2012-02-14 07:07:07

バトルボーラーはるか総集編 第一集 1・運命

テーマ:小説ー総集編
★ バトルボーラーはるか
 作・徳島郷土史研究家英樹(はなぶさいつき)

 私にもたらされた数々の奇跡は夢か現実だったのか・・・
 未だにそれがはっきりとしない― 

総序
 宇宙の森羅万象(しんらばんしょう)が引き起こす、数多なる事象を全て把握している人間はいない。しかし、人間には全てを知ろうと探求し、知る限りの情報を後世に残そうとする性がある。
古今東西、連綿と語り継がれてきた、おおよそ現代人には理解し難い、多種多様な伝説や神話・奇跡などは本当にあったのだろうか。検証するに値しない物から、大変興味深い物に至るまで、数は計りしれないが信偽は定かではない。それを証明する唯一つの確かな方法は、一つの常識では考えられない事象が発生した、まさにその時。自らが居合わせるという、幸運に恵まれた場合に限られると言えるだろう。
しかし、それもまた、あくまでも自分の中だけの真実であって、物証などは捏造(ねつぞう)と言われればそれまでであるし、公に認められ得る事ではないという事になり、結局、真相は闇の中であるが。それは裏を返せば、数十億の人類を、皆、納得させるだけの事実というのはないのかも知れないが、その数十億の人類の一人、一人が、全ての事実を知る術もないとも理解し得なくもない。
従ってそこから導き出される結論は、些細な事から途方もなく壮大な事柄に至るまで、ドコから降って沸いたのかは分からないが、私達が見聞きする全ての事象は、「存在した」と言う確証を得られないにしろ、「無かった」とも言い切れないとも言える。100パーセントを「無かった」と言い切れない以上、全ての事象は「存在」していたのである。
そう考えると、どうとでも取れる人類史に魅かれ、ハマっていった私は、次第とその研究の対象を広げていく内に、郷土史の持つ独特の面白さに気付き、愛好家となり独自の推理を立てるまでになっていて、自分で言うのも何だが、仲々の内容に仕上がっていたのだが・・・ひどく現実離れをしたその推理は、生涯私が吹聴(ふいちょう)してみたところで、せいぜい数名程度に広まるのみで、決して日の目を見ないであろうと思うと、もどかしさと共に残念さを感じ続けていた。
しかし、その推理はある一人の青年との出会いにより、単なる妄想から一気に世界を揺るがす壮大な物語へと変貌を遂げるのである。あまりにもウマすぎる展開に当初は私も疑りもした。しかしながら、彼の口から語られた内容は、既存の学問に見られない先進的な哲学や歴史観が含まれていて、これぞ世界史の本流であるとの確信を私にもたらしめた。
分かりやすく言えば、私が研究し、打ち立てた歴史の推理とは、あくまでも一般的に出回っている資料や歴史の教科書に記されている、年表上の出来事に対し、人とは違う解釈をしたに過ぎないのであるが、彼の話はその未来についてまでも示されていたのである。
ここで言う未来とは、現代に生きている私達が知る由もない、時間的な先行きという意味ではなく、歴史を研究した者ならば誰しもが思うであろう、先人達の不可解な行動や、有史以来、今もなお抱えている社会の矛盾点。つまりは、今まで恒久的(こうきゅうてき)に存在していた問題についての、「答え」を導き出したという意味だと理解して欲しい。
出来事としては、厳密に定義すれば超近代史というか、ごく最近に起こった時事であるが。幾(いく)万世(ばんせい)と続いた人類史の問題点は、その未来をもって初めて紐解かれるのであり、それにより前後のつじつまが合う事によってのみ、真実となるのである。ここまで語れば、どういう内容なのか勘のいい方は分かるかもしれない。
言うなれば、人類歴史の謎を解く鍵。幾多の研究者達が追い続けながらも得られずにいた、その推測と軌跡(きせき)。それを数学に例えるならば、式と答えが二律背反(にりつはいはん)している状態であったのが、イコールとなったのである。
もっと分かり易い例えをするならば、ミステリー小説を読み進めていっても、自分なりの推理では、犯人は当てにくい物だが、予(あらかじ)め最後のページを読んでいたならば、いともた易く推理をできることだろう、とでも言えば理解してもらえるであろうか。
今から私の語る歴史にそれを当てはめるなら、人類史の発端から生じた問題に関する事なので逆の遡(さかのぼ)り方をするのだが。且つそれが枝葉の歴史ではなく、世界史の根幹に関わる物と言えば、該当する物は限られてくるであろう。
結論から言えば、聖書にまつわる内容であるが。これまでの書物で数々の先見者達により、まことしやかに語り継がれてきた、世界の滅亡は人類がその出発の時点において{無くした物}があって、それが引き金となっていると総じて述べている。それを求め、その言葉に振り回され、国家は盛衰(せいすい)・興亡(こうぼう)を繰り広げ、現代社会にも暗い影を落としていた。それに対する答えが私にもたらされたのである。
長い歴史に暗躍(あんやく)し、今や世界を覆いつくそうとした闇の勢力。それを打ち砕かんと戦った光の戦士達。炎に選ばれた人類。その人類が{失くしたモノ}とは? 手にするどころか、見た者さえいないその{失われたモノ}には、とてつもない付加価値がつき、ロマン・至宝といった甘い言葉で飾り立てられ、人々を魅了し、狂わせ、ひどくは争わせるまでに至らしめた。
