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 来る2013年4月1日に、日経BPコンサルティング社より、『技術を作る ~知の本流からのメッセージ2013年版』が発行されることとなり、私にとっては、人生においても、経験においても、また経営においても、さらに学術研究活動においても大先輩の皆様と共同執筆させて頂く機会を得ることができましたので、僭越ながら、感じたままを述べさせて頂きます。

政権交代を繰り返さざるを得ない日本経済が転換点を迎える中で、本書のタイトルが示す通り、我々テクノロジー系企業の経営者にとりましても、今こそ原点に立ち返り、「技術を創る」ことが、最も重要なことだと再認識致しました。

元来、豊橋技術科学大学は、日本の高度経済成長を支えてきた全国各地の優秀な人々をじっくりと無駄なく教育する5年制の高等工業専門学校卒業生向けのキャリアパスとして学部および大学院修士課程を備える新設大学として1976年に設立されました。あれから30年以上を経過し、長岡科学技術大学と共に社会的役割が変化する中で、豊橋技科大では榊佳之学長のリーダーシップの下、時代の変化に対応した数々の変革を実行されています。

注目に値するのは、愛知県(豊橋)という世界のトヨタ自動車グループ企業が集積する地の利を活かし、第1に産学連携を積極的に進めておられることです。第2に、特にセンサーチップを自作可能な半導体プロセス等、理論だけでなく実践を重視した教育研究環境を整備されていることです。第3に、他の研究教育機関と積極的な提携をされていることです。

今回、豊橋技術科学大学の特別講義プロジェクトに、私もご縁を頂き、産学および他大学との連携と実践的教育研究の具体策として実施されている、大学院の博士後期課程学生向けに開講している特別講義「バトンゾーン特論」「開発リーダー特論」「異分野融合特論」という一連の講義を行いました。その中でも、榊佳之学長ご自身が「榊プレステージ・レクチャーズ」として企画された7人の講義録を書籍化したのが、今回発行されることとなった本書であります。

本講は、産業界のリーダーやノーベル賞候補クラスの研究者を講師として招き、受講生が将来、経営や技術開発のトップまたはリーダーとして活躍するための「科学技術をベースとした産業を日本発で創る」ノウハウを伝授する授業として位置づけられているものであります。また、博士課程の学生だけでなく、学部学生や広く一般にも公開された授業です。

私も、7人の講師の1人として、呼んで頂いたので、真剣に準備をして講義に臨みましたが、学内外の方々と熱心な議論をさせて頂きました。そのようなインタラクティブな経緯があったことから、本書に含まれている学生との質疑応答等は、特に興味深いものとなっております。
 本書の内容ですが、第1講義では、世界的経営者として有名なトヨタ自動車の張富士夫会長が、トヨタ自動車が初めて本格的な海外生産を開始したケンタッキー工場の総責任者としての体験を中心に企業の国際競争力の源泉について述べられています。

第2講義は、私の担当で、動力革命、重化学工業革命に続いて起こった現在進行中のデジタル情報革命とその次に来つつある第4次産業革命の時代の到来について述べています。第3講義は、トヨタ自動車・林南八技監(トヨタ自動車で最高峰の技術者の称号を技監と言います)が、危機管理を考慮したものづくりとしてのトヨタ生産方式の本質を述べられた上で、更に進化と深化を重ねられている具体的な考え方を披露されておられます。

第4講義は、世界初のリチウムイオン電池を苦労して発明された旭化成の吉野彰さんの実例に学ぶ研究開発成功の秘訣が見事に記述されています(正にノーベル賞候補の研究者です)。第5講義は、学力と研究力について考えるというテーマで豊田工業大学の榊裕之学長(当然ながらノーベル賞候補クラスの研究者ですが偶然にも私の東大博士号の恩師の原島博先生の同級生だったことで親近感を持たせて頂きました)による、とにかく研究というものに対する姿勢が世界の誰もが納得させられてしまうお話が満載です。

第6講義は、「感動しつつ、良い雰囲気のもとで研究しよう」という入り易いテーマでお話しされている東京理科大学学長の藤嶋昭先生は、ノーベル賞候補級の研究者でありながら入口を工夫されており理科を楽しく学ばせてくれる心の広さを感じさせてくれる独特の講義録です。第7講義は、「カーボンナノチューブの科学と産業応用」というタイトルでお話下さった、文化勲章受章者の名城大学教授でありかつ世界的企業NECの特別主席研究員でもあられ、更に、産業技術総合研究所ナノチューブ応用研究センター長であられる飯島澄男氏(いつもノーベル賞候補の研究者)の奥深いお話です。

私は、京都大学と東京大学で学ぶ機会を得ましたが、豊橋科学技術大学で見た世界は、今までとは異なる世界でした。それは、榊佳之先生のお創りになった独自の学の世界と共に世界をリードするトヨタ自動車グループという歴史に刻まれる産業の世界が融合した地域と時間と空間があったからだと思います。

歴史と地域はいくら資金を投下しても予測通りには変えられるものではありませんが、時代に対応できるビジョンを持つことができれば、時代を変えることも可能だと考えます。欧米が産業革命に突入する260年という長い年月に亘って日本が鎖国をしていたことはハンディキャップでもある一方、独自の文化を育んできた側面もあったかと思います。

科学技術立国日本の将来を見据えて主役であるべき我々民間人は、不断の覚悟と決意で挑戦を続けるべきだということを豊橋技術科学大学の特別講義プロジェクトを通じて再認識させて頂きました。是非、株主と投資家の皆様も一息ついて本書をお読み頂ければ幸いに存じます。


平成25年3月26日
代表取締役兼社長CEO 藤原 洋
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