吹きガラス屋 加倉井秀昭のブログ

のんきなガラス屋のあんなことやらこんなことやら


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「うちの庭にはがまがえるがいるのよ」

 

叔母が言った。

叔母の話はいつも突拍子もない切り口だが毎回インパクトだけは残していくのだった。

 

「あ、そいつ見た事あるな、けっこう立派な奴でしょう?」

 

「そう。 だんだん大きくなるのよね......。」

 

「外の流しの下とプラスティックケースの隙間に住んでるのよ。」

 

「え...二匹いんの?」

 

「そう。」

 

どうやらあの狭い玄関まわりにがまがえるが二匹、しかも住所もわれているらしい。

大家公認の居候ということなのだ。

 

考えたら俺もそうなのだった。

流しの下か屋根裏部屋かの違いぐらいだ。

 

たまに叔父と叔母の家の玄関まわりは異次元に繋がっているのではないかと思う事がある。

とても狭いスペースなのだが、そこで生まれた物語は数多い。

 

昔の話。

 

「ひでちゃん知ってる?今うちに亀がいるのよ」

 

「ほう....なぜ?」

 

「こないだの雨の日にね、玄関にいたのよ、流れてきたのかしらね...」

 

「ばかな......」

 

そう、ありえなくはない.....が.......。

この世に絶対はない。

しかし、だ.....

ここは東京の外れとは言え、まわりは住宅ばかりで道路もアスファルトだ。

近くに川はない。

 

しかしそんな事は叔母は気にしない。

目の前の現実と、なんとなくそんなかな? みたいな感じで押し通す。

疑問は無い。

きっと。

 

そして叔母はその小さな亀を飼い出したのだった。

 

そしてある雨の晩、その亀はなにも言わずに旅立っていったのだった。

 

「また流れて行っちゃったのかしらね.....」

 

叔母が呟いたのだった。

 

「そんなばかな.....」

 

「まあいいけど、そんな可愛いわけじゃないし。」

 

うそだ。

かわいがってたじゃん......

エサ買ってたじゃん.....

がめちゃんって名前つけてたじゃん....

 

それから数ヶ月がたった頃であろうか。

 

「ひでちゃん信じられる? またうちに亀がいるのよ」

 

「ほう.....」

 

「がめちゃん帰ってきたのよ、雨の日にね。」

 

「ばかな....」

 

なんなのだ...あるか? そんなことあるか?

 

「寅さんかよ!」

 

「あなたと一緒じゃない....」

 

考えたら俺もそんなもんなのかもしれない.....

 

「また飼う...とか?」

 

「そーねぇ....」

 

飼うな。

 

そしてまた飼い出したのだった。

 

どこにでもある、青いプラスティックのバケツに。

その小さな世界には少しの水と亀しかいなかった。

 

「これ可哀想じゃない?」

 

「そお?気に入ってるみたいだけど。」

 

いったいなにをもってそんなことが......

 

「ひでちゃん知ってる?亀って足早いのよ」

 

「ほう.....」

 

「うさぎに負けるなんて嘘ね。」

 

「なんで?逃げたの?」

 

「散歩させてると凄い勢いで走るのよ。」

 

「さ、さんぽさせてんの? かめに?」

 

「そう。」

 

あんまり聞いた事ないな.....

 

そんなある日。

 

「ひでちゃん暇なときある?」

 

「なぜー?」

 

「がめちゃん公園の池に逃がしてきてよ」

 

「な、な、なんで....」

 

がめちゃんはミシシッピーアカミミガメだった。

公園の池では巨大に野生化したアカミミガメが増えて困っているのだった。

 

「それは....やってはいけない気がするのですが.....」

 

「なんでー。友達いっぱい居ていいじゃない」

 

なんだ、なにがあったんだ。

 

「もう愛せなくなりました.....」

 

「え、な、なにが?」

 

叔母の話ではある日バケツにバッタが飛び込んだらしい。

そしたらがめは間髪入れずに喰ってしまったようで、その凄まじい野生に愛情が冷めたらしいのだった。

 

その後、亀は貰い手がついて今も数軒先で生きている。

その数奇な運命に身を任せた放浪癖のある青いバケツにいた緑の亀は、食事のマナーが悪かったという理由で今は白いプラスティックの大きな衣装ケースの中にいるという。

そして手のひらよりも大きくなっているということだった。

 

亀に幸あれ。

 

 

 

 

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小さなチューブが運ばれてきた。

ラベルは剥がれかかっていた。

かすれたラベルには リンデロンVG の文字が見える。

 

にやり.....

