財務大臣の「株売り」を考える/ドクターZ

現代ビジネス 3月30日(日)8時5分配信




財務大臣(財務省)が株を売る―マーケットでそんな光景を見ることがたまにある。相続税を支払えなかった人が物納した場合、財務大臣が現金化するためにその株を市場で売ることになるからだ。

素朴な疑問なのだが、こうした物納された株などを売るタイミングというのはどうやって決めているのだろうか。「財務大臣が売る=そこが高値」という連想をマーケットにもたらし、市場に影響を与えたりしないだろうか。そもそも財務大臣がいいタイミングで売ることなどできるのか……。

'06年の相続税法改正によって、物納手続きが厳格化された。

以前は物納申請から物納完了まで時間がかかっていたため株式の物納では売るタイミングが問題になることもあったようだが、この改正によって物納処理はスピーディになっている。

税金は金銭で納付することが原則。ただし、相続税については、延納によっても金銭で納付することが困難である場合には一定の相続財産による物納が認められている。

これを受けて、財務省では「物納等有価証券に関する事務取扱要領について」という通達が出されている。

それによれば、物納された上場株式について、処分方針として「関東財務局において委託証券会社と委託契約を締結し、金融商品市場を通じて速やかに処分する」とされている。

同様に処分基準については、「前日の金融商品市場の終値(前日の当該株式の取引がなかった場合は直近日の終値)の90%に相当する額以上の価格を予定価格とし、当該予定価格以上の価格で処分する」という。

言い換えれば、物納された株はすぐに売る、その前日の株価を10%下回らなければいいということになる。株価が1日で1割も値下がりするようなことはめったにないため、「即時売り」が基本になる。

となれば、売るタイミングも何もない。

考えてみれば当たり前の話で、本来であれば、相続税を納めるべき人が株を売却して金銭で納税するのが筋であるのに、その代わりに物納しているわけだから、税務署としてはすぐに現金がほしい。


同様に、物納を受けた財務省の役人に「物納された後のいいタイミングで売れ」というのは無理難題であって、「すぐ売る」以外に選択肢はなくなる。

というわけで、「財務大臣が売る=そこが高値」という連想も、マーケットでは生じない。

とはいうものの、物納された株式の売却について、機械的に即時処理しているのかどうかは疑問が残る。

通達では「速やかに」と書いてあり、「直ちに」や「遅滞なく」より曖昧な表現になっているというマニアックなツッコミもある。

確かに、日常用語としては3つともに「すぐ」という意味で同じである。

しかし、法令用語としては、理由はどうあれすぐに行わなければならないのが「直ちに」。正当な理由がない限りすぐに行わなければならないのが「遅滞なく」。

それと比べて、できるだけ早く行うがすぐに行わなくても義務違反とはならない「速やかに」は、前の二つより不徹底である。

売却が遅れた場合の万が一の言い訳として、役人根性丸出しで「速やかに」という用語を使ったのかもしれない。まあ、それでも、証券会社との委託契約までしているのだから、役人の気持ちとしては、機械的に「即時売却」したいのが本音だろう。実際の実務でもすぐ売却しているようだ。