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カルビー、じゃがいもの安定調達の陰にデータあり

ITmedia エンタープライズ 7月22日(火)11時12分配信

 「カルビーのポテトチップス」――。このフレーズを目にして、TVコマーシャルに登場するタレントなどが歌うメロディがすぐさま頭に浮ぶ読者は多いはずだろう。

 1975年に「ポテトチップス うすしお味」を発売して以来、「コンソメパンチ味」、「のりしお味」をはじめとするロングセラー商品を世に生み出したほか、トレーディングカードのおまけ付きで子どもたちの心をつかんだ「プロ野球チップス」など、老若男女問わず、幅広い層に愛され続けているのが、大手スナック菓子メーカー・カルビーのポテトチップスだ。

 現在カルビーでは、ポテトチップスのほか、「じゃがりこ」「じゃがビー」などじゃがいもを原料とする商品をポテト系スナック、「チートス」や「ドリトス」といった商品をコーン系スナック、「フルグラ」などの商品をシリアル食品、といったカテゴリーに分類している。言うまでもなく、その中で主力事業となっているのが、ポテト系スナックである。

 売り上げは好調で、2014年3月期のポテト系スナックの売上高は1118億8800万円と、カルビーの売り上げ全体の56%を占める。また、ポテトチップス商品に関しては、他社も含めた日本における市場全体の約7割のシェアを持つほどだ。

 その反面、ポテト系スナックへの依存度が高過ぎることが事業リスクになるとも言えなくない。過去にも原料となるじゃがいもの不作でポテトチップスの容量を減らすなど苦肉の策を余儀なくされたことがあった。そうした中で非常に重要となってくるのが、じゃがいもの安定的な供給である。それに向けてカルビーグループでは、数年前からさまざまなデータを駆使して不作のリスクを抑制するとともに、収量の増加に取り組んでいる。その中心的な役割を担っているのが、カルビーのグループ企業であるカルビーポテトだ。

●どうやってじゃがいもを安定的に調達するのか

 北海道でも有数の畑作地帯である十勝平野。その玄関口に当たるとかち帯広空港に降り立つと、果てしなく続く、青々とした農地が眼前に広がる。ここ十勝地域では、主にじゃがいも、小麦、豆類、てん菜(ビート)のいわゆる「畑作4品」の生産が盛んである。カルビーポテトはこうした十勝地域の拠点都市である帯広市に本社を構える。

 カルビーポテトは、じゃがいもの安定供給を図るため、1980年にカルビーの原料部門の分離独立によって設立した。主な事業内容は、じゃがいもを中心とした農産物の調達、貯蔵、物流、加工販売、研究開発、栽培などで、じゃがりこやマッシュポテトを製造する帯広工場も持つ。

 カルビーポテトが調達するじゃがいもは年間23.5万トン。これは実に日本全体のじゃがいも収量の約1割に当たる。そのうち北海道での収量は18.6万トンで、このほか長崎、岐阜などの地域で収穫されている。さらに細かく見ると、約1100の契約農家を抱える北海道では大きく十勝、網走、上川の3エリアに分かれ、最も収量の多いエリアが十勝(10.2万トン)となる。日本では現在、ポテトチップスの原料となる生のじゃがいもを輸入することが規制されているため、いかに北海道でのじゃがいもの調達がカルビーグループのビジネスにおいて重要であるかが分かるだろう。

 現状では商品の製造に必要なじゃがいもの供給が十分にできているわけだが、親会社であるカルビーの売り上げ成長に伴い、2018年には30万トンのじゃがいもが必要になるという試算が出ている。従って、約7万トンという現在とのギャップをいかに埋めていくかが今後求められてくるのだ。加えて、悪天候や疫病などによっていつ不作になるか分からないというリスクとも常に隣り合わせなのである。

 さらには、農業人口の減少も無視できない問題だ。北海道のじゃがいも農家数は、1985年には約2万5000戸あったのが、現在は約1万戸と減少の一途をたどっている。1人当たりの栽培面積が増えている一方で、じゃがいも栽培は手間がかかるため、小麦に転作する農家も少なくないという。実際、ある労働生産性に関するデータを見ると、じゃがいもは124時間で約4万円なのに対し、小麦は13時間で約1万5000円と効率が良い。

 また、カルビーがポテトチップスの原料に使うじゃがいもの品種は、主にトヨシロ、スノーデン、キタヒメの3種類であるため、仮に既にあるじゃがいも農家にアプローチするにしても、例えば、男爵やメークインなど、栽培している品種が異なればすぐさまの契約は難しい。収量を伸ばすために契約農家数を増やすという手段は、実はハードルが高いのである。

 つまり、カルビーポテトとしては、現在の契約農家を中心にしてじゃがいもの収量を上げていくとともに、収量を下げないために不作のリスクをいかに少なくするかという2つの挑戦課題を抱えているのである。それらを解決に導くべく同社が積極的に取り組んでいるのが、多種多様なデータの活用である。

