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2012-01-22 21:41:20

攻強皇國機甲 第五話 ⑧

テーマ:小説 攻強皇國機甲

「生きてる!? 声・・・出せる!?」

暖かい雨が降っている。

もう梅雨なのだ。土の湿った香りが大気に満ちている。
この匂いに新芽の爽やかな香りが混じるようになったら、じきに生命力が輝く夏。

「・・・・」
こんにちワンは、ぱかりと目を開けた。
雨じゃなかった。
ぱたぱたと顔を打つのは、芽生の涙だ。

「・・・こんにちは」
視界が広くなってきた。芽生はぺたんと地面に座り込んで、こんにちワンのぐったりした体を膝の上に抱き上げている。
その周りを正太郎、シア、さよなライオン、ありがとウサギがぐるっと囲んでいた。
みんな心配そうに眉がハの字だ。

「こ・・こんにちは」
芽生がうろたえて答えた。
あいさつの魔法の使えない芽生だから、ただのあいさつだ。
こんにちワンはにっこりと笑った。

(いちばんふつうの挨拶が、ボクはいちばん好き)
「挨拶って・・・・うれしいね」

「バカっ!!」
芽生の平手が降り降ろされ、それは勢いを失ってそっとこんにちワンの頭を撫でる。
「信じてくれて、ありがと」
あとは頼むと言ったことについてだ。
でも。ボウキャクとの拮抗に心折れかけて自滅を考えていたこんにちワンを始めに救ってくれたのこそ、芽生。そして、正太郎なのだ。

「信じさせてくれて、ありがとう」
と言ったら、挨拶の魔法の使い手は照れくさそうに笑った。シアはさよなライオンと顔を合わせ、何事かに気づいたように小さく何事かささやきあう。


「校庭、直さなきゃなあ・・・」

振り返って周囲を見渡したありがとウサギがそう言って苦笑した。
だってビルでも建設するかのような大穴が開いているのだ。

「それ言うなら校舎もだよ」

正太郎が立ち上がる。

亀裂が深く入り、本格的に崩壊寸前の校舎の窓から、その時わっとにぎやかな声が沸き上がった。

口ぐちにありがとう、助かった、かっこいい、ロボット?
なんなの?
わいわいわいわい。

生徒たちだ。
つい数分前までボウキャクの攻撃に晒されていたというのに。
「すごいなあ・・・」
こんにちワンはぽかんとしてそうつぶやいた。
感心すると同時に、それがどんなに壊れやすくて傷つきやすいものかを再認識した。

「ボクにも、護らせてね」
見上げた芽生は片手で涙を拭って皮肉っぽく笑ってみせた。
「校舎と校庭がなおったら、ね」
こんにちワンは笑ってうなずいた。



そういえば、覚えている。
結界をぬけて暖かい雨のように降り注いでいたものは、あいさつの魔法のかけらだけではなかった。

何百人もの子供たちの、なんでもない日常の声。
それを護るためだったら、それこそボクはいくらでもなんでもできそうな気がする。

「正太郎もこんにちワンも無茶しすぎる。二人が同時に無茶なことを始めたらどうしたら・・・」
ありがとウサギがそんなことをつぶやいているのを聞いて、正太郎がニヤっと笑ってこんにちワンを見た。


「ありがとウサギは心配性」
「ワン」
異議なし。


―――こんにちは!挨拶ってうれしいね――
END

次回!第六話 おはよウナギ!はじまりの魔法   に、続く????


どん引きの長さにお付き合い下さいまして、ありがとうございましたっ!!

