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2012-04-15 14:52:15

明日の記憶

テーマ:ブログ



風に吹かれて-201203041244.jpg 川口駅構内を出ると、高層の建物を繋ぐロータリーになっていて、見渡せばそこはすっかり鋳物やキューポラの面影はなくなっている。

僕は20年以上も前の記憶を紐解いていた。

治る見込みのない母が川口市民病院に入院していたとき、面会を終えた父と僕は、駅構内にあった香蘭という中華料理屋さんで、一緒に皿うどんを食べた。

「俺も、もう65だよ。」箸の動きを止めて、ため息と一緒に漏らした。

それは、初めて僕が見た弱音を吐く父の姿だった。

母が世を去り、父が一人で暮らす川口の実家へ、僕は仕事を早く切り上げられる日に度々出向いた。

家事などしたことのない父が果たしてどうなるものかと思ったが、僕が行く時は、テーブルいっぱいに手料理を作って待っていてくれた。

あの日は、父が川口駅前SOGOの中においしい店があるから行ってみようと言うので、川口駅改札で待ち合わせた。

そのときの川口は今日のように、人も建物も雰囲気も様変わりしていた。

テーブルにビールジョッキが二つ並んだ。

「家族と離れたくないんだ。だから新潟の話は、せっかくだけどお断りしようと思う。」新潟大学への赴任を迷っていたときに、他人には話せない僕の本音だった。

「そうか、いいじゃないか。チャンスはまだこれからもあるだろう。」少し寂しそうな父の笑顔が、僕の決断を一層揺るがせた。

おしゃれなお店で御馳走になったはずだけれど、父の手料理がやっぱり食べたかった。


風に吹かれて-201204070905.jpg 川口駅に隣接する市民ホールから講演を終えて会場を出たとき、一人の女性が声をかけてきた。

「私、潤一さんを担当しておりました訪問看護師です。これ、ご覧になっていただけますか。」

差し出されたのは1枚の写真。その看護師さんと、肩を並べて写っているのは生前の父だった。

「訪問看護師になりたての私だったのですが、行き詰って仕事をやめようと思っていたんです。そんなとき、潤一さんを担当させていただきました。いつもほがらかで、紳士で、とってもかわいいお爺ちゃんでした。潤一さんのところへの訪問看護は楽しくて、私にとって癒される時間でした。潤一さんには本当に感謝しています。」

とんでもない、感謝だなんて。訪問看護師さんやケアマネージャーさんや、ヘルパーさんに当時はどれほど助けられたことか。

父が自宅で大往生を遂げられたのも、皆さま方のお陰です。

「今も訪問看護師を続けています。」と看護師さんは言って、その写真を手渡した。

僕は戴いた写真を思わず胸に抱きしめた。

僕の前では、強がってばかりいたくせに、可愛いいなんて。

僕なんか知るはずもないところで、父は様々な色の想い出を作り上げていた。

大切な想い出色は、あせるどころか日に日に鮮やかに浮かびあがってくる。


今日で、父が母のいるところに逝ってちょうど4年だ。

線香のお香が父の遺影を包んでいる。

いくらしっかりとした記憶でも、同じ気持ちも景色も二度と取り戻すことはできないし、父さん、僕はこれから何色の明日を描くことができるかな。


2012-03-29 22:17:12

湖畔巡りのバスに乗り

テーマ:ブログ

風に吹かれて-201203031039.jpg

2年前の3月初旬,山中湖畔のバス停で,僕は

ドキドキと鼓動の高鳴りに耐えていました.

12時半をまわり,乗りこんだバスはすでに発車,半ばあきらめ気分でいたときに,足元に

置いたバッグの中で携帯が振動しました.

「あなたの息子は,芸大生です」

長男からの合格の一報でした.

顧問を務めている合気道部の合宿は,例年この時期に山中湖畔の道場で行われます.

合気道の「あ」の字も知らない人間が顧問とはいかなるものかと思いますが,成り行き上,大学教員の御役目でもあり謹んでお引き受けしています.


夏と春,年2回の合宿に,私は1泊だけですが必ず足を運びます.

合宿のたびに,半年ぶり胴着を着ている学生達と出会います.

過去8年間こうしたことを繰り返してきました.

その都度,驚かされるのです.

1年生で入部したときは,畳に転がる体の線はいかにも細くて,見ていても壊れそうで,痛々しそうで,大丈夫かなと思わせていたのが,半年,1年,1年半・・・と経過していくにつれ,男子は肩幅が広がっていき,女子は体重とは異なった重量感を感じさせていくのです.


風に吹かれて-201203031136.jpg 道場の隅で僕は見つめています.

先輩が後輩に,後輩がその後輩に,まさに体を張って受け継いでいく,お互いの息遣いを感じることに,見ているだけの僕にも時間は足早に経過していきます.

強く,逞しく,大人になっていく過程が観てとれるのです.

今日という日の一瞬の君達一人一人をしっかりと見定めておこうと思います.

