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 IT業界特有の業界用語として「バズワード」があります。その対立語をあげると「キーワード」になります。改めて私のIT業界35年の経験を振り返ると常にバズワードとなったテーマについて、技術者として、また技術管理者として、そして経営者として取り組んできたように思います。そこで今回は、私自身の体験から見たバズワードとキーワードについて述べみたいと思います。


●バズワード(buzzword)とキーワード(Key Word)とは?
バズワードとは、一見学術専門用語に見える流行語、具体性がなく明確な合意や定義のない用語を指します。また、当初は、定義されている専門用語でも流行語になると本来の意味から逸脱して使われるようになった用語やさらには定義が曖昧な用語を意味しています。IT業界のバズワードの例をあげると、ニューメディア、Web 2.0、クラウドコンピューティング、SaaS/PaaS/IaaS(HaaS)、ニューロ、マルチメディア、ユビキタス、ライフハック(IT業界の仕事術)等がありました。
一方、キーワードとは、鍵 (key)となる言葉 (word)、重要な言葉、特定の意味が備わった言葉、特定の意味を与えられた言葉、ヒントを探す検索の手掛かりとなる言葉、特定の問題を解く鍵となる有用な言葉を意味しています。その意味では、曖昧で不特定な抽象表現やありふれた日常用語はキーワードになりません。


●私自身の体験から見たバズワードとキーワード
(1)LAN(Local Area Network)
LANは、電話網等の広域通信網(Wide Area Network)と対立語で構内通信網のことですが、1973年米ゼロックス社パロアルト研究所のロバート・メトカフによるEthernetの発明に始まり、1980年代前半に米国のIEEE(電気電子技術者協会[学会])で標準化が進みIEEE802が登場して流行語になりました。その頃、私は、日立グループに務めており、LANの開発エンジニアでした。私が中心となって開発したFieldnetは、半導体工場等の産業用でヒット製品となりましたが、モジュラージャック付きのLANケーブルや無線LANは、それぞれIEEE802.3とIEEE802.11標準として今でも利用されており、キーワードとなりました。

(2)ニューメディア
1980年代半ばに当時ベンチャーの雄として注目されたアスキーに転職した私は、マイクロソフトFE本部でMS-DOSパソコンや家庭用パソコンMSXを用いてCATVや電話網によるビデオテックスを用いて、グラフィックスや静止画を扱うニューメディアシステムの開発を担当しました。電電公社(現NTT)の横須賀電気通信研究所や長野県諏訪市のCATV局と共同実験を行いましたが、事業化には至らずニューメディアはバズワードの域を出なかったと思います。

(3)マルチメディア
1980年代後半には、通信業界ではマルチメディア通信ブームとなり、通信網は、音声に加えて、データと動画像を送ることがテーマとなりました。ISDNやATM(Asynchronous Transfer Mode、非同期転送モード)と呼ばれるデジタル通信サービスをNTTが始めた頃です。パソコン業界ではCD-ROMを内蔵したマルチメディアパソコンが話題となり、データに加えて、音響や静止画と動画を扱う製品が次々と登場しました。私は、その頃、官民共同プロジェクトでMPEG(デジタル動画の国際規格)関連研究と標準化のリーダーとなりました。その結果、アルゴリズムと半導体の研究開発に没頭し、BSのハイビジョン放送方式でアナログ方式との競争の末、デジタル放送方式が国家標準として採用されることとなりました。MPEGに代表されるマルチメディア符号化は、新市場を創ったことからマルチメディアはキーワードとなったと言えます。

(4)インターネット

私は、官民共同のデジタル動画の研究開発を国際的に推進するために1980年代後半~90年代前半に共同研究を目的として米国ベル通信研究所に滞在していました。この頃、米国でも研究機関だけに利用が許されていたインターネットに触れることができました。そこで、私は必ずインターネットの時代が来ると確信しました。官民共同プロジェクトが一段落した1996年にインターネット・インフラの研究開発型ベンチャー企業として(株)インターネット総合研究所(IRI)を設立し、IRIはKDD(現KDDI)等と合弁の日本初の商用IX(インターネットエクスチェンジ)=JPIX、NTTドコモ向けモバイルインターネット、NTT東日本・イーアクセス・アッカネットワークス・USEN・ヤフーBB向けのブロードバンド・インターネットの構築支援を行いました。そして日本初の専業インターネット・データセンター会社としてグローバルセンタージャパン(現ブロードバンドタワー)を設立しました。私自身黎明期から深く関わってきたインターネットは、かつてのマルチメディアをも吸収して社会インフラとなりましたが、紛れもないキーワードとなったと言えます。

(5)ユビキタス(語源は“神はどこにでも遍在する”という意味のラテン語)
1991年に米ゼロックス社パロアルト研究所のマーク・ワイザーが“Ubiquitous Computing”という概念を提唱したことに始まり、2004年には日本で総務省がユビキタス・ネットワークを基本としたu-Japan政策を推進したことで一大ブームとなりました。2002年に、IRI内にユビキタス研究所を設置し、2004年に当時IRIグループ企業のタウ技研(株)を(株)IRIユビテックに社名変更し、その後、同社は2005年に上場し、(株)ユビテックとして現在に至っています。また、(株)ユビキタスが2007年に上場したり、NTTドコモにユビキタスサービス部が創設されたり、実体のあるキーワードとなったと言えます。


●ビッグデータはバズワードかキーワードか?
ビッグデータは、2009年頃から提唱され始めたIT業界における新たな専門用語です。2010年10月、インディアナ大学のヨハン・ボーレン准教授が1億人のアクティブユーザーを誇るツイッターを分析し将来の企業の株価を86.7パーセントの精度で予想しました。大量の非構造化データを蓄積・分析する「ビッグデータ」は、既に、Eコマースサイト等で操作履歴から次なる購入製品を自動的に推奨するレコメンデーションエンジンやSCM(サプライチェーンマネジメント)で実現しています。また、間もなく感染症のパンデミック予測や視聴率調査への適用が確実視されています。近い将来には、リスク管理、株価や不動産価格予測への活用が期待されています。

2012年には、私も構成員を務めた総務省ICT基本戦略ボードにビッグデータWGが発足しましたが、当社では、2012年6月からビッグデータ・ビジネスコンソーシアムを主催することとし、経済産業省等の協力を得て、業界中立の立場から様々なビッグデータビジネスに関する情報交換、法制度改正等の政策提言等を行っています。こうして、当社は、ビッグデータ市場創設と発展に寄与することを通じて「ビッグデータをバズワードからキーワードへの転換」を実現していく所存であります。


2013年2月25日
株式会社ブロードバンドタワー
代表取締役 会長兼社長CEO 藤原 洋
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