2012-01-22 21:25:55

攻強皇國機甲 第五話 ⑥

テーマ:小説 攻強皇國機甲

「ボクが、相手だ!!」
奇岩の群のように隆起した地盤に覆われた地面を驚異的なスピードで渡ったこんにちワンパワードは宙に身を踊らせ、校庭の中央に飛び降りた。
あまりにも鮮やかな身のこなしだった。
ボウキャクの根が一定の動きをもっていることを彼は見破っていた。

校庭の中央から外側へ、波状に攻撃が変化しいていることを冷静な観察で理解した上での行動。

一際深い亀裂が入る校庭の中央で、着地に一拍遅れて襲いかかってきたボウキャクの根をこんにちワンパワードは舞うような足さばきで軽々とかわしてみせた。

(中央の部分から末端へ、行動命令が出されているに違いない)
ということは、つまり。
こんにちワンパワードは鋭く漆黒の亀裂の奥を睨んだ。

そこへ、あざ笑うようなボウキャクの声が響いた。


『再び結界にでも封じるつもりか?』
「・・・・・・」
こんにちワンパワードは無言を返すが、心の中ではその言葉を否定した。
(もう、結界になんて封じられる規模じゃない)

ボウキャクは人の記憶と心を喰らい、喰らったぶんだけ成長する。

目覚めた瞬間のまだ小さなボウキャクだったから封じることもできたのだ。
あの時。正太郎が偶然発揮した挨拶の魔法によって、やっと起動したばかりのこんにちワンには封じるのが本当にやっとのことだった。
しかし存在を削るようにして張ったその結界でさえ綻びがあり、完全ではなかった。
結界の隙間をぬって届く外の小学生たちの喜びやちょっとした記憶をすするようにしてボウキャクは成長していってしまった。
皮肉なことに、その結界の綻びから正太郎の挨拶の魔法もまた、こんにちワンに届いていた。
そうでなければとっくに何ヶ月も前に、こんにちワンは力を使い果たしてクリスタルに戻っていただろう。
削り合いの数ヶ月は永遠のようだった。



ボウキャクを封じることはもはやできない。ならば、
別の方法で倒すしかない。
こんにちワンパワードは胸の前で両腕を交差させた。その両腕に、青い光の文字が輝く。光の文字は異文明のもの。

地球上の誰も読み解くことのできない不思議な配列をもって普段はこんにちワンパワードの内に隠されている。
それはACアニマルの中で、こんにちワンパワードだけが扱い得る高度な魔法を呼び起こす媒体となるものだ。
勢い良く両腕を広げると同時、光の文字は腕を離れてこんにちワンパワードの周囲へ、球状の壁となって拡大する。
「勝負だ、ボウキャク! ボクの力とお前の力、どっちが勝つか!」
こんにちワンパワードの額でACクリスタルがこれまでにない輝きを放つ。


「どうする、つもりなんだろう・・・?」
芽生が放送室にいるシアとさよなライオンとに連絡をとりあう隣で、なんとか身を起こした正太郎はつぶやいた。
「あいつの力は、私やさよなライオンとはまた違う・・」
ボウキャクの根をさばきながらグレートありがとウサギが答えた。
「え?」
「あいつが得意とするのは、魔力による戦闘。味方の防御やサポートが本来の役目だ! 武装といえる武装はない」

「じゃあ・・・!」
グレートありがとウサギは無言で再びボウキャクの根を蹴り飛ばした。
ボウキャクもそれを把握しているのだろう。近づかれてやっかいなのはグレートありがとウサギの方だと。だからこうして足止めに専念する。



『おのれ・・・なんのつもりだ!?』
ボウキャクの不快げな声と同時に、校庭の中央で青色の閃光が爆発した。
「うわあっ!? ・・・あれ、これって・・・」
一瞬悲鳴をあげかけた正太郎は、自分の脳内に食い込んでくるようなボウキャクの力がふっと消えたことに気づいた。
隣の芽生も手を頭から離し、厳しい目でこんにちワンパワードを見た。
しかし、彼女はすぐさまACウォッチを通して別の指示を出し続けている。
「結界!? ボウキャクの力を阻むための・・・!」
正太郎にはその結界が学校とその周辺地域をまるごと包み込むほど広大なものだと感知できた。
すべての者がこんにちワンパワードの結界によってボウキャクの、心と記憶への侵略から護られていた。
「すごい・・・!!」
思わず感嘆の声を上げる正太郎。
しかし。
「なんてことだ・・・っ!」
グレートありがとウサギが焦った声を上げる。
「魔力の使いすぎだ! これではすぐに変身が解けるぞっ!!」



