「龍門」2010受賞作品講評
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【最優秀賞】 モンブランパトロネージ深瀬記念視覚芸術保存基金賞
該当なし
本年は応募者が例年に比較して格段に少なく、最終審査(実物審査)において、審査員団は「最優秀賞の該当作品なし」という判断をせざるを得なかった。昨年は過去に他のコンペティションでグランプリを受賞した作家が何人も応募して来る激戦ぶりであったことを振り返れば大変に残念である。
本コンペティションは、作品のイノベーション性に着目し、ジャンル・メディウムを問わずに審査する、ほぼ唯一の毎年開催の同時代芸術コンペティションとして存在意義を有すると考えられるため、次回開催に向けては応募者が従前に復するよう工夫していきたい。
【準優秀賞】
木谷安憲 「sea orange」 「moon green」 キャンバス、油彩 各727×606mm
一見当たり障りのないポップ絵画にも見えるが、子細に見ると、単にポップなだけではなく、かつて日本の浮世絵が西洋絵画にもたらした、前景・背景の重層化、平面化、様式化、マスク化といったジャポニズムの諸要素を逆輸入して、