2008-11-02 03:15:09 posted by ayaken

2、強心配糖体

テーマ:充足の栄養学
参照:http://www2.odn.ne.jp/~had26900/constituents/about_cardiac_glycosides.htm


1.強心配糖体は特異なステロイド配糖体である

 心筋に特異的に作用し、共通の化学構造上の特徴を有するステロイド配糖体を強心配糖体と称する(有毒、猛毒、毒物、劇薬)。

アグリコンの構造から炭素数23個のカルデノライド(cardenolide)型と、同24個のブファジエノライド(bufadienolide)型に大別され、いずれもステロイド骨格の17位にβ配向した不飽和ラクトン環を有するが、カルデノライド型は5員環、ブファジエノライド型は6員環である点が異なる。

そのほか、B/C環はトランス、C/D環はβ-シスの立体配座をもち、通常のステロイドとは異なる構造的特徴をもつが、これが強心活性発現の必須条件とされる。

ブファジエノライド型ステロイドはヒキガエル科ヒキガエル類(Bufo属)の毒腺の分泌物から初めて単離されその名の由来があり、ブフォトキシンと総称する。

シナヒキガエルBufo bufo gargorizansの毒腺から得られた分泌物を基原とするものが生薬センソであり、ブファジエノライドの多くは3-arginosuberate、硫酸などの抱合体として存在し、ごく一部が遊離体として含まれる。

これらは配糖体ではないが、植物起源の強心配糖体と同様に強心作用がある。

植物界にも少数ながらブファジエノライド型配糖体の存在が知られ、その代表的な例としてはユリ科カイソウUrginea maritimaおよび同属植物がある。

そのほかの構造的特徴としては、14位にβ-水酸基、3位にβ配位で糖鎖が結合する。

糖部はグルコース、ラムノースなど通常の糖のほか、ジギタリスの強心配糖体に見られるデオキシ糖(2位に水酸基をもたない糖でジギトキソース(digitoxose)が代表的である)など特異な糖が結合するものもある。

ジギタリスではこの特異な糖鎖が消化管における薬物吸収や血中での薬物動態に重要な役割をもつので、収穫した葉を内在性の糖分解酵素が作用しないように加熱乾燥している。

薬理作用としては心筋収縮力の増強、徐脈、房室伝導時間の延長など心臓に対する直接作用のほか、心機能の改善による二次的利尿作用、嘔吐作用がある。

薬用とするジギタリス配糖体はしばしば強心利尿薬と称するのはこのためである。

分子薬理学的には膜結合性蛋白であるNa+,K+-ATPaseのサブユニットに結合することによってこの酵素の作用を特異的に疎外することで細胞内Na+濃度が上昇し、その結果、細胞外のCa2+が流入することによって細胞内Ca2+が上昇して上述の薬理活性を示すと説明されている。

2.ジギタリス強心配糖体について

 ジギタリスは英国の民間療法で細々と用いられていた非常に作用の激しい薬用植物であったが、スコットランドの医師ウィザーリングがその存在をつきとめ、1785年、近代医学に心筋の機能低下を伴う水腫、浮腫の治療薬として導入することに成功したものであり(→強心薬ジギタリスのお話を参照)、薬効成分はジギトキシン(digitoxin)という強心配糖体である。

現在、ジギトキシンは強心利尿薬として用いられるが、そのほか、同属植物であるケジギタリスに含まれるラナトシドC(lanatoside C)およびそれから誘導されるデスラノシド(deslanoside)、ジゴキシン(digoxin)、メチルジゴキシン(methyldogoxin)も治療薬として用いられている。

これらはジギタリス強心配糖体と総称され、そのほかの植物に含まれる強心配糖体とは区別される。

それはジギタリス強心配糖体がきわだった特徴を有しているからである(→下の図1の構造式を参照)。

ジギトキシンは配糖体には違いないが、前述したようにジギトキソースと称するジギタリス固有の糖が結合する。

ジギトキソースは2位、6位に水酸基をもたないので、グルコースなど普通の糖と比べて極性が格段に低い。そのため、ジギトキシンは配糖体にもかかわらず経口投与での消化管吸収がほぼ100%である。

しかし、血中ではジギトキシンの95%はアルブミンと結合しているので、排泄が遅く消失半減期は7日と非常に長い。

その分、作用の持続時間は長いものの作用の発現まで時間がかかり遅効性(作用の発現まで3~6時間かかる)である。

ジギトキシンの使用に当たっては体内蓄積性のあることに留意する必要がある。

一方、ラナトシドCおよびその脱アセチル体であるデスラノシドはジギトキシンと比べてアグリコンに水酸基が一つ多く結合し、また末端にグルコースが結合するため、より極性が高いので蓄積性ははるかに少なくなり速効性である(→下の図1を参照)。