青い光を放出しきったこんにちワンパワードは、反転するように小さな茶色の犬の姿に戻り、ぽたりと地面に落ちた。
『攻撃してくるかと思えば・・・っくくく。護るだけか。それがお前等の限界だと言うのにそれでワタシの力を封じたつもりとは笑わせる』
こんにちワンの目の前の亀裂から、根とは形状の違う、節くれ立った老人の手のような枝状の手がずるりと一本現れた。その動きはスピード再生された発芽する新芽のようだが、見た目はあまりにも禍々しい。
大きさも数メートルもある巨大なものだ。
「・・・・・」
こんにちワンはすでにもうなにも言わず地面に横たわっているだけだ。
『別になあ。困らんのだよ。離れたところから心を吸い取らんでも、貴様から直接吸収すればよい。まあ、コア近くから摂取せねばならんのがおっくうか』
くひ、くひ、くひ、・・・。
ボウキャクは哄笑を放つ。
ひび割れた響きがシンとした周囲に広がった。
鉤爪までそなえた巨大な手がこんにちワンの体へと勢いよく降りおろされた。

ズンッ!!

地面が揺れ、こんにちワンの体が見えなくなった。
振りおろされた手とともに地中を引き込まれて行く地鳴りのような音が聞こえる。
「だめだ! こんにちワンが死んじゃう・・・!」
正太郎が立ち上がった。
もう一度、なんとかもう一度彼を変形させることができたらこの窮地から逃れられる・・・!
「やめろ正太郎っ!! 私たちなら記憶のバックアップが・・・」
グレートありがとウサギが制止するが、
「心をなくしちゃったらどうなるの? それも大丈夫なの!?」
正太郎が震える声でそう遮り、グレートありがとウサギは言葉に詰まって沈黙する。
ACアニマルたちの心。人格こそ、換えの効かないものだった。
バックアップされた記憶から新たな人格を構築し直すことも出来るだろうが、それは以前と全く同じものと言うことはできなくなる。

「くそーーーーっ!!」

グレートありがとウサギが己の無力に吠えた。
自分はこの場から動けない。狡猾なボウキャクはグレートありがとウサギへの根の攻撃をまったくゆるめなかった。


正太郎は大きく息をすった。
「あと一回くらいなら・・・多分、いける」
つぶやいた正太郎の口を塞いだ、小さな手。
「だめ」
驚いて横目で見ると、知性でキラキラ光る芽生の目がじっと見つめ返してきた。
「どうして、こんにちワンパワードがありがとウサギにでも、さよなライオンにでもなく、私に「あとは頼む」って言ったのか、わかる?」
確かに言っていたのを正太郎は思い出した。
正太郎もちょっと引っかかってはいたが、なぜかは全くわからなかったので、首を横に振った。
「こんにちワンに話したんだ。ACクリスタルの反応をサーチする機械で彼を見つけたんだって、こと」
「?」
なんで芽生ちゃんはこんなときにそんな話しをするのだろう。
「ボウキャクの根はいくらでも出せる。あいつを倒すには、中心・・・コアを倒さなきゃダメ。だけど、その位置がわからない。だから、私たちは攻められないでいる。だけど・・・その位置がわかると言ったら?」
そこでやっと芽生は正太郎の口から手を離した。

「わかるの!? どうやって・・・」
芽生は静かに、というジェスチャーをして正太郎の声を落とさせた。

「この結界でボウキャクは結界の中の人間から心を喰うことができなくなった。ならどうするか・・。一番近い、人間じゃないものを食べるはず。さっき言ってたよね、「コア近くから摂取せねばならない」って」
正太郎はうなずいた。

