どうして貴方があたしを選んでしまったのか、あたしには分かっていた。
あたしが、貴方のような人を望んだから。
貴方のような人が傍にいてくれることを、強く強く望んだから。
だから貴方は振り切れなかったの。
あたしの視線を。
あたしの想いを。
あたしという、醜い女を。

貴方には、かわいらしい奥さんと三人の小さな子ども。
あたしには、冷え切った狭い狭い部屋と、ただ温かさに飢えた空っぽの心。
あたしは、ずっと独りだった。
周りにどんなにたくさんの人がいても、あたしは独りでしかなかった。
それが当たり前なのだと分かっていたのに、それでも諦められなかった。
そんな時、貴方に出会ったの。
小さな街の、古ぼけたオフィス。
まっすぐな瞳があたしを見つめたとき、あたしは貴方を好きになると思った。
貴方もあたしを好きになるって、分かった。
貴方は一瞬で、あたしの空っぽの心を見抜いてしまったから。

けれども、貴方には、守るべき者があった。
学生の頃に結ばれた、大切な人。
それなのに貴方は、幼子のように泣きじゃくるあたしを、後ろから抱きしめてくれたね。
それがとても嬉しくて、もう離れられないと思った。
いくら奥さんがいても、貴方が少しでもあたしを望んでくれるなら、それで良い。
そう思ったのに、あたしはなんて我侭で酷い女。
いつの間にか、貴方を帰したくなくなってしまっていた。

だから言うわ。
今日、奥さんに言うわ。
もう貴方を帰したくないって。
貴方の優しい大きな手も、貴方の素朴な笑顔も、何も返さないって。
悪いのはあたし。
あたしだけ憎んで。
貴方にも、この愛が始まることにも罪はなかったって。

そう、伝えるわ。




お題配布元:オペラアリス


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