権力者から一個人に至るまで、関わった者達の人生をことごとく惑わし、時に奈落の底へと引きずり込むような恐ろしいモノ。そんなモノを、何故、人類はそれほどまでに欲したのか?この物語の核心に迫る事により、やがてそれらも明かされるであろうが。
むしろ私が知ってもらいたいのは、裏切りと謀略(ぼうりゃく)が交錯する熾烈(しれつ)な闘争を勝ち得た、この物語の主人公のひたむきで、清く、美しくあった歩みにある。彼女の歩んだ道そのものこそが、まさに現代に生きる我々にとっての至宝のように思う。
世界は一人の少女により破滅を免れた。その少女の名は、{爆炎の救世主 バーニング・メサイアはるか}
1.運命
徳島市(とくしまし)八万町(はちまんまち)大坪(おおつぼ)。私は何度もこの地を訪れていたが、目当ては少し先の神社であり、通り道として過ぎるだけであった。今では受験合格の神様に成り下がってしまったその神社は、ふる里の歴史に重要な役割を果たしていたという事を研究の末に知り。関連する情報を持つ地元の方達と交流を重ねていた。
 そんなある日。待ち合わせの前に昼食でもと思いながら、車を走らせていると、「まさかこんな所で!?」という場所で、一軒のお好み焼き屋を発見した。新し物好きな私は、県道沿いの食堂を軒並(のきな)み制覇してしまい、次なる所を探していたのだが。一本、道を入ればベッドタウンであり、昼間と言えば人影もまばらなこの辺りには、食事処などないという先入観を受けたゆえに、何気なく通り過ぎていた。しかし、お好み屋を発見した事によりよく見渡してみると、他に寿司屋と居酒屋も先の方にあった。
以前は理髪店でもやっていたのだろうか。そのお好み屋の店舗は、私の膝丈から下の壁の部分は赤レンガ風のタイルが施(ほどこ)され、そこから先はアイボリーのペンキを吹き付けられ、表面のケバ立った石膏(せっこう)のような壁があり。庇(ひさし)の部分は、下のレンガをもう少し赤黒くした色合いの、フェルトっぽい素材が貼り巡らされていて、それが所々剥がれかけている。建築家ではないのでうまく説明できないが、廃業した床屋を改装して、お好み屋にしたような造りだった。
見晴らしのよい道で、寄ろうかどうしようか迷っている内に、スピードの出ているマイカーが、あっという間にその店を横切ろうとしたが・・・丁度その時。店のドアを開け、出てきた一人の少女が視界に入って来て、その美しさに「はっ」とさせられた私は、もう一度確認しようと引き返したが、既にその姿はなかった。
 しばらくその娘を探そうと辺りを見回したが、どこにも見当たらない。仕方なく諦めると、お好みの匂いが鼻をくすぐったので、さっきまで少女の居た、お好み屋で腹ごしらえでもしようと足を運んだ。真隣りに駐車スペースがあったので、車をそこへ置き、十歩ほど歩いた先のドアへと向かう間の極めて短い時間を、めまぐるしく飛び交う憶測と回想とが随分と長く感じさせた。
女子高生ぐらいだっただろうか、芸能人や有名雑誌を飾るモデルを生で見たことはなかったが、あそこまでの美形はいないのではなかろうかというくらいの美形の少女。
私を特に引きつけたのは、別に変な趣味があって、少女をどうこうしたいという訳ではなく、郷土史研究に欠かせる事ができない道具の一つでもあり、助手席にいつも携帯している写真機で、彼女を撮映したいと思ったのである。
プロカメラマンになりたかった私は、美しい被写体を見ると、どうしても撮りたくなってしまう。風景にしろ、美人にしろ、そんな衝動にかられる出会いは、そうそうある物ではなく、千載(せんざい)一遇(いちぐう)の機会を逃せば二度と出会えないかも知れない。それを思うと、余計に切実な気持ちになる。美女に限らず、美しい物をファインダーに収め画像にした時の達成感は、言葉にならないほど大きな喜びをもたらしてくれるのである。
しかし、少女を肉眼でとらえたのは、車両にて走行中のほんの数秒であったので、幻覚というか、きちんと見れていたのかが、自分の中で冷静になってみると定かではなかった。なによりも、お好み屋に入ってみても、彼女の事が分かるかどうかは分からない。
もしかしたら家族や親戚かも知れないし、単なる一元さんかも知れない。などと、あれこれ考えを巡らせていた。
「お好み」と書かれた提灯(ちょうちん)が二つと、後はビール屋のロゴが描かれた提灯が吊られた庇(ひさし)をくぐり、いよいよドアに手をやろうとすると、壁の右端に赤杉だろうか、かなりの達筆で書かれた看板がフックとチェーンを使って吊るされている。
 「粉乃実・・・変わった名前だな。」
パッと見は冴えないのに、妙に看板にだけ趣(おもむき)のある様に、こんな目立たない作りでどうやって営業が成り立っているのかという疑問が沸いた。こう言っては何だが、こんな錆びれた風貌の店から、あんなにもカワイイ女の子が出てきたギャップに、増々、戸惑いの混ざった期待に胸が膨らみつつ突入すると。中は意外というか、こじんまりとして、小奇麗だった。
フタをすれば、普通の食台として使えるように、鉄板が落とし込みになっているカウンターが真正前にあり、一番に目に飛び込んだ。10坪ほどしかないであろう狭い店内。詰めれば4人は座れるだろうに、カウンターにはゆったりとした間隔で、椅子が三脚置かれている。
