングル・サイン・オンシステム等いくつかの開発事例を紹介。米国拠点として当社と同じサンディエゴに決定したとのこと。

 

(3) ウィーン市、リンツ市、コラーシュラグ村(オーストリア):10月20日~22日

①ウィーン市内アスペルン湖岸都市スマートシティ・プロジェクト
 期間:2004年プロジェクト発足、2009年着工、2030年完成予定。人口:6,000人(現在)から25,000人(居住予定)さらに25,000人就労予定。面積:240万㎡。都市計画研究:100世帯以上が参加しエネルギー消費データ等を蓄積。人工湖を造り、反時計回りに街づくりを進行。半分が郊外、半分が地方の雰囲気を創る“Soft Mobility”というコンセプト(公共交通に200~300mでアクセス可能)が特徴的。環境インパクトに配慮: 人工湖造りに掘り出された土砂を建設材料に再利用。CO2・臭気・騒音対策、人工湖の水が飲めるまで。“Social Housing Strategy”=“Subsidized Housing(公的基金からの部分的財務援助)”によって、低所得者でも7~10€(1000円前後)/㎡で入居可能(45~75㎡)。スマートシティとは、あらゆる階層の人々にとって住み易い街(低所得者も高所得者も隣接して住める街)と定義しているとのこと。

②オーストリア政府・デジタルオーストリア・リンツ市商工会議所(WKO)
 Industrie4.0のソフトウェアのコアは、このオーストリアのリンツ市にあります。同市には、惑星の法則を発見したヨハネス・ケプラーに因んだヨハネス・ケプラー大学を中心に理工学系が強く、Industorie4.0に関連した企業が88社、554件の特許が出願されウィーン地区よりも多いとのこと。ここを中心にICT(主としてソフトウェア)産業は、観光産業の6倍に成長。平均してプロジェクトマネジャーとプログラマで約200人の企業が多い。また、リンツ市の全産業は、8つのセクターで1900社が集積しているとのこと。ここでの人工知能研究の成果がザルツブルグの自動運転バスとボンバルディアの自動運転飛行機に活かされているとのこと。

③アルスエレクトロニカ
 リンツ市の保有する世界トップレベルのデジタルアートの研究機関で、2つの部門と2つの活動を通じて、デジタルアートとメディアカルチャーの分野で、国際的拠点を築いてきました。1)アルスエレクトロニカ・センター(未来の美術館として特に目を引くのは、マルチ8Kプロジェクタによる3次元映像です)、2)アルスエレクトロニカ・フェスティバル(1979年から始まる最先端のアート、テクノロジー、社会を切り取るフェスティバルで世界中から、専門家が集い、新しい繋がりを生み出しています)、3)プリ・アルスエレクトロニカ(この国際的なコンペティションは、1987年に開始、世界中のアーティストとのネットワークを育成し、またアートとテクノロジーの分野で最新のトレンドを発掘してきました)、4)アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ(1996年に開設。R&Dとしての役割を持つメディアアート研究所として設立。同ラボは、世界のビジネスとサイエンスのゲートウェイとして機能しており、世界中の企業との共同開発に取り組んでいます。子供たちが楽しめる展示物の開発も併せて行っています。また、MITメディアラボとの交流が盛んで、研究成果が展示されています。

④LOXONE社
 リンツ市からクルマで約2時間余り山間部へ向って走ると、レストランのないコラーシュラグという人口1000人の村があります。そこに地方創生に燃える2009年創業のハイテク企業=LOXONE社があり、約100名が働いています(全世界で250名)。同社は、急成長中のIoT技術を駆使したスマートホーム・ソリューション企業です。

 

3.中欧視察を終えての今後の展望


 IoTとはインターネット(Internet)でモノ(Things)を相互接続することですが、冒頭述べさせて頂いたように、最初の応用分野は、産業用であると考えられます。中欧は、日本とは、異なる産業構造をしています。すなわち、日本の企業間取引は、ほとんどの産業分野において、数社の大企業を頂点とする「ピラミッド型多重下請構造」となっているのに対して、中欧地域では、専門技術に特化した中小企業が多いため、対等型水平分業型関係を形成しており、「水平型協調構造」となっています。 「フラウンホーファー」モデルも当事者から聞くことで実感が持てました。中欧地域は、フラウンホーファー研究機構との共同研究で最先端技術への挑戦も続けていますが、特に中小企業が元気だとの印象を受けました。元気な中小企業は、意志決定が早く、IoTの導入にしても、もうすでに始まっているという印象を受けました。IoTについては、派手な米国のシリコンバレー型や産業構造上の課題を抱える日本と異なり、中欧地域にこそ、企業間取引や地方創生をよく考慮した地道なIoTの世界が始まりつつあると思いました。さて、今回の視察には、ドイツ、ハンガリー、オーストリア各国政府の多大なる協力がありました。今後は、インターネット協会と中欧地域との関係を深め、新たなグローバルIoTビジネスを創出していきたいと強く思いました。

 

平成28年10月27日
代表取締役会長兼社長CEO
藤原 洋

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