変わらない痛み

数年ぶりに、君に出会った。

君は、あたしの知らない彼女を連れて、あたしは、君の知らない彼氏を連れて。

同じ街に住んでいながら、今まで会わないのが不思議だった。

こんな狭い街なのに、あたしたちは手を離したあの日から、ずっとずっとすれ違って、違う世界を生きてきた。

それが今、嘘みたいに一致した。

手の届く距離に、君がいる。

「久しぶり」

たっぷりな時間見つめ合って、やっと君の唇が動いた。

「うん、久しぶり」

やっとのことで、あたしも答えた。

今まで経験したこともない空気が、あたしたちの間を流れる。

君と彼女の間。

あたしと彼氏の間。

そして、君とあたしの間に。

あたしたちは、それ以上言葉を交わすこともなく、でも瞳だけは逸らせずに、ずっと見つめ合っていた。

ふたりの時間が、甦ったみたいだった。

あたしたちが、昔のあたしたちのところに、タイムスリップしたみたいに。

手を繋ぐだけで、頬を染めたあの頃。

やさしく触れた君の唇。

震える指先が触れた乳房も、愛を知った痛みも、全部全部、君があたしにくれた幸せ。

あの頃と何も変わらないんだと、君の瞳が呟いた。

うん、あたしも。

あたしも何も変わらない。

あたしたちは、それぞれに歩き出した。

訝しげな顔をする、パートナーを連れたまま。

あたしたちは、思い出していた。

あの時最後に交わした約束を。

「あの、小さな町のホテルで」

あたしたちは今夜、ふたりで行った小さな町で、新たな旅路につくだろう。

心から愛する人と、永遠に離れないと誓って。




お題配布元:中途半端な言葉

ランキングに参加中☆ 0574

AD

モノクロの微笑み

彼女が、独りになったことを知った。

3年間付き合った彼に、振られたらしい。

ずっと、彼とうまくいっていないことは、僕も聞いていたけれど、まさか別れるなんて思っていなかったから、彼女に片想いの僕ですら、ショックを受けてしまった。

「仕方ないんだ。私たち、ずっとケンカばかりしてたの」

そう言って笑う彼女の携帯には、元カレからプレゼントされた、近くの神社の縁結びのお守りがぶら下がっていた。

(あれ、対になってるヤツなんだよな)

彼女の元カレが、そのお守りをまだ持っているかは分からない。

でも彼女は、少なくとも彼女は、まだ元カレとの縁が繋がっていると、信じているんだ。

「広幸くん、今度ふたりで遊びに行かない? たまには若い子と一緒もいいかなって」

無理しなくていいのにな。

そう思って、僕は「何言ってんの。今まで5つも年上のオジンと付き合ってたくせに。年下なんて興味ないって言ってたじゃん」と言ってやった。

3つも年下なんて弟みたいだって、ずっと言ってたじゃないか。

幼い頃から、姉弟みたいに育った僕ら。

親同士が仲が良かったから、小さい頃はお互いの家に泊まりに行ったりも、普通にしていた。

彼女が中学に上がった年、初めて僕らに隔たりが出来た。

クラブ活動で、毎日遅くなる彼女。

なかなか一緒に遊べないことで、苛立つ僕。

そして彼女の隣には、僕の知らない男の影。

悔しかった。

彼女が、僕には見せない顔で笑ってる。

幼心に初めて灯った、小さな恋火。

長かった僕の片想いも、ようやくゴールを迎えるってことなのか?

「広幸くん、やっぱり君は意地悪ね」

そう言って無理に笑う彼女に、僕は「そりゃ、ここまで待たされたらね」と、心の中で呟いた。




お題配布元:中途半端な言葉

ランキングに参加中☆ 0574

AD

好きな人ができた。
どうしてこんなに好きなのか分からない。
相手は、きっと私のことなんて知りはしない。
なのにどうして、いつかは気付いてくれるだなんて、思ってしまうんだろう。
たくさんの人たちに囲まれたあの人を、自分のものにしたいだなんて、願ってしまうんだろう。
私は、手紙を書いた。
大好きなあの人に。
何でも良かった。
誰に何を言われようと、私は彼を好きになってしまったのだから。
ただ、私に気付いてくれれば良い。
そう思った。


私は勝手に自分で決めた待ち合わせ場所に、急いで向かった。
彼が来てくれるなんて希望、少しもなかったけれど、もし来てくれたときのために、わずかでも早く、着いておきたかった。