「だから・・・、こんにちワンは地下に引き込まれちゃったんだね」
「AC本部の設備をフル起動させて、今こんにちワンの場所を把握させてる。ボウキャクがこんにちワンを喰おうとする瞬間、一瞬だけ移動が止まるはずなの」
芽生が体の陰に隠すようにして正太郎に見せたACウォッチから、ひっきりなしに位置を報告する声がしていた。
小さな声の上に正太郎にはわからない専門用語混じりだが芽生にはわかっているはずだ。

「お願い。その瞬間まで待って」
芽生の目は氷のように澄んで、決意に光っていた。
「絶対に、あいつが助かるようにタイミングを読み切ってみせるから!」
正太郎は肩越しにグレートありがとウサギを見上げた。
もちろん、彼は芽生の話を聞いていた。鋭い拳の合間にきらりと目が輝く。
「・・・うん、芽生ちゃんを信じてる」
正太郎はにっこり笑った。

2012-01-22 21:12:05

攻強皇國機甲 第五話 ⑤

テーマ:小説 攻強皇國機甲

「正太郎!! 大丈夫!?」
シアが正太郎の肩を掴んで叫び、その声で正太郎は現実に戻った。
誰もいない体育館に午前中の白い光が差し込んでいる。
心配そうなシアが間近から正太郎の顔をのぞき込んでいるので、驚いて数歩下がった。
「あ、あれ?」
見上げても宙に現れたと思ったACアニマルの姿もない。ほんとうに幻想でも見たのかと思いかけたとき。


ドーーーンッ!!


正太郎が状況を理解し直す間もなく、校舎のどこかで爆音がした。
「な、なに!? え!?」
シアがうろたえてきょろきょろ周りを見回した。
音は外からだ。
正太郎はものも言わずに外へ駆け出した。



「・・・うわあっ!?」
思わず声が漏れた。校庭の様子は一変していた。
グラウンド全体を多い尽くすように、ねじくれた巨大な根のようなものが一面はびこっていた。
根は地下から地面を割り、校舎に巻き付こうとするもの、道路へはみ出て行こうとするもの、悪魔の鉤爪のように上空へ延びるもの、視界一帯うめつくしてぞわぞわと気持ち悪くうごめいている。
空気は掘り返された地面の臭いでむせかえるようだ。

「これが。大神祭!?」
正太郎は袖口で口元をかばい、くぐもった声で言った。

「そう、こいつが大神祭・ボウキャク。あまり近寄っちゃダメだよ!」
上から子供のような声が振ってきて、正太郎が見上げると、校舎の二階部分のひさしの上に、見慣れない金属の煌きがある。
つやのある銅色のボディ。

ありがとウサギより若干小さい人型のロボットが膝をひさしについて正太郎を見下ろしていた。やや厚い装甲で、がっしりした印象だ。
「きみは・・・」
「助けてくれてありがとう。ボクがこんにちワンパワードです」
にっと笑うその頭の後ろから、
「正太郎!!」
「芽生ちゃん!!」
芽生がこんにちワンパワードの背中から、半分転がり落ちるように降りてきた。
いつもきれいに二つ分けに結んでいる髪の毛は乱れ放題で、顔は涙でくしゃくしゃだった。
「・・・よかった、怪我はないの!?」

芽生はその言葉を聞いて急に手ぐしで髪の毛を直し、あわてて顔をぬぐった。唇をちょっととがらせてそっぽを向く。
「だ、大丈夫だから」
「え」

「わたしは大丈夫だから、正太郎はさっさとアイツをなんとかするの! みんなを逃がさなきゃ!!」
芽生がひさしから降りようとしてその高さに躊躇しているのを、こんにちワンパワードが手を差し出して地上へ導いた。