外見の入りにくさとは裏はらに、中はくつろげそうな感じがした。カウンターの先は厨房になっていて、非常に狭い空間に冷蔵庫や製氷器・シンク等が、両端に向かい合わせに据えられ、真ん中は通路になっている。さらにその先は絶壁かと思いきや、和服を着た子供が、輪になって遊んでいる風景が描かれたのれんが掛かっていて、奥から「ガチャ」っとドアノブを回す音と共に、のれんが蠢(うごめ)いたので少し驚いた。
どうやら開き戸があったようで、入店した私に気付き、かなり慌てたようで、少々乱暴な足音をさせ、中から現れた若者。その凛々しい姿に、先ほど一瞬だけすれ違った少女への驚きが、再び繰り返された。
年齢は二十代後半ほどだろうか。スマートな体格に精悍(せいかん)な顔立ち。
「いらっしゃい!!」と、柔和(にゅうわ)な笑顔から放つ歓迎の口上は丁寧で優しく。醸(かも)し出す雰囲気は、真面目・誠実というのを通り超え、どこか清く、高貴な物を感じさせる。俗世間(ぞくせけん)の垢(あか)に沿まっていないというか、住宅地のド真ん中にいる仙人という印象を、私は彼に受けていた。
矢継(やつ)ぎ早に起こる不可思議な体験に、あっけにとられていた私は、若い店主らしき青年の第一声を受け、少しずつ我に返りつつも、最初に抱いた疑問は絶えることはなかった。
 「何を焼きましょうか?」
青年はそう言うと、メニューと水を差し出した。
 「何かお勧めはありますか?」
とりあえず何か頼まねばと思い、まだ少し茫然としていた私は、彼に判断を委ねる事で心を落ち着かせる事に集中していると。小気味(こきみ)よいリズムで、彼は「豆焼きなんかどうでしょうか?」と言った。徳島では金時豆を甘く煮つけた物を、ちらし寿司などに加える習慣があり、昔はよくお好み焼でも入っているのを目にしていたが、久しく口にしていない。
一度、違う店で置いてあったので、注文してみたが、既製品の金時豆を使っていたようで、甘すぎ、幼い時に大好きだった味には程遠く。ほとんど残してしまい、その苦い経験があったのでためらうハズだが、考え事をしていたせいで、思わず頼んでしまっていた。
女性が奥の開き戸から「いらっしゃい。」と、笑顔で現れた。彼女もまた随分と若かったが、青年とはうってかわり、普通っぽく見えた。
 「奥さんですか?」
 「よく言われるんですけど、妹です。」
苦笑いしながら、そう答える青年とは対極的というか、人間的な妹が兄の存在をより際立たせ、同じ兄弟でこうも違うものかと目を見張った。
 「ご近所の方ですか?」
 「いえ、ちょっとした用事で、ちょくちょくこの近辺に立ち寄っているんですけど、お昼を食べようと思っても仲々、気にいる店がないんですよ。」
 「ここら辺って、店自体は結構ありますけど、食べたいトコってないんですよね。」
 「うーん。ナンかこう美味しく感じられないというか、その・・・。」
 「味付けが濃い・・・でしょ?」
 「そうそう。」
平凡な会話のようであったが、流暢(りゅうちょう)な話ぶりは、入店してきた時の妙に堅く、人慣れしていないような、ちょっと近づき難い第一印象とは全く掛け離れていて、私の探求心を刺激した。
世界史から端を発し、郷土史を掘り下げていく内に、小さな地域の些細な歴史や文化、それらは元来、一つの舞台を中心に枝分かれをし、今日に及んだと言う考えに至った。そうすると、対極的(たいきょくてき)見地(けんち)から照らし合わさなければ本当の郷土史の意味は理解できないと結論づけられた。
逆もまた然(しか)りで、世界史と郷土史には意外な共通点と相互作用があり、どちらから学ぶにしても、類似性を隠しえない。
誕生してより世界へと分布した人間達が、土地土地の風土に適した形に、オリジナルとなった文化をアレンジし、新しい生活環境ができた。そして新しい人間を生み出しという、分裂・発展が繰り返されてきたのだが。それによるズレが最も繁栄された物が郷土史であり、一部の権力者達によって動かされてきた大きな歴史よりも、ずっと複雑さと面白味がある。
それらの中継点でもあり、未来への発信源である、現代の人間自体の生い立ちや個性にも、その片鱗(へんりん)や名残りが見え隠れしているのだが、興味を引かれるには、個人レベルから世界的な物に至るまで、総じてどれだけ多くの謎というか、隠された部分が何かあるといったような、思わせぶりな所をどれだけ含んでいるかによるのだと思う。人それぞれに嗜好(しこう)や着眼点に差異があるだろうが。
私から見て、青年にはそんな謎の部分が多く感じられ、どんな歩みを経てきたのか非常に知りたくなっていた。今まで色々な所を渡り歩き、色々な人と知り合い、何人か興味の沸いた人はいたが、彼の醸(かも)し出す雰囲気は別格であった。
 彼の綺麗な言葉使いに、普段は方言丸出しの私まで、吊られて品のよい標準語にいつの間にかなっていた。
 「お店はいつ頃から始められたのですか?」
 「もうかれこれ一年くらいですかねぇ。」
 「えっ?全然、気付かなかった。」
失言だと思い口をつぐんだ私に、彼はこともなげに笑顔でこう答える。
 「いやぁ。全然、宣伝とかしてませんでしたからね。始めの頃は提灯さえ付けてませんでしたから、そう言われても、仕方ないですよ。」