一時間待った。


二時間待った。


三時間待って、公園の時計を見上げたとき、その向こうに彼がいた。
彼は軽く手を上げると、申し訳なさそうに微笑んだ。
「遅くなってごめん」
私はただ嬉しくて、零れる涙を拭った。
「どうして、来てくれたの?」
「オレはずっと、『手の冷たい女の子』が好きだから」
やっと思い出してくれたのだ。
幼い頃、ふたりで交わした約束を。
昔、彼と初めて出会ったスケートリンクで、ふたりで決めた合言葉。
『もしどちらかが相手を見つけたら、そっと合言葉を呟こう』
彼は私の手を取った。
「はは、やっぱり今も冷たいんだな。氷のせいじゃなかったんだ」
笑った彼は、耳元で呟いた。
「ずっと忘れたことはなかったよ。初めて手を握った女の子のこと、オレもずっと探してた」
いつの間にか、有名になってしまった彼。
そして、普通の女の子に戻ってしまった私。
私たちはまた、出会った頃のように手を繋いだ。
氷の上ではなく、今度は、あたたかい土の上で。





お題配布元:中途半端な言葉

ランキングに参加中☆ 0574


AD

君とふたりで、ひたすら歩いた。

どこまでも遠く。

沈んでゆく太陽が、いつの間にか、見えなくなった。

そうしていないと僕が消えてしまうとでも思っているのか、君は僕の手をしっかり握って、少し辛そうに微笑んだ。

その顔が愛しくて、僕は何度も君の手を離そうと思った。

こうして君を巻き添えにしてしまうのは、間違っているのだと、確信もした。

けれど、もう引き返せなかった。

僕も、君も、今まで腕の中にあった全てのものを、投げ出して来てしまったから。

振り返らないと覚悟して、逃げ出してしまったから。

 

「間違ってなんかいないよ」

 

君が僕の目を見て言ってくれた一言が、僕の中で木霊する。

そう、間違ってなんかいない。

僕たちがふたりでいるためには、こうするしかなかったんだ。

僕たちは、ひとつになることを選んだ。

ふたりの愛は本物なのだと、証明するために。

たとえそれが間違った方法だとしても、僕たちは、そうすることしか選べなかった。

 

そして、僕たちは、深い深い森の中で、深い深い眠りについた。

 

 

 

お題配布元:中途半端な言葉

ランキングに参加中☆ 0574

何もかもがどうでも良くなり始めていた頃、アタシは廃れた街角でひとりの男性に出会った。
名前を「フウマ」と言った。
表記は分からない。
名前を訊くと「フウマ」と答えたから、そう呼んでいる。
フウマはアタシが大嫌いなアタシの名前を、「似合ってる」と言って嬉しそうに呼んだ。
フウマは今日も、当たり前のようにボロボロのアタシの部屋に帰って来る。
「ただいま、愛子」
大きな荷物を抱えたフウマは、それをアタシに投げてよこした。
「何、これ」
「客からもらったぬいぐるみ。そんなのいらないっての」
ガサガサと封を開けると、大きなくまのぬいぐるみが顔を出した。かわいい。けど、男のフウマには必要のないものだと思う。こんなものを男にプレゼントする女の気持ちが、アタシには分からない。
まだ夜も明けきらぬ午前5時、フウマは店から戻ってくる。高級なスーツを着て、お酒と香水のむせ返りそうな匂いをさせながら。
「ホストも大変だね」
言うとフウマは「まぁね」と笑ってアタシの横にゴロンと寝転んだ。これからは、ふたりで躯を寄せ合う時間だ。
フウマは、お店でもトップを争う人気ホストだった。そんな彼が、廃れた街でアタシを拾った。フウマは何を思ったのか、それまで住んでた高級マンションを引き払い、アタシの部屋に転がり込んだ。今日で半年。アタシは小汚い小さな部屋で、フウマに飼われながら生きている。
「フウマ」
アタシはぬいぐるみを投げ出して、フウマの頬にキスをした。綺麗な顔。でも、とても疲れてる。
唇が重なった。
「愛してるよ」
フウマが言った。
アタシは、答えなかった。
フウマは苦笑いをして、もう一度、アタシに深く口付けた。



お題配布元:中途半端な言葉

ランキングに参加中☆ 0574