ようこそ星空道楽堂へ
昨日…、もう一昨日になりますが、金曜日は祖父の命日でした
わたしは父に反発ばかりしていたので、よく祖父に遊んでもらったり、様々なことを教えてもらいました
今夜は祖父に捧げる詩をお送りしたいとおもいます
エジソンの実験じゃないですが、電波に乗って遠い空の向こうに届けばいいんですけどね
『道』
よく晴れた冬の朝に生まれたわたしに
いつでも朗らかに生きていけるようにと
おもいを込めた名前をあなたはくれました
舟にわたしを乗せて波に揺られながら
様々なことを教えてくれる
あなたの話を聞くのが何より
幼いわたしの楽しみでした
あなたの右腕に残る弾痕を指差して
何もわからずどうしたのと訪ねるわたしに
辛そうに笑いながらそっと頭を撫でてくれたのを
今でもよく覚えています
あなたがシベリアから生きて帰ってきたことを知るのは
ずいぶん後のことだったけど
潔癖だったわたしは少しも躊躇することなく
あなたの心を言葉で切り刻みました
わたしはずっと後悔しています
今なら知ることが何かを解決するわけではないと
痛いくらいわかるのに
あの頃のわたしはあなたを傷つけていることすら
気づいていなかったのです
思春期になって息苦しさを覚えたわたしは
夜の街で遊ぶことを覚えて
あなたと海に出ることもなくなりました
それでも意味のない喧嘩を繰り返し
腫れた顔で家に帰るのが嫌なときには
あなたのもとに逃げ込んでいましたね
突然やって来るわたしに
あなたは理由も聞かずに
暖かい食事を用意してくれて
静かに微笑んで泊まっていけと言ってくれました
泊めてもらった翌朝にホットケーキを作って
それを涙を流しながら食べるあなたを見たとき
わたしはパティシエになろうと決めました
大人になってからがむしゃらに働いて
作れるケーキも増えてきた頃
その知らせは突然やってきました
病気で倒れたあなたは病院に運ばれ助かったけど
病室のベッドの上でわたしのことも忘れてしまっていた
それからわたしは毎日のように
覚えたケーキを作ってあなたのもとへ通いました
いつもはじめましてと言われるのは苦しかったけど
成長したわたしの姿を見せたかった
たとえわたしのことを覚えていなくても
わたしはずっと後悔しています
どうしてもっと話をしなかったんだろう
今なら時間が永遠じゃないってわかるのに
その頃のわたしは命が終わることなんて
考えてもいなかったのです
だんだん痩せていくあなたは
わたしの作ったケーキも食べられなくなっていきました
何よりそんなわたしにスイマセンと謝られるのが
痛くて情けなかった
謝らなきゃいけないのはわたしなのに
さんざん心配をかけて
さんざんあなたを傷つけて
今してることも自己満足なのかもしれないけど
わたしにはケーキを作ることしか出来ないから
もう一度あなたの美味しいと喜ぶ顔が見たかった
わがままだよね
そしてわたしはホットケーキを作りました
はじめてあなたに作ったのと同じように
あなたは珍しいものを見るような顔をしてたけど
一口食べて涙を流した
そして久しぶりにわたしの名前を呼んで
美味いなと言いながら頭を撫でてくれた
その手は随分細くなっていたけど
手の暖かさは幼い頃に撫でてくれたときと
変わっていなかった
あれから少ししてあなたは旅立ったけど
わたしはずっと後悔しています
あなたに恩返しが出来ずに終わったことを
でもわたしにはあなたが残してくれた言葉が
今も心の奥に残っています
あなたから受けた恩を
他の誰かに送るために
これからもケーキを作り続けるでしょう
わたしにはそれしか出来ないのだから
そしていつか
いつかこの道の先で
食べた人が朗らかな毎日を生きられるような
ケーキを作ってみたい
そんな夢を今わたしは見ています
あなたが教えてくれた道の上で