増々もって、謎が深まる。スタートダッシュをかけなければならないハズの開業時に、何のアピールもなく細々と始めた営業。私に言われるまでもなく、彼は商売に関して、何をやるべきかくらい、分かっているに違いないのに・・・それらをワザとしなかった理由が分からない。
あれこれ考えている内に、注文していた豆焼きが、私の元に運ばれてきた。さっそく食べてみると、ほんのりとした甘味の豆がお好みによくなじみ、大変美味しく頂けた。その質の高さに反した店の外観といい、初めて会した時と今の感じとか語り口といい、彼の行動の端々には、何か不自然というか、解せない部分があり、気になってしょうがなかったのだが、寄り道や回り道をしてしまったせいで、待ち合わせの時間が近づいていたので、豆焼きを急いで食べ、ひとまずその日は引き揚げようとした。
青年は満面の笑みで「行ってらっしゃい!!」と私を送り出そうとした瞬間、ドアを開けて帰ろうとする私の背中に、蒼いオーラのような物が、「ブワッ」っという音と共に、覆い被さってきて、慌てて振り返ると、そのオーラは彼の体から発っせられていた。それを見た私は、驚きのあまり、よろけてしまった。
 「どうされました!?」
ひどく取り乱し、倒れ込みそうになった私を見て、慌てて青年が駆け寄る。
 「大丈夫ですか?」
 「えぇ。」
腕を引っ張りあげられ、崩れた体勢を立て直し、再び彼を見返したが、オーラは消えていて。不気味さを覚えながらも、言うに言えぬまま、その場を後にした。
 徳島県は考古学や世界史を語るにおいて、{聖地}になるかも知れないとゆう仮説を私は立てていた。その経緯の発端となったのは、私が高校生だった頃の、親戚宅の法事での他合のない雑談からであった。
読経(どきょう)を終え、膳を囲む席での四方山話(よもやまばなし)の中で、叔父の一人から、{阿波(あわ)の北方女(きたかたおんな)の夜這(よばい)い}という風習がある事を聞かされた。内容は言葉の通りだが、いきさつを述べると、その昔、源平の合戦に敗れ、四国山系の奥地へと命からがら難を逃れ、細々と暮らしていた平家の落人(おちうど)の後孫達が、近親(きんしん)交配(こうはい)を避ける為に人里へと下り、子種を拝借していたという内容。
当時、中国の歴史にハマっていたが、海を隔(へだ)てた異国の文化は、華やかではあったが縁が遠すぎた。マニアなら誰しも同じ気持ちを抱くと思うが、自分が好きになった物なら、直接触れたり、目で見たりして研究したいだろうし、それらを共有したり、新しい情報を得られる仲間も欲しい事だろう。まだインターネット等も普及していない時代。もっと身近で気軽にできる趣味はないかと探していた折(おり)、転がり込んできた郷土史。
試しに調べてみると、他にも訳の分からない話が続出し、更に深く調べあげてく内に、ある一定の所まで突き詰めると、グレーゾーンができるのだが・・・それを一気に世界史へと結びつける出来事が起こり、私に大胆な仮説をさせる事になる。
 ある夜に見た夢の中での事。ドコか異国の情緒漂う山々を見はるかす私。誰かに呼びかけられたようだが、全く自分に馴染みのない名であったにも関わらず、その呼びかけに応えていた。その名とは・・・{エリヤ}。
そう、確かにそんな響きであると認識できたが、私の身の回りはおろか、日本人にも存在しないであろうという感触に戸惑いながらもストーリーは流れてゆく。
どうやら私は、{エリヤ}という名称(めいしょう)で呼ばれる何かの指導者らしき人物であるらしく。対立する勢力に追われたり逃れたり、時には返り討ちにしたりと、八面六臂(はちめんろっぴ)のバイオレンスを繰り広げていた。まるで記録映画のように生々しく、目を覚ました後も脳裏に焼き付いたその内容が気になり、調べていく内に聖書へと行きあたった。
読み進めると、何と夢の中の光景と全く同じ内容が活字となり、書き綴られていて、私を驚愕させた。その体験をきっかけに宗教を研究し、やがて教科書にも記されていない、両者の密接なる関係に気づくのにそう時間を要さなかった。
 「卵が先か鶏が先か」という話になるが、宗教を中心とした民族が国家を形成し、枝分かれや離散(りさん)・融合(ゆうごう)をし版図(はんと)を拡げてきた中。現代人から見て不可解な過去の遺物や観念・神事・伝説・習慣などという文化の背景達には、それらのエッセンスとなった民族と彼らの信奉(しんぽう)していた宗教の教義に基かなければならないという結論に達し。郷土史研究のつもりが、地元の史跡等を巡る等の作業に止まらず、いつしか世界史・宗教論に至るまでを学ばねばならない羽目に陥った。
足かけ十年を費したが、一つの成果をようやく導き出していた。ユダヤ人の崇拝(すうはい)するユダヤ教の教えを最も色濃く残す日本神道。その発祥の地は徳島県であり、そこへ流れこんだユダヤ人達は、単なる一部が移住したというのではなく、その民族の主流である面々(めんめん)が、ある時期を境に丸ごと引っ越してきたのだ。
という事は、歴史上随一の宝物と目される、{ソロモン王の秘宝}が彼の地に眠っている可能性を示唆(しさ)していた。
そこまでは、他にも先んじて研究をしている方々が何人かいたが、私は、聖書を事細かく調べる事によって、ソロモン王の秘宝なる物が、具体的にどういう物であるかという持論(じろん)を確立し。共感を示してくれた同士の一人を尋ねて、よく訪れていた町の一つが八万町であった。「粉乃実、」というお好み屋に不思議な縁を感じた私は、八万町を訪れる度、そこで食事を済ませるようになっていた。
