欧州各国が中国に「目覚め」ている。ただし、「目覚め」は、まったく正反対のベクトルを描く2本の潮流で形成されている。「武器市場としての価値」と「中国への警戒」である。いずれにしても、米国の軍事力抜きに語れない。米軍基地移設問題の迷走で、日米軍事同盟が変質しかねない危機を迎える現在、日米の対中国戦略は欧州も巻き込み、これまで以上に複雑な様相を見せ始めている。

 EU(欧州連合)議長国スペインのモラティノス外相は1月、EUが1989年の天安門事件以来継続中の、対中武器禁輸措置に関する解除を「支持する」と表明。議長国としてEU加盟国に「解除検討」を働きかける姿勢を明確にした。外相は「中国は、世界で新たな役割を果たしており、対中関係を最善のものにする必要があるのは明らか。解除検討の時期に来ている」と指摘した。スペインは世界第8位の武器輸出国だ。

 ≪武器市場としての価値≫

 EU内では2003年以来、フランスのシラク大統領(当時)を中心に「解除要求」が出ていた。続くサルコジ現大統領は08年12月、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談したため中仏関係がいったん、急速に冷え込んだ。ところがサルコジ氏は09年4月「一つの中国政策の堅持」や「チベットが中国不可分の領土」で「独立も支持しない」方針を表明したことで関係修復にこぎ着けた。

 そもそも、天安門事件前は中国への武器輸出国であったフランスは禁輸期間中の1992年、約7260億円でミラージュ戦闘機と中・短距離射程ミサイルを、この時は台湾に売却。操縦士訓練などを続け、2001年にはミラージュ58機の実戦配備を達成している。中台の軍事バランスや、日本経済の命運を握る台湾海峡の緊張など念頭にないのだ。

 欧州では少数民族や宗教・文化への弾圧を強行する中国への懸念が強い上、中国の異常な軍事拡大を警戒する日米が強硬に反対したことから、EUとしての解除決定は先送りされてきた。だが、世界規模の金融・経済危機の下、フランス・スペインならずとも中国市場は大いなる魅力。スイスなど永世中立国も国際市場で大きなシェアを占める武器輸出国で、EUが禁輸を続けたとしても「先手」を打って売却する可能性も否定できない。欧州の足元を見透かすように、中国外交部は1月の定例会見で揺さぶりをかけている。

 「禁止措置は事実上、中国への政治的差別であり、世界の潮流や中国とEUの包括的戦略パートナーシップの発展と相反する。中国の解禁要求は、中国への政治的差別を撤廃し、権利を守ることが目的。EUが可及的速やかに政治決断を下し、直ちに、無条件で、徹底的に、禁輸を解除し、中国との健全な発展における障害を取り除くことを希望する」

 ≪浮上する警戒論≫

 一方、わが国からみれば危険この上ないこうした潮流に対し、欧州でも安全保障の専門家を中心に「警戒論」は浮上している。例えば、RUSI(英王立統合軍防衛安保問題研究所)機関誌に昨秋掲載された論文に関係者は強く注目した。

 いわく-

 《中国の軍事的台頭により、東アジアで安保上の事態が発生した場合、在欧米軍が必然的に東アジアへ投射される事態を招く》

 そうすると-

 《NATO(北大西洋条約機構)の再編成・配備が必要となる。それに伴い、現在でも過剰負担であるアフガニスタン派兵を含む、NATO内の負担分担の変更も迫られる》 

 《在欧米軍縮小で、欧州戦略バランスに大きな影響が生ずる》

 背景には、東アジアで武力紛争が勃発(ぼっぱつ)すれば、アフガン戦略のみならず、NATO自体の将来戦略もまた、練り直しを迫られるとの危機感がある。実際、ドイツの与党、キリスト教民主同盟はアジアを「独外交・安保政策の戦略的難題」と位置付けている。

 ただし、フランスの戦略は依然として見えない。仏国防白書(08年)は「世界戦略の重心は『アジア』に移っており、『アジア』での武力紛争予防が中心課題」との分析を示してもいるのだが…。 

 もっとも、欧州で「アジア」というとインド・パキスタンなど南アジアを指すことが多く、日本は「極東」と認識されている現実があるので要注意だ。欧州にとり「辺境の地」である「極東」を一刻も早く欧州列強の安保戦略地図に載せるよう、日本政府は全力を尽くさねばならない。

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