●緑化と種イモの関係を明らかに

 カルビーポテトが本格的にデータ活用に乗り出したのは2004年ごろのこと。それ以前はじゃがいもの栽培などに関して契約農家それぞれの経験や勘に頼っていたところが大きかったが、リスクの少ない、より効率的な調達を可能にするため、科学的な視点を持ち込んだ。そこで生産者に関するさまざまなデータを収集し、データベース化することを目指した。

 データ収集にあたっては、契約農家に情報提供やアドバイスを直接行うフィールドマンと呼ばれる社員が農地を1カ所ずつ定期的に回り、生産者ごとに品種、生育地、土壌、収量、肥料、その都度の生育状態(茎の高さや開花時期など)、前年度実績といった細かなデータを集めていった。最初の数年間はデータベースを充実させることにとどまっていたが、「今ではある程度のデータが蓄積されているので、そこからさまざまな傾向が見えるようになった」と、カルビーポテトの研究部門に当たる馬鈴薯研究所 栽培技術課の小野豪朗氏は話す。

 このデータベースの活用によって得られた成果の1つが、品質の高いじゃがいもの栽培である。2009年、契約農家のじゃがいもに緑化が大発生した。じゃがいもは光(日光や蛍光灯)に当たると緑色に変色(緑化)し、ソラニンという有害物質が生成される。もし収穫したじゃがいもの一部が緑化した場合、ポテトチップスなどを製造する前工程で、その部分を削り落さなくてはならない。当然のようにその作業は人手で行うしかないため、本来であれば必要のない無駄な時間やコストがかかってしまう。

 では、緑化を防ぐにはどうすればいいのか。カルビーポテトが契約農家の生育データを分析したところ、種イモを植える深さに関係することを突き止めた。その基準は15センチ~17センチ。すなわち、種イモの位置が15センチより浅いと緑化する確率が高いことがデータから分かった。一方で、17センチよりも深く植えても腐敗などのリスクが多く見られたという。そこでカルビーポテトでは、契約農家に対して緑化を防ぐための最適な培土の方法やタイミングをレクチャー。その結果、翌2010年には、例えば、上川エリアの剣淵では前年比で緑化が62.5%減、同じく美瑛では56.5%減と大幅に改善された。

 そのほかにも、栽培開始から2カ月で茎の高さが20センチまで伸びているかどうかが正常な生育の判断基準になるということもデータ分析から導き出された。

 このようなデータの活用によって、人為的な判断ミスなどによる不作のリスクを極力減らし、より安定的なじゃがいもの供給が可能になったとしている。それに伴い、収量予測の精度も年々高まっているという。

●気象データで疫病を予測

 上述したデータというのは、人的に生成されたデータである。カルビーポテトでは、こうしたデータに加えて、自動的に生成されるデータの活用も推し進めている。それが北海道内の5カ所(十勝3カ所、網走1カ所、上川1カ所)に設置した気象センサシステムから得られるデータだ。2008年に運用をスタートしたセンサシステムは、気象データでじゃがいもの収量予測精度を高めることを目的に、気温、降水量、湿度、風向、風速、日射量などのデータを収集している。それらのデータは10分ごとに自動的にサーバに送られ、担当者が分析を行っている。

 データの具体的な活用の一例が、疫病の初発予測だ。収集した気象データと、病害虫発生予察などを行う専門機関「北海道病害虫防除所」が考案した計算式を組み合わせて、独自の疫病予報を契約農家に向けて提供する。この取り組みの効果はてきめんで、予測の精度もさることながら、疫病対策の情報も提供することで「多くの契約農家がこまめに情報をチェックし、適確かつ迅速に対策を講じられるようになった」と小野氏は強調する。

 実際には、まだテスト運用の段階であるため、発展の余地は大いに残されている。小野氏によると、将来的は衛星データなども活用して、「畑を掘ったり、茎の長さを測ったりせずに、より精度の高い収量予測ができるようなデータを作り上げたい」と意気込む。

●農家が利益を享受する仕組みを

 このようなデータをより高度に活用していけば、「必ずや収量アップにつながっていく」と小野氏は自信を見せる。現在、同社の契約農家では平均して1ヘクタール(ha)当たり35トンのじゃがいもが収穫できている。これを1haで40トンにまで収量を上昇させるのが当面の目標である。

 農家のモチベーションを高めることも忘れてはいけない。データを駆使して収量を伸ばしたり、緑化や疫病を早期に感知して不作を未然に防いだりするのは、農家にじゃがいもを作り続けてもらうため。彼らが安定して生計を立てられるように、それに必要な環境を提供することがカルビーポテトの責務だと考えている。

 「農家にとっては利益が出るかどうかが大切。そうでなければ、じゃがいも栽培から離れてしまう。それを防ぐために、カルビーポテトでは出来る限り農家の手間を減らして収益を上げるような仕組みを作っていかなければならないのだ」(小野氏)