 「お近くにお住まいなんですか?」
足(あし)しげく通う私に青年がそう問いかける。
 「いやっ、全然違うんですけど、郷土史の研究で、この辺りをよく通るもんで。」
と、何気なく応えた瞬間。彼の表情が少し曇ったのを私は見逃さなかった。具合が悪いのかなとも思い、何も聞かないでおいたが、どうもそんな風ではなかった。ひょっとしたら気のせいかも知れない。
(ココには何かあるのか、それとも何もないのか?)少なくとも他の店にはない、ベールに包まれたような含みがあるのに、勤めて平静を装おうと青年はしているように見えるのだが・・・。これという決定的な物は何もなく、ただ積年(せきねん)の歴史研究で培った洞察力(どうさつりょく)と、勘だけが根拠という、極めて曖昧な物ではあった。しかし、それら無くして私の自論は完成しなかったのも事実であり、無視もできない。
場あたり的な心境で、そのような作用が働く訳がないのだが、今回に限っては、青年の行動が、ドコか鼻につくというだけの漠然とした物であり、状況証拠の極めて乏しい疑念であった。(何かこう決定的な出来事はない物だろうか。)と思っていたのだが。回を重ね、だんだんと慣れてくるに連れ、青年と私のコミュニケーションは、すっかり円滑になってしまい。当初抱いていた違和感や期待も薄らぎかけていた頃、事態は急変する。
 仲秋(ちゅうしゅう)の夜更けの事だった。八万町の知人宅で盛りあがり、遅くなった帰路の道中。いつも通り車を走らせ県道を横断し、「粉乃実、」まで50mほどの地点に差し掛かった。点滅信号を左右を見回しながら徐行し、再び加速しようと前を振り向くと、とんでもない光景が目に飛び込んできた。
な、なんと「粉乃実、」というお好み屋全体が、暗闇に蒼白い光を放ち、浮き立っている!?
(そんな馬鹿な!?)
閉店時間はとっくに過ぎているし、第一あの蒼い光は海の波のようにゆらめいていて、人工的な色彩とは思えない。その刹那(せつな)、更なる衝撃が私を襲う。
(ええぇぇーーーっっ!!!!)
思わず心の中でそう叫んでしまっていた。えらく細身の黒人の男性が、ち○こケース一丁のみのあられもない姿で、「粉乃実、」の前に立っているではないか。信じ難い出来事に、ド肝を抜かれた私は、交差点の真ん中で、体が固まってしまっていた。
ち○こケースにばかり目がいってしまっていたが、頭に動物の頭蓋骨(ずがいこつ)と背中に孔雀(くじゃく)の羽らしき装飾品をまとっている。けども、首からつま先までの体は、紛れもなく、ち○こケース一丁だけであり、ブラウン管の中で目にする光景であるなら、「もっと他の部分を着飾れよ。」くらいのツッコミを入れられる程度に冷静でいられるだろうが・・・文化も人種も大きく異なる徳島の地で、あり得ない現実を目の当たりにし、圧倒されるあまり、硬直は体だけに止まらず、頭の中が真っ白になり、ただただ、どうなるのかと成りゆきを見つめているだけであった。が、間もなくして傍観(ぼうかん)しているだけにもいかなくなる。
黒人の男性が店に入ろうとしたのだ。しかし、何かの力で押し返された。ほっとしたがそれも束の間。再び彼は歩みだし、今度はドアの手前で横向きになり、ドアを開けると、ザリガニように反転する形で尻の方から入っていった。どうやら、ドアにち○こケースがつっかえていたようで、入るのに手こずっていたようである。男の姿が消えると、それと共に蒼い光も消えていた。
時間にして、わずか数秒。あまりにも唐突で現実離れをし過ぎていて、つい今しがた起こった事なのに、事実として受け入れられずにいた。とは言うものの、新手の変質者か暴漢の類の輩であるかも知れないし、事件性がないか心配して、「粉乃実、」へと急いで向かい、しばらく監視していたが、何の騒ぎもなかったのでそのまま帰る事にした。
さっき見たものは幻だったのだろうか。徐々に平静を取り戻してきた車中。やがて自宅に辿り着き、一息つく頃には、「やはりあれは幻なんかじゃない。」という結論に達していた。そうなると、狐につままれたような釈然としない展開も、そこから先がどうなるのかが楽しみになり、私はまるで子供のようにウカれ、明日がくるのを、未開の地に踏み込む冒険者のごとき心持ちで、待ちのぞんでいた。
こんな気持ちになるのは、何年ぶりだろうか。予想だにしないハプニングも、肯定(こうてい)してしまえば、それくらいハラハラするものもなく。いろんな考えが頭の中を巡り、仲々、寝つけないでいた。しかし・・・いよいよ待ち望んだその瞬間が、想像をはるかに超える内容だとは、この時知る由もなかった。

 翌日。仕事を終え、さっそく「粉乃実、」へと直行した。
 「いらっしゃい。」
いつもと変わらぬ素ぶり。(昨日のあの出来事は幻ではない。)と思いつつも、やはり普通に接客されてしまうと、ちょっと面と向かっては言いづらく感じたが、さりげなく言うだけ言ってみようと、機会を伺っていた。
 「豚肉にイカとチーズ、お願いします。」
 「はい。」
 「稼ぎ時なのにちょっと暇そうですね。」
 「お昼はボチボチだったんですけど、夜はさっぱりですね。お客さんが何時に何人、来られるとかが分かってしまう機械があれば、準備とか楽でイイのになぁとか。暇だと、ありもしない馬鹿げた事考えて、時間を潰してますよ。」
