競馬という言葉に通常の人間なら怪しさ、胡散臭さを感じるはずだが、そこは世間知らずのA氏。

「資金はどのくらい必要なんだ?」

バットの振り方しかわからないバカのバカらしい質問だ。

「Aさんの有り金全部だ。それがいくらであろうが最低でも今の10倍にはできるだろう。」

当方、乗ってきた。 一度ついた嘘。もう後戻りできない。

素人がどんなに熟考し予想しても当たらないのは、ワカクサやゴレンジャイ、空間競馬などが嫌というほど証明してきた。

そして当方はそれらを凌ぐ素人。

いまだにジェルティルドンナとジェルトルマンの区別がつかずジェルトルマンの単勝に大枚をはたいたり、凱旋門賞は小倉競馬場で行われると思っていたレベルだ。

最低でも今の資金の10倍…

嘘でもここまで言い切ると不思議と本当に当たりそうな気がしてくる。資金が10倍はおろか100倍になる気がしてくる。

自分が神だと偽ってきた歴代の宗教家もこんな思考回路だったのだろうか?

当方、さらに乗ってきた。


「実は俺は競馬予想業界では




『聖夜』





と言われている。

普段は予想を教えるのに金をとってるがAさんにはお世話になってたから今回はよかったら、タダで教えてもいい。」


勢いで日本屈指、国宝級のダメ人間の聖夜の名前まで出してしまったことを一瞬後悔したが、A氏が聖夜のことを調べる用意周到さがないのは間違いない。

万一、ネットで調べられ、「逆神聖夜」、「負け犬聖夜」、「詐欺師聖夜」、「短小聖夜」などという聖夜の実態が分かったとしても当方を真似た別人だ、と一喝すれば事足りる。

「俺もいろいろあって今すぐ使える金は50万くらいしかない。どうすればいい?」

A氏の愚問。当方のわずかな心配はあっさり杞憂に終わった。


「予想と買い目は教えるからあとは勝手にしてくれ。信じる信じない、賭ける賭けないはAさんに任せる。だから俺にAさんの金を預ける必要はないし、金が増えても俺への礼は一円もいらない。」

情報料無料。ケチな小銭に興味なし。本家聖夜の胡散臭さを払拭するかのような大盤振る舞いを装った。

この商売っ気のない言い方にA氏の目が輝いているのが容易く想像できた。自動販売機下に落ちた100円玉を見つけた浮浪者さながらに。

また煽るだけ煽って、あとは突き放す言い方が人を騙すのに効果的なのは、散々欲望にまみれた客を騙してきた当方の経験則である。

A氏の50万円がゼロになろうが知ったこっちゃない。所詮、努力もせずに楽して儲けようとしてる奴の金。

当然、当方が自分自身の予想で実際馬券を買うつもりも毛頭ない。鉛筆を転がして勝ち馬を導き出す予想に誰が金を投げようか。

一応、期間は秋のGⅠシーズンでとは伝えたが当然有馬記念までチビチビ引き延ばすつもりもない。

一発目の秋華賞に全額つぎ込ませる予定だ。

全ては当方の気分次第。

人が堕ちていくのを見るほど楽しいものはない。

無一文になりうろたえるA氏を想像した。

自分の責任を当方に転嫁し怒りをぶちまけるA氏を想像した。

軽く一喝する当方を想像した。

苦悶の表情を浮かべ、たじろぐA氏を想像した。

大量にザーメンをぶちまけた後にもかかわらず、モンスターペニスが、東京スカイツリーさながらに天に向かって再隆起していた。

続く、



か…?

★50万円運用予想
(残高50万円)

◎シルポート

買い目
◎複勝に50万円全額

※運用資金の50万円が0になったらコラムは終了となりますのでご了承ください。