インド、サトナという小さな町の駅にて。
早朝の駅の警察署には濃い顔のおっさんが一人普段着でいた。本当に警察署かよ!?と思ったがどうやら本当らしい。
このおじさんに、ことの事情を説明したが、なかなか英語が伝わらず苦労した。
『僕の発音がインド風じゃないからかな?』
と思って、ちょっぴりrの発音を巻き舌にしてみたが大して効果が現れないみたい。どうやらこのおじさん、あまり英語が得意じゃないみたいだ。
何度も何度も同じことを説明して、盗難に遭ったことが何とか伝わったみたいだ。やっぱりショックで余裕がないみたいだ。イライラしすぎている。でもまだ眠いから頭はそんなに回らない。
一時間かそこらで調書をようやく書いてもらった。
盗難にあった品を海外保険で補償してもらうためには、盗難の証明書がいる。おじさんにそのことを説明。一所懸命に説明。
こっちは必死だ。何とか証明書を作ってもらった。といってもおじさん、英語がかけないらしい。
まっさらな紙とペンを持ってきて、
「おい、お兄ちゃんや、これに私が英語で言うことを書いてくれな」
と。
おいおい、盗まれた当人が証明書を書くんかいな。おっさんの英語を聞きながらとりあえず書いたが、これはどう見たって高校生が一所懸命書いた作文じゃねーかよ。
『これ、日本で見せてちゃんとお金戻ってくるのかな・・・』
不安はあるが、今はこのおじさん、警察官だけが頼りの綱なので従うしかない。
紙の裏側、正式には表側を見たら、ヒンデゥー語でちゃんとした証明が書かれていた。実はさっきから時間がかかっていたのはこの書類を書いてくれてたからなのだ。少しホッとしたが、果たして日本でこれを見せて理解してもらえるかが不安・・・
待ってる間、列車で知り合ったサトシ君が、持ってるギターで曲のフレーズを弾いてくれたりしてちょっと心が和む。
『まあ、これから何とかなるっしょー』
ってな楽観的な気持ちになってきた。ここでもし僕一人だったらかなりきつかっただろうなあ・・・ 苦境を分ってくれて、しかも言葉が通じる相手が近くにいてくれて本当に良かったな、と思える。
あ、そうそう。前の記事でも言ったが、現在の所持金二人合わせて134ルピーだ。日本円で300円ちょっと。しかも、内一人はT/Cからカメラ、帰りの飛行機のチケットまで盗まれてすっからかんだ。これはかなり危機的な状況。
サトシ君は、ドル紙幣なら持ってるんだがなんせまだ朝7時とかだから銀行は開いてないし、第一どこに銀行があるのかさえ分らない状態。
その後、警察署の所長らしき御偉いさんが出勤してきたので、どうにか両替してくれと頼んだがもちろんNOだった。
サトシ君は両替してくれる人を探したが、やっぱりだめだった。
このサトナ駅の警察署の人々。警察官についてだが、実はかなり親切な人だった。最初、僕はイライラしていたけど、次第に打ち解けるにしたがって悪い人じゃないと思えてきた。
僕らは所持金が少なくて、朝食を買う余裕がなくて、チャイもパンも何も食べずに数時間を過ごしたいた。証明書を書いてくれたおじさんはそんな僕らを気にしてくれて、チャイとバターを塗ったパン一切れを出してくれたのだ。
途方に暮れて、腹が減って、頭がフラフラしてた僕にとって、この時のチャイとパンの味は旨かったなあ、と今でも思う。
困難に遭って「人の親切さ」がやけに身にしみる。
少し、泣けてきたな、この時。全て盗まれた自分のバカさ加減と、そして周りの人の暖かさに。
周りで聞き込みをしたところによると、サトナからカジュラホーへ行くバスは9時半に出るらしいとのこと。料金は一人60ルピーらしい。
駅からバスステーションまでは距離があるのでリクシャを使わなければならない。
バス代二人分120ルピー + リクシャ代10ルピー = 130ルピー
所持金は134ルピーだ
警察署で、僕とサトシ君は悩んだ。
ギリギリ間に合うバスへ向かうか、それとも銀行が開く時間まで待って、お金を手に入れてから行動するか。
カジュラホーへのバスは一日数本しかないとの情報がある。次はお昼過ぎだろう。乗り過ごすとカジュラホーに着くのは夜になる。
僕らは、少ない所持金をポケットにつっこんで振りしきる雨の中、バスステーションを目指すことにした。