マーケットインとプロダクトアウトの向こう側
~二元論を超えて~

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2008年03月31日 紀伊信之


マーケットインとプロダクトアウト

 マーケティングを勉強したことがない人でも、「プロダクトアウト」と「マーケットイン」という言葉は聞いたことがあると思います。改めて説明するまでもないかもしれませんが、念のために確認しておくと、一般的に「プロダクトアウト」というのは技術や製造設備といった提供側からの発想で商品開発・生産・販売といった活動を行うこと、「マーケットイン」とは市場や購買者という買い手の立場に立って、買い手が必要とするものを提供していこうとすることを指しています。
 少し前まで、これらの言葉は、「うちはどうしても技術屋発想だから駄目だね。もっとお客様のことを知って、プロダクトアウトからマーケットインへと発想を転換しないと」といった文脈で使われることがほとんどでした。ところが、最近では、「プロダクトアウト」も見直されていて、「提供側からどんどん提案していくべきだ」という主張がされることもあります。この主張の背景には、消費者やお客様は必ずしも自分が欲しいものを明確に知っているわけではなく、形のある商品として提示されて初めてそれが欲しいか否かの判断をするものだ、という認識があるようです。

重要なのは、自社の商品が「選ばれる」こと

 何故こうした議論が繰り返されるのか、といえば、「様々な市場調査で消費者の意見を聞いたけど、思ったほど売れない」「当社の技術はピカイチなのに、売れない」といったように、マーケットイン、プロダクトアウト、どちらの立場に立ってみてもどうもうまくいかない、という現実があるからではないでしょうか。
 インターネットの普及に伴い、「マーケットイン」を標榜して、一時期、「顧客の声を聞いた商品開発」がもてはやされました。しかし取組み事例の数ほど、それで大きな成果をあげたという話は聞こえてきません。「今の時代はプロダクアウトだ」と主張する人が指摘するように、「顧客の声」は万能ではありません。顧客や消費者を「よく知ること」と、「顧客にほしいものを聞く」というのは似て非なるものですが、この点は誤解されることが多いように思います。「顧客と共同で開発する」という取り組み自体をプロモーション・情報発信の一環として活用する場合はよいとしても、企業の根幹ともいえる商品企画開発を「本気で」消費者にゆだねるというのは、ある種の思考放棄のように思えてなりません。
 一方で、「顧客の声を聞いても、そこから画期的なイノベーションは生まれないから、プロダクトアウトでいいのだ」という主張についても同様に、思考放棄の危険があるといえるでしょう。自社の強みにこだわることは重要ですが、市場や顧客を無視してのプロダクトアウトは、「あたるも八卦、あたらぬも八卦」のリスクの高いものだと考えるべきです。
 以上のことを踏まえると、筆者は、そもそも、両者が二元論的に扱われることに違和感を覚えてしまいます。
 大事なことは、結果として、「他社ではなく、当社の商品・サービスを選んでいただくこと」なはずです。それが実現されるのであれば、発想の起点(きっかけ)が、市場のニーズにあろうと、自社の強みや技術にあろうと、それは大きな問題ではないのではないかというのが実感であり、現時点での筆者の結論です。顧客にとってこれだけ選択肢の多い今日、「自社を選んでもらうための違いをどこに見出すか」という視点を欠いていては、マーケットインであれ、プロダクトアウトであれ、目立った成果を上げることは難しいといえるでしょう。

商品開発の方向性を定める

 当社の商品・サービスを選んでもらうための第一歩は、一段高い目線に立って、そもそも当社は「どのようなお客様」の、「どのような喜び」を、「どのような強みによって」追求するのかという商品開発の方向性を定めることです。ここで強調しておきたいのは、この3つがセットになっていることがポイントだということです。すなわち、マーケットインかプロダクトアウトかといった二元論ではなく、自社がアプローチすべき市場と、磨くべき強みの両者を同時に考えておく必要がある、ということなのです。
 なおかつ、上記の方向性について、社内の関係者間でコンセンサスが得られていることも肝要です。その点が曖昧であるがゆえに、営業やマーケティング部門は、市場の中でも「誰」について知るべきなのかがわからないまま、目の前のお客様やお客様の代弁者を標榜する流通業者の意見に振り回されてしまいます。同様に、研究開発部門は、どのような強みに磨きをかけるべきかがはっきりしないまま、「独りよがり」といわれかねない研究テーマに没頭することになるのです。
 「どのようなお客様」の、「どのような喜び」を「どのような強みによって」追求するのか、このことについて「考える」のは、営業部門であっても、マーケティング部門であっても、研究開発部門であっても構いません。しかし、「決める」のは、経営者か、あるいは事業の責任者であるべきです。これこそ、経営において、もっとも重要な意思決定の一つだからです。
 経営者や事業責任者の方は、「うちの技術部門は市場を知らない」、「うちの営業が作れという商品は、よその二番煎じばかりだ」とぼやく前に、当社は今後、「どのようなお客様」の「どのような喜び」を、「どのような強みによって」満たそうとしているのかが、定められているか、それが正しく社内に伝えられているかを振り返ってみる必要があるのではないでしょうか。