 「ハハハ。商売って大変なんですね。」
と、和やかになる中、タイミングを計っていた私は、「ここだ!!」と思い、昨晩の出来事を会話に持ち出した。
 「そう言えば昨日、マスターのお店の前を通った時、えらく薄着の黒人の方がいらしてたのを目撃したんですけど。お友達ですか?」
 「えっ!?」
お好みの準備に勤(いそ)しんでいた彼の手が止まり、私の顔をじっと見据える。「どうしたの?」と、後ろにいた妹さんが声を掛けたが、耳に入っていない様子であった。
 「あの、間違ってたら、変な事言ってすみません。」
 「アーネストを見たのですか?」
 「えっ?? ええ。ち○こケー・・・もとい、サック一つで中に入ってきましたよね。」
 「・・・・」
しばし、自分の世界で考え込んでいる青年。
{アーネスト}というのは、私が目撃した黒人の名であろうか。ノリでうなづいていたので、補足しようとして、思わず女性の前ではしたない言葉使いをしそうになり恥しかったが。どうやら私が見たのは幻ではなく、現実の物だったようだ。
ついでにこの店に立ち寄るきっかけとなった。美形の女子高生の事も、茫然としている青年の頭を醒ますがてら聞いてみようと、少し私は大きな声を出した。
「あと、初めて来た日に、すごくかわいらしい女の子を見たんですけど、その娘って、どういう関係の娘ですか?」
 「はるかとも会ったんですかッ?」
 「はるか!?あの娘、{はるか}って名前なんですか?えぇ、一瞬だけど見ましたよ。顔も可愛かったけど、赤く染めた髪がすごく艶やかで印象的でした。良かったら一度、写真のモデルになって欲しいんですけど、駄目ですかね?」
 「あれは染めたんじゃありません。地毛です。」
青年の瞳が一段と鋭くなった。私は何か気に障(さわ)る事でも言ったのかと思い、黙り込んでしまい、視線を沿らしどうしようかとパニクっていると、一呼吸した彼がおもむろに語りだした。
 「・・・ついに現れたか。」
 「えっ?」
 「あなただったんですね」
 「???」 
私にはさっぱり意味が分からない。
 「これまであなたの話を聞いていて、ひょっとしたらと思っていたんですが。」
 「一体、何の事を言ってるんですか?」
 「今までに何か不思議な経験をした事がありませんか?」
 「不思議な経験・・・?」
 「以前、郷土史を研究しているとおっしゃってましたが、思いあたる節は?」
 「あぁ、それなら・・・」
マニアックな世界であったし、俄(にわか)に信じ難い話であったので、ある程度、歴史が好きな人や会話の流れの中で話題として出た場合にしか、詳細を口に出した事がなかったのだが。その中でも、青年が求めるような質問はされた経験がなく少し躊躇したが、独自の歴史観を築くに至ったきっかけとなった夢の話や、宗教史の話。その他にも、青年との間で起きた不思議な出来事についても喋ってしまい、変なヤツと思われるかなと、顔色を伺っていた。
しかし、彼はその話の一つ一つを神妙に聞き入っている。ひととおりを聞き終えたところで、彼は一度目を閉じると、開きざまにこう呟いた。
 「やはり。」
 「やはりって、私の話に何かあるんですか?」
 「えぇ。」
膨みのある言いまわしが、私の好奇心を最大限に盛りあげる。だが、それは序章にしか過ぎなかった。
 「あなたは歴史を継ぐ語り部として、今から私が話す事を後世に残す使命を託され、この店に遣(つか)わされたのです。」
 「はぁ~?」
あまりにも意味不明な青年の発言に、思わず私は、「トリビアの泉」の1コーナーで取りあげられた、感じの悪い「はぁ~」の言い方で、第三位に挙げられた言い方で返答してしまっていたが。彼は至って冷静だったので、私は、そんないい加減な態度を取ってしまったのを申し訳なく思い、気を取り直し真面目に話をしようと質問した。
 「語り部って、何ですか?使命って・・・何故、私に?」
 「分かりやすく説明しましょう。」
そう言うと、彼は、しゃがんで先端が鉤状(かぎじょう)になった金属性の棒を取り出し、立ち上がると天井へと翳(かざ)した。すると、「ガラガラガラー」っという音と共に、白い壁のような物が目の前に降りてきて、急だったので、私は驚き、座っていたカウンターの席から崩れ落ちそうになった。
 「大丈夫ですか?」
 「えぇ。」
青年が勢いよく引っ張り、静かな空間に、いきなり現れた形となったので、いささか狼狽(ろうばい)したが、よく見ると、それはただのホワイトボードであった。
 「これは?」
 「どんな形で訪れるかは私にも予想がつかなかったものですから。」
 「語り部という人がですか?」
 「えぇ。もしかして、我々のルーツや歴史について、全く知識のない方が遣(つか)わされるかも知れないし、イチから説明するなら、必要かと思い、準備してたのですが、あなたなら必要ないみたいですね。」
 「それはどうでしょうか。」
 「なんせ、二千年ぶりの事ですから、どうやってあなたを待ってればいいのかなんて、検当もつかなかったものですから。」
私の話を聞いた後での青年のリアクション。それに{ピン}ときたわたしは、
 「メシヤの再臨論(さいりんろん)みたいな話ですか?」
と、冗談っぽく言うと、彼は臆面(おくめん)もなく、こう答える。
 「まさにその物ズバリです。」
 「はぁ~?」
