彼我の隔たり
テーマ:いにしえに迷う
ヨーロッパ
の古い街には所々に広場があり、それが散歩のための格好の目標になる。
だが、その時に限り、行けども行けども目当ての広場に行き当たらない。
ワイン
の酔いもさめ、弾んでいた気持ちもしだいに焦りに変わってきた。
真冬の異国の闇路、心細さが募ってきた。
道を間違えたのだろう。
きっと、とんでもない方向に歩いているんだ。
あたりは真っ暗闇。
心もとなさと焦燥にかられ、しぜん急ぎ足になっている。
古い石畳やアスファルトに響く自分の靴音が、不安をいやます。
いつの間にか、冷たい雨さえ降り出してきた。
方向感覚をなくしたローマの夜道を、駆けるようにさ迷った。
と、そんな時である。
小さな私を押し潰すように突然、眼前に黒い巨大な物体が出現した。
瞬時のうちに黒々とした大きな塊が前方に立ちはだかり、異郷人
を威嚇したのである。
驚愕し、戸惑いながらも暗黒に目を凝らした。
コロセウムである。
巨大なコロセウム
の廃墟である。‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥ ‥
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そのとき私は、2千年前の古代ローマ
の闇に、茫然自失として立ち尽くしていた。
暗澹たる歴史の深遠のただ中に放り込まれた、あわれな遠来の東洋人であった。
ひとしきり激しくなった雨の中で私は、彼我の文明の底知れぬ隔たりを感じていた。
その奇怪で、おどろおどろしい瓦礫の山ほど私に、西洋文明
との違和感、取り付く島のない断絶感を覚えさせたものは、いまだかつてない。
私は、奈良に遊ぶときは光明皇后
ゆかりの新薬師寺の宿坊に泊まることがことが多い。
皇后が夫、聖武天皇
の眼病平癒を祈願して建立された古寺である。
あまり広くない境内の菩提樹の下に、会津八一
の歌碑が立っている。
ちかづきて あふぎみれども みほとけの
みそなはすとも あらぬさびしさ
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