その分、経口吸収効率は低いので注射、点滴で投与することが多い。

ジゴキシンはデスラノシドに酵素(グルコシダーゼ)を作用させてグルコースを除去したもので、ジギトキシンと同じ糖鎖をもち、両者の構造的相違はジゴキシンの方がアグリコン上に水酸基が一つ多いだけである。

わずかに極性の高いジゴキシンは経口投与での腸間吸収率が75%でジギトキシンより低くなるが、血中アルブミンに結合するのは25%に過ぎず、消失半減期は1.6日とジギトキシンよりはるかに短い。

また、作用の発現時間は1.5時間とジギトキシンよりはるかに速効性である。

最近の臨床の現場ではジギトキシン、ジゴキシンおよび薬物動態がその中間を示すメチルジゴキシンがよく用いられる。

ジギタリス以外の強心配糖体で医薬に用いられるものは東アフリカ原産のキョウチクトウ科ストロファンツスの種子に含まれるG-ストロファンチン(G-strophanthin)だけである。

ストロファンツスは東アフリカ諸部族の間でそのエキスを矢毒として狩猟に用いられてきたという歴史的経緯がある。

このことからも強心配糖体の作用の激しさが理解できるだろう。

図1 ジギタリス強心配糖体とその由来


3.強心配糖体は身近な植物にも含まれる

 強心配糖体はこれまでに100種以上知られており、その特異な構造にもかかわらず天然界での分布は意外に広く15科から知られている。

その中で特にユリ科、ゴマノハグサ科、キョウチクトウ科、キンポウゲ科に多く存在する。

一般に、強心配糖体は薬理作用が激しいので劇薬に相当するものであるが、毒性にいたる中毒量と薬効を示す有効量との差が小さい。

したがって、薬用として用いられるのはジギタリス、ストロファンツスなどに限られ、大半は致死性有毒成分として薬用には適さないとされている。

また、一部の植物は民間療法で心臓の薬として用いられることがあるが、実際にフクジュソウを用いて中毒事故が起きている。

下の表1に強心配糖体を含む主な植物を挙げる。(→主な有毒強心配糖体の構造式はこちらへ)この表から身近な植物にも強心配糖体が含まれていることがわかる。

スズラン(ドイツスズランも同様)は君影草(きみかげそう)の別名があるようにその可憐な風情で人気の高い植物で園芸用にも普通に栽培されるが、切り花としてもよく利用される。

スズランをさした花瓶の水を幼児が飲み、水中に溶け出した強心配糖体による中毒を起こした例も報告されている。

シマツナソの葉はモロヘイアと称し、原産地のエジプトではごく普通に野菜として食され本邦でも健康食品として人気があるが、本種の果実に強心配糖体が含まれている(葉には全く含まれていないので心配する必要はない!)ことが報告されている。

シマツナソの果実はオクラに似て、一見、食べられそうなので、自家栽培者が誤って食する危険が低くないと思われる。

最近、高血圧に効果がある健康茶として人気のあるラフマ(羅布麻)は根に強心配糖体が含まれるが、一方、健康茶に用いられる葉には含まれない。

シマツナソやラフマの場合、実際に食品あるいは茶として用いられているので有毒植物として認識されていないが、部位によっては有毒成分が含まれていることに留意する必要がある。

このことは食用であるからといってその植物体全体が必ずしも安全とは限らないことを示している。

そのほか、ムラサキ科ヒレハリソウは別名をコンフリーと称し、葉をお茶の代用あるいは天ぷらなどとして一般に食されるが、本種の葉はジギタリスに似ているので、ジギタリス(最近は園芸用にも栽培されている)とヒレハリソウを栽培する場合、誤って採取摂食する可能性がある(→ハーブと誤認されやすい植物を参照)。

ヒレハリソウとジギタリスは分類学的には全く類縁性はないのであるが、ヒレハリソウの葉を採取するとき、ジギタリスは花期の前なので、葉だけで両種を区別することは一般人には困難である。

因みにヒレハリソウ自体には強心配糖体は含まれていない。

キョウチクトウは常緑で花が美しく、大気汚染などに強い性質をもつので、高速道路の分離帯や工場地帯、公園などに広く植栽される。

しかし、強心配糖体を含む葉は家畜が好んで食べることがあるので、牧場など農業地帯に植栽することは避けねばならない。

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