今度こうして会うときは,もう違う君になっているし,今日の君は,今日限り.

一期一会.

新学期になったらまた会いましょうと,見送ってくれる学生たちに別れを告げました.

湖畔めぐりのバスは走ります.

しばらくするとふと,足元に置いたバックの中で携帯が振動しました.2年前がこうでした.

ドキドキと急に高鳴り始めたのですが

「先生,傘,忘れてます.合宿から帰ったら

お届けにあがります.」

学生さんのお陰で,傘は一期一会にならずに済みそうです.

雪をかぶった富士山に学生達の面影を映し出し,僕はゆっくりと会釈をしました.

来年も,また来ます.

2012-01-26 00:45:31

雪降る街に咲いた名もない一輪花

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風に吹かれて-201201252357.jpg 霙交じりの夜、傘をさして、小走りに

~あぁ、断ればよかった~

月に1度だけの平井・小松川地区の自治会長た

ちの会議に出席するだけで良いですとの条件をのんで、自治会長の任をお引き受けしたのが3年前。

1回とは言え、決められた時刻に出向くのは難しくて、いつも遅参している。

あとは、自治会の役員の方々が運営にあたっていて、実質、僕は自治会の仕事は何もしていない。

会長とは“名前だけ“というのは、このことだ。

それでも、新年会があるというので、つい出席しますと返事してしまった。

傘をさし、冷たくなった手を左右交互にポッケにいれながら、新年会場のお蕎麦屋さんに向かって急いだ。

~あぁ、断ればよかった~


着けば、そこには月に一度の連合自治会長の顔ぶれがそろっている。

30名ほど集まった自治会長たちは、ほとんどが現役の仕事を退かれた年配の男性なので、こんな僕は、場違いなくらいに若い。

「よく来てくれたね」と、あちらこちらで声をかけてくださった。

連合会長さんの威勢の良い乾杯で会が始まった。



同じテーブルの別地区の会長さんに、大皿のお料理を、人数割りに小皿に分けて配った。

「やあ、すみませんね」「ありがとう」「これはこれは、申し訳ない」など、言われながら。

僕のこの仕草は、先日、別件の新年会に妻と一緒に出席したときに、妻が盛んに小皿にわけながら各テーブルに配っていたのを見ていたので、それの真似だ。人への気配りもあるが、自分が食べたいと思ったら、まず人に配ればいい。これで、自分で自分の分をしっかり食することができる。

「やー、お兄ちゃんにすっかり面倒みてもらっちゃって。」

久しぶりだ、お兄ちゃんなんて・・・

もう、ここまできたら調子にのるしかない。

おさしみ、エビのチリソース、天津あんかけ卵、焼きそば、とりの唐揚げ、出される順番に小皿に分けて、差し出して周った。


「私が若いころから、この蕎麦屋はあるんだよ。仕事帰りにお腹がすくと、立ち寄っては、余りもんにありつけたもんさ。」

年配の方の昔話を聞いているときは、気持ちが素直になれる。

「空襲のときは、中川につかって、ぷかぷか浮いてたんだ。死体と一緒に

ね。」

とても想像のつかない経験を重ねてきている。そんな人生の大先輩とこうして席を同じにしているなんて、きっと、きっと、とっても尊いことなんだ。

「若いんだ飲めるんだろ。遠慮しなさんな。」

もったいない、かような人生の大先輩に御酌していただくなんて。


2時間ほどの会は終わって三本締め。

帰り際に、店の戸口のところで、連合町会長さんに声をかけられた。

「忙しいのに、いつも出席してくれてありがとうね。」

「何もお役にたてなくて、すみません。」

「いいんですよ、出席してくれるだけで十分なんだから。」

もったいない、もったいないお言葉です。

「来年の新年会も、出てくださいよ。」

傍に立つ副会長さんからも、握手を求められながらそんなふうに言われて。

「もちろん、是非、参加させてください。」

まあ、来る時の沈んだ気持ちとの差は何なんだこりゃと、自分にあきれた。


相変わらず、雪が舞っている。

サクサクと足音を響かせながら、でもその響きもダンスリズムのようで、足取りは軽くて軽くて。

自分は、あの方々のように、こんな年下の人間に腰を低くして、笑顔でいられる老人になれるだろうか。

苦労話を、笑い話にして、若者にさりげなく伝えられるだろうか。

笑顔が素敵、可愛くて、美しくて、仕草が棟梁みたいで渋くって、そして、

非また一緒にお酒が飲みたいなんて年下の人間に思われるような年寄りになれるだろうか。

大臣やノーベル賞受賞者じゃなくていい、僕はこんな身近で、人生のお手本にいっぱい囲まれていた。


月に1度の連合町会の集まりが、待ち遠しくなった。

良かった、来月もまた、あの先輩たちに会える。

~いっぱい元気をもらいにいこう~


僕の中に、一足も二足も早く桜が咲いた。

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