やつが笑った気がした。

 

「なんだ?いまさらか?」

 

「..............」

 

「まぁいい...この古くて汚れたチューブから俺を解放しろ。」

 

「やれるか?」

 

「さぁな、期は完全にむこうのペースだ、まぁとりあえず殺せるだけぶっ殺してやるよ。」

 

「仲間もか?」

 

「そうだな、手加減はしてる場合じゃねぇだろう? 諦めろ....」

 

「なるべく.....副作用は避けたい.....」

 

「はは! この期におよんでそれを言うか!」

 

「そうだな....好きにしろ....責任は、俺にある。」

 

「了解。」

 

 

「ひとつ聞きたい.....」

 

「ん?」

 

「おまえは火傷の外傷にも効くのか?」

 

「いまさらか! うーん...難しいこときくんじゃねぇよ.....雑菌どもをやればいいんだろ?」

 

「あ、うん、そう.....だな.......」

 

「俺はそれをやる。」

 

「わかった....」

 

 

指に取ったその白いクリーム。

それがリンデロンの本当の姿。

 

ふと、あることが頭をかすめた。

 

このリンデロンは一体いつ頃処方されたものだったか...

もう既に私のメモリーからは削除されていた。

 

つた漆にかぶれたのって......

チューブのラベルははげかかっている。

 

 

「さぁて...やっと出れたってわけだ、調子に乗った雑菌どもを皆殺しだ。 暴れてやるぜ。 あんたの指ももう安心していいぞ」

 

「...........」

 

「わかってるって、安心しろよ、俺も昔とは違う。 これでも丸くなったんだ。」

 

「..........」

 

「ほんとだって....あんなとこに長い事いてみろってんだ」

 

「ながいの....?」

 

「ながかったろ?」

 

「.............」

 

「でるぞ」

 

「ああ」

 

患部にクリームを塗った。

 

「しつこいようだが副作用は.....」

 

奴が振り向いた。

そして呆れたような顔でこう言った....

 

大丈夫だってんだ、使用期限はとうに過ぎてるんだ

 

奴が嗤った。

 

明日病院にいこうと思ったのだった。

 

 

おわり。

 

 

 

 

 

 

 

 

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指が騒がしい。

なんとなく騒がしい気がするのだ。

気のせいかもしれない。

 

それでも確実に指がぽんぽんになってきた。

かさぶたの周りはほんのり赤く、日に日にその範囲は広がってきている。

 

そう、彼らは戦っている。

 

いける....この日の為にお前達を鍛えてきたのだ。

20世紀で最も偉大な発見といわれる爆弾野郎リンデロンを押さえ込んでまでここまできたのだ。

時間はかかるかもしれない、しかしお前らは負けない。

 

しかし左手人差し指第二関節上部。

なにをするにも曲がる場所。

かさぶたによってこの関節は完全に自由を失ったのだった。

 

ぱき.....

 

無理に曲げてしまうとかさぶたは割れ血が流れる.....

まことに厄介だ。

 

程なくしてガラス制作の作業にも支障が出てきた。

 

痛むのだ....

ずきずきと.....

 

しかし私に出来る事はない。

彼らを信じる事以外に....

 

「なぁ...俺の出番じゃねぇか?」

 

「..................」

 

「早くしないと指無くなっちゃうんじゃない?」

 

「...................」

 

チューブに入ったリンデロンがうるさい.....

 

 

そんな時だった。

その指をしこたまぶつけた。

 

息の止まるほどの激痛。

声はのどの奥で爆発して消えた....

左手の手首がうっ血するほどに渾身の力で握りしめた。

その両手をうつむきながら天に掲げた様は祈りのようであったか....

 

そして当然のごとくかさぶたは大きくめくれあがる....

出てきたのは血ではなかった。

薄く白く濁ったその液体は一つの真実を告げる。

 

我が殲滅部隊は負けたのだ。

外部より侵入した雑菌どもが仲間を増やしていた。

かさぶたの下はやつらが制圧したということだ。

 

「なぁんとなくね...わかっちゃぁいたんだがな......」

 

放っておくと奴らは数を増やし全身にむけて侵攻を開始するであろう。

そうなればSNSでむけられた最悪のシナリオは現実味を帯びてくる。

 

意を決してかさぶたを剥ぎ、患部をしぼりあげる。

中から吹き出した白濁したものは赤い血に変わってきた。

ひとまずOKだ。

 

「おい.....」

 

「はい」

 

「やつを出せ....」

 

「え!しかし.....」

 

「だせ....」

 

 

激痛の中、私は呪いの言葉を絞り出した。

そう、吹きガラス職人として、私はまだ指を失うわけにはいかない。

 

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