「正太郎! 変な根っこみたいなのが入ってきて、みんな逃げまどってる。避難・・・あっ芽生ちゃん! 無事だったんだ!!」
体育館から走り出てきたシアが走ってきた勢いそのままに芽生の肩に抱きついて喜びの声を上げた。
「まって、シア。私は大丈夫だから、先にこの学校のみんなを避難させるの」

シアの両手をつかんで下ろし、芽生が若干赤い顔で言った。シアはごめんね、と謝ってからキッと厳しい顔をする。
「わたし、放送室に行くね! 正太郎はアイツをお願い!」
喜ぶのは後。シアはすぐに校舎内に消えた。その間もボウキャクの木の根のような一部は窓ガラスを割って校舎内に次々と侵入していく。
「私は本部に連絡して警察と連携をとる。ACアニマルは、正太郎に任せたからね」
芽生はACウォッチを作動させてみた。どうやら幸運なことに故障もなくすぐに起動のライトが付いた。

そういえば、ありがとウサギとさよなライオンは大丈夫だろうか。うっすらと理科準備室に向かうといっていた記憶があった正太郎は声を張り上げた。

「さよなライオン! ありがとウサギ! 大丈夫!?」
正太郎が叫ぶと、芽生のACウォッチから返答があった。
あまりにも予期していないところからの返事に、芽生が思わず小さな悲鳴を上げた。
「大丈夫だ。理科準備室は壊れてしまったようだが・・・。二人とも大事ない。そこにいるのは、こんにちワンパワードだな?」
ありがとウサギが冷静な声で言う。
「大神祭を一人で封じ込めるなんて無茶しやがって。いつでも呼んで良かったんだ。そのための仲間だろ!」
さよなライオンの声もする。
二人の声にこんにちワンパワードは苦い笑いを浮かべていた。


さよなライオンはつい最近まで自分が消滅寸前で誰かを助けるどころの状態ではなかったことを棚に上げている。
でも。それがライオンらしさだ。

「ちょっと二人とも! いつのまにACウォッチに割り込めるように・・・、詳しくはあとで問いつめるからねっ!」
芽生がむっとした顔をしているのは、自慢の発明品に易々と介入されてしまったからだ。
正太郎はACウォッチに向かって叫ぶ。

「さよなライオン! 今シアが放送室に向かったんだ。シアを護って!」
「了解!」
小気味よい返答があって、さよなライオンの気配が動き出す。
ありがとウサギは正太郎たちのいる方へ移動をはじめている。
いつの間にか正太郎はACアニマルたちのだいたいの位置を把握できるようになっていた。

「今、ボウキャクは混乱してる。ボクが消滅せず結界が解除されたことがどういうことなのかまだわかっていないんだ。今ならその隙をついてみんなを逃がすことができる・・・!」
こんにちワンパワードが立ち上がって言った。
「アイツの力からみんなを護るのは、ボクに任せて」
「そんなことができるんだ・・・!」
正太郎が感心すると、AC本部と細々したやりとりを始めていた芽生がふと言葉を切り、
「私のことも護ってくれたの。本物よ」
とだけ言った。またすぐ横を向いてしまったが、どことなくうれしそうに見えた。

「芽生ちゃんを護ってくれたんだ、ありがとう!」
「ううん、お礼なんか・・・・えっ!?」
こんにちワンパワードの表情が凍った。
正太郎は突然視界が斜めにゆがむのを感じた。
しまった、というような声がどこかで聞こえる。
なんかこれって、真夏の炎天下で遊びすぎたときに似てる。
頭から血が引いて、上から暗い幕が下りてくる感じ。

(魔力コントロールに慣れないうちは、挨拶をしただけで私たちが変形してしまうこともある。気をつけて)
いつかそんなようなことをありがとウサギがいっていたのを正太郎は思い出した。
ありがとウサギと出会ってほんの一、二ヶ月の間はうっかり変身させてしまうことが、実は何度かあった。
最近はそんなこともなくなっていたのだが、さっきこんにちワンとの心の同調で魔力コントロールが変調を来たしていたのかもしれない。
――まずい、かも。