また失礼な言い方をしてしまったが、彼は気にもしていない。
 「本題に入りましょう。あなたもご存知の通り、南アフリカ辺りで生まれた人類。彼らが出発の時点から犯した{失敗}というのがあって、それが幾(いく)星霜(せいそう)を経た今もなお、後孫である私達人類の共通の認識として伝えられて来た。それは何らかの形で、それらを残して来た人々がいるからですよね。」
 「えぇ。」
 「それが{語り部}です。」
 「・・・・という事は、この地でそんな語り継がなければならない事が起きたのですか?」
 「えぇ。」
 「私の郷土史の話を聞き、あなたがその話を持ち出したということは、ソロモン王の秘宝にまつわる内容ですか?」
 「はい。」
 「すると、ソロモン王の秘宝に関連して、語り継がなければならない話と言えば、第三の聖書的な内容と受け止めていいのでしょうか?」
 「さすが鋭い。更に補足するとすれば、黙示録(もくじろく)以降の、聖書の後編という風になりますよね。」
 「つまり、今までの件から総括すると、ソロモン王の秘宝を巡る戦いが、この地で繰りひろげられたと解釈していいんですか?」
 「その通り!!」
 「うーん。」
歴史に対し、一定の造詣(ぞうけい)がある二人の会話はトントン拍子に結論へと辿り着いたのだが、彼は、私が研究した過去の資料のさらに未来を知っていて、私にその内容を伝授し、さらには後世に残す使命があると言い切る。
しかし、今までの彼との会話は、一般的な書籍や民間レベルの愛好家達の間では、定説となりつつある内容であり、そこに宗教的エッセンスを加味(かみ)すれば、理論上は成り立つというだけであって、理解はできても、それらの結末を見たという彼の主張を、そのまま信用できる理由にはならないと思った。
それならばと、彼にはまだ話してなかった定説とは違う、私独自の歴史観をぶつけてみようと思った。別にもったいぶって持論(じろん)を言わなかったのではない。宗教と歴史をミックスさせた独自の理論とは言っても、一般的な見識(けんしき)とそう大差がある訳ではなく、微妙なるが故に、専門的な話を詳細にした上で、述べなければならないので、誰と話した場合でも後に回ってしまうのである。
彼が本当に、既存の定説の未来を知っている者だとしたら、まだ話していない私の持論を伏せたまま、その持論に相当する箇所について質問をしてみる事により、喰い違いなり整合性(せいごうせい)なりが生じる筈であるので、そこを確かめれば、彼の言動の真偽(しんぎ)が明らかになる。
その部分とは、今、二人の間で取りあげられた{ソロモン王の秘宝}に関する解釈であり。世間一般の見解よりも、そう遠くない未来において、私の持論の方が、グローバルスタンダードになるという自信があった。
先を知っているというのなら、当然、私の意見にぴったりと繋がらなければおかしい。信用するかどうかは、その答えを聞いてからにしようと思っていた。信じられない反面、信じたいという気持ちはあったが、「多分、期待外れに終わるんだろうな。」というのが九割方で、残りはワクワクもしていた。
さて、どうなるのか。彼が私の望んでいる返事ができるのかという一点において、恐らく無理だという先入観が私の心中を勝ち誇らせていたのだが・・・。
 「ちょっといいですか?」
 「どうぞ。」
 「{ソロモン王の秘宝}って、一般的に言われてるのは、アロンの杖とか、マナの入った壷とかのことですか?」
 「あなたはどう考えているのですか?」
 「私は・・・・私は形では表せない物だと考えています。」
 「おぉ、まさか独学で{聖光炎(せいこうえん)}の事まで、ご存知でしたか。」
 「聖光炎????」
 「熱心によく勉強されましたね。」
 「何なんですか?その{聖光炎}って?」
 「あなたが言った、{形のない物}の呼び名です。水のように形がなく、水晶のように透き通り、ダイアモンドのように光り輝く炎。人類史上、初めてそれを手に入れた者が、そう名付けました。そしてその名が、創世記にもあるフレーズのように、未来において広く世間に認知されてゆく事になるでしょう。詳しい内容は、今から順を追って話しますので、聞いててください。」
 「ちょっと待って下さい。」
 「まだ何か?。」
 「確かによく出来た話のようにも思われますが、府に落ちない点があります。」
 「ドコでしょうか。」
 「あなたのお話は、私の歴史観にぴったり当てハマっているどころか、その先を行く内容が盛り込まれていて、大変興味深く、是非とも第三の聖書とおっしゃる、話しの続きを聞かせて頂きたいと思うのですが。その前に一つだけいいですか?」
 「なんなりと。」
 「私のような一介(いっかい)の青年が、聖書や歴史に名を残すような偉人と、たまたま立ち寄ったこのお好み屋で出会うという設定が、いかにも不自然で理解に苦しみます。」
 「そんなに謙遜(けんそん)されなくても。第一、聖書に載ってる人で、偉人なんていませんよ。イエス・キリストなんて、今でこそ崇め奉(まつ)られてますけど、生きてる時は惨々に皆でナザレのイエスだとか、大工の倅と罵られて馬鹿にされてたし。聖人とか呼ばれてる人達も、元を正せば、ただの一介の漁師だったりとか。まぁ、おっしゃりたい事は分かります。つまりは、あなたと私の出会いは確率論的にあり得ないと?」
 「ありていに言えば、そうです。」
