溺死寸前

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愛している人が、実は姉の旦那様だなんて、一体誰に言えよう。
これは、あたしの中での深い深い秘密であり、そして大きな強みだ。
愛している人がいるというだけで、あたしは強くなれる。
姉よりも。
誰よりも。
人一倍輝く自信だって持っている。
それはあたしが、彼を愛しているからだ。
彼が力をくれる。
この、あたしの心に。

姉夫婦が実家に帰ってきてから、3ヶ月が経った。
義兄の転勤でこちらに帰ってきたのだが、当初は賃貸マンションを借りる予定だったのに、義兄の仕事があまりに忙しく、不動産屋に行く暇がないのと、姉の実家に対する甘えとで、とうとう出て行かないままになってしまった。
結婚して1年半。
まだ子どものいない姉夫婦は未だに新婚のようで、あたしには少々腹立たしい。
だけど、家から出て行かないということは、少なくとも義兄と一緒にいられる時間も増えるというもので、あたしは少しだけ報われた思いだった。
用もないのに姉夫婦の新居を訪ねるなんてこと、あたしには出来そうもなかったから、姉と義兄のラブラブっぷりを見せ付けられるのは嫌だったけれど、ひとつ屋根の下にいるのは、悪くなかった。

そんなある日。
絶好のチャンスが来た。
両親と姉が、そろって親戚の家に行ってしまったのだ。
おばさんが倒れたらしく、慌てて出て行ってしまった。
あたしはしおらしく留守番を買って出て、義兄の帰りを待つ。
ただひたすら。
22時を回った頃、義兄が静かに玄関を開けて入ってきた。
リビングには、あたしひとり。
「あれ、美樹ちゃんひとり? みんなは?」
少し慌てた様子の彼は、あたしと目を合わさずに言った。
「瀬戸内のおばさんが倒れて、みんなそっちに言っちゃったの。あたしだけ、ここで留守番よ」
(あなたとふたりでね)
少しだけお酒の匂いをさせる彼は、きっと同僚とお酒を飲んで帰ってきたのだろう。
酔っているなら、尚更好都合だと思った。
あたしは分かった風に、彼から背広を受け取って、ハンガーにかける。
彼が全部脱いでしまうのを、あたしは意地悪く、根気よく待つ。
義妹の前でズボンを脱ごうか脱ぐまいか迷っている彼に、あたしは言った。
「遠慮しないで。今夜はあたしたちふたりきりなんだから」
そっと触れると、彼がびくんと反応した。
あたしは知っているんだ。
彼もあたしのこと、意識しているって。
ここに来てから3ヶ月、出来るだけあたしを避けてきた彼。
それがどんな理由からなのか、悟るまでにそんな時間はかからなかったよ。
だからあたしも、頑張れたの。
いつか姉からあなたを奪う日を、ずっと夢見て。

「一緒に死にましょう。愛に溺れて」

ふたりで抱えた大きな秘密は、きっとこれからもっともっと大きくなって、あたしたちを覆い尽くしてしまうだろう。
そして迎える家族の崩壊。
それでもあたしは幸せだった。
愛する人を手に入れる喜びは、哀しいけれど、何よりも勝っていた。




お題配布元:星を水葬

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