そのとき、近くの校舎の壁面を破ってグレートありがとウサギが姿を表した。
「なぜ突然変形が・・・?」
自分の手を見つめ困惑した様子でいたが、気づいて正太郎たちの方を見た。
「ありがとウサギ! 正太郎が、魔力の限界値をこえたんだっ!!」
こんにちワンパワードが叫び、芽生がこちらを向く。両目が丸く見開かれ、口が悲鳴の形に歪む。
倒れるんだな、と妙に突き放した悟りとともに、正太郎は地面に倒れ込んだ。

「正太郎!?」
グレートありがとウサギが崩れた校舎の欠片をけちらして駆け寄った。芽生がなんとか正太郎の上半身を助け起こすと、うっすら目を開ける。不幸中の幸い、意識を失ってはいない。
「ごめん・・。力が抜けちゃって」
「あんなに注意しなきゃダメだって、長官もみんなも言ってたでしょっ!!」
力なく笑う正太郎の頭をパシンと平手で叩いた芽生の上に、ふと陰が落ちた。


「危ないっ!!」

ガキィッ!!

堅いもの同士が激しくぶつかり合う音がして、正太郎と芽生の上に金属の細かい欠片がいくつか飛び散った。
いつの間にかのたくる植物の根が獲物をねらう蛇のようにみんなの頭上に近寄ってきていたのだ。
こんにちワンパワードが右手を振り抜いて植物の根のようなボウキャクの体を打ち払っていなければ、平らに潰されていたかもしれない。

「・・・気づかれたようだな」
グレートありがとウサギが低く言い、人間二人をかばうように振り返る。

『・・・ほぅ、ほう。ACクリスタルどもか』

しわがれた老人の声だった。
その声を耳にした人間は先刻芽生が感じたものと同じ、胃のひっくり返るような猛烈な不快感に襲われ、その場に次々と倒れ伏していった。
芽生はこんにちワンが結界内で守ってくれた効果がまだ続いているのか、軽い頭痛で済んでいる。が、いつもならそういう攻撃に強そうな正太郎も苦痛に顔をゆがめ、両手で頭をきつく押さえている。

ボウキャクは声で人の心と記憶を喰い荒らすのだ。
シアの放送誘導で避難を始めていた校内にも、たちまち苦痛と悲鳴が交錯した。

「きさま・・・やめろっ!!」
グレートありがとウサギが校庭でうごめく巨大な根を手当たり次第に引きちぎり、吹き飛ばす。
『無駄だ。お前等が何人増えようと、ワタシには効かぬ。力を使い果たし、空っぽになって砕け散るがいい』

「くっ! 手応えが無い・・・!」
見た目ほど頑強でないのか根は易々と引きちぎることができるが、ボウキャクの声はダメージを負った様子が微塵も無い。
その上校庭のどこからでも根は無数に生えてくる。
「このままじゃ、みんな・・・が」
正太郎が弱々しくうめいた。
だが、その心はまったく折れていなかった。
なにかの役に立とうと必死で目を開き、心を集中させボウキャクを観察する。しかし・・・。なにも見つかりそうにない。


誰もが次の手を打ちかねたその時。
「・・・・ボクがいく!」
こんにちワンパワードが、誰がなにを言う間もなくずたずたに荒らされた校庭の中心へ駆けだして行った。
「無茶よ!! どう戦えばいいかもわからないのにっ!」
芽生が叫ぶ。
「後は頼みます。芽生さん!」
その言葉に芽生が息をのむ。
「待てっ! 無闇につっこんでどうする!!」
ありがとウサギが続こうとするのを、いきなり活性化したボウキャクの根がどっと襲いかかりその動きを阻む。
『さがっておれ 力無きものどもが』
「くっ!」
ありがとウサギは立ち止まって植物の根のようなそれらを打ち払った。
根は一撃で粉砕できるようなものだが、数が多く、一つでも通せば後ろは校舎。進むことができない。

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