予想だにしない青年とのやりとりは、私を興奮の坩堝(るつぼ)へと引き込んでいたが、ここで感じた、様々な不可思議な体験を差し引いても、スケールが大きすぎ、俄かに信じ切れない内容だった。歴史に見識(けんしき)がない者であれば絶対に信じられない事だろう。一度は彼に揺さぶりをかけ失敗したが、今一度、私は彼を試そうとしていた。
歴史に限らず、愛好者にとって、自分自身がその世界で後世の人達の研究対象となる物を残せるとしたら、名誉の極みである。私が彼の言う通りの選ばれた人間であって欲しい。そう思うからこそ、念入りに真偽を確かめる必要があった。「彼の挙動(きょどう)に不審な点や、説明の矛盾が少しでもあれば、すべては嘘であったという事にしよう。」、後世に伝えるというのだから、いい加減な事はできない。
彼と私の中での歴史の一致は、二人だけの間での事実であって、周知の事実ではない。だが、所詮は聖書や歴史の内容など、公に知られているからと言って、「お前、リアルタイムで見たんかい!!」と突っ込まれれば、何も言えない様な底の浅いものであるのが多い中。数ある資料を客観的に精査して、新しい発見という、自分の中での一つの収穫を得てきた私の結論は、そんな玉石(ぎょくせき)混淆(こんこう)の中にあって、本物を見分ける手だては、無心であれと言う事であった。
欲や雑念を捨て、誠実に作業を進める。そして、一番、妥当(だとう)だと思える答えを導いてゆく。その手法を今回に応用すればいい。即(すなわ)ち、{人を見る目}というケースにそれを置きかえるならば、青年自身を見て私がどれだけ彼を信頼できるかであって。それは、彼の今からの言動に表れるであろうと考えた上での質問であった。
あまりにも大きな話なので、同時に大きな疑念を持っていた私の心。そんな私の心をあっさりと解きほぐす答えを、青年は明朗(めいろう)かつ充分な説得力のある例えを用い、さらりと言ってのけた。
 「人の出会いとは、数学で片付くような代物ではありませんよ。あなたと私は、出会うべくして、出会ったのです。正しい心が、お互いを求め合ったのです。」
 「正しい心?偶然ではないのですか?」
 「偶然とは、全く因果関係のない所から、予期せぬ事態が介入する事を言うのです。人は、常に自分の人生を選択して歩んでいるのであって、その結果を偶然と言いますか?」
 「うーん・・・」
 「もう少し分かり易く私達の出会いに例えるなら、あなたと私は聖書や歴史に対して、世間一般とは違った解釈を持つ少数派です。そんな私達の出会いが、世界中の戸籍からコンピューターで無作為に選び出されたのであるならば、凄まじい偶然と言えるでしょう。しかし、実際にはお互い日々の生活をしながら、自らが考え行動してきた末の結果出会ったのです。つまり、あなたで言えば、あなたは郷土史にハマり、深く研究を進めていく内に、この八万町が重要な場所の一つだと考え、たびたび訪れている内に同じ意見を持つ私と出会った。というのは、既存の学問に飽き足らず研讃(けんさん)を積み重ねた末の結論であって、それは即ち、どれだけ多くの資料から取捨(しゅしゃ)選択(せんたく)した事でしょうか。そういう過程を経ての私達の出会いが、偶然と言えますか?」
 「偶然とは言いませんね。」
 「でしょう。私も、少しだけ立場が違っていたというだけで、あなたと同じ理由で、ここで生きていたのです。そして、あなたに独自の歴史観を構築せしめ、私と出会わせるまでに至らせた、そもそもの動機は、考古学や郷土史を愛しているからこそ、真実が知りたいという、純粋な心を持って求めたからであるので、{正しい心}と評したのです。」
 「運命という、ぶっ太い一本道を通って私達は巡りあったのですね。」
 「そうです。私達は、自らが人生を選び歩んでいるのです。そうである以上、一つ一つの巡り合わせは、運命という名の必然なのです。」
そう言うと、青年は、この片田舎で起こった世界を震感させる、凄まじいまでの戦いの全容を滔々(とうとう)と語りはじめた。
~つづく
に、この八万町が重要な場所の一つだと考え、たびたび訪れている内に同じ意見を持つ私と出会った。というのは、既存の学問に飽き足らず研讃(けんさん)を積み重ねた末の結論であって、それは即ち、どれだけ多くの資料から取捨(しゅしゃ)選択(せんたく)した事でしょうか。そういう過程を経ての私達の出会いが、偶然と言えますか?」
 「偶然とは言いませんね。」
 「でしょう。私も、少しだけ立場が違っていたというだけで、あなたと同じ理由で、ここで生きていたのです。そして、あなたに独自の歴史観を構築せしめ、私と出会わせるまでに至らせた、そもそもの動機は、考古学や郷土史を愛しているからこそ、真実が知りたいという、純粋な心を持って求めたからであるので、{正しい心}と評したのです。」
 「運命という、ぶっ太い一本道を通って私達は巡りあったのですね。」
 「そうです。私達は、自らが人生を選び歩んでいるのです。そうである以上、一つ一つの巡り合わせは、運命という名の必然なのです。」
そう言うと、青年は、この片田舎で起こった世界を震感させる、凄まじいまでの戦いの全容を滔々(とうとう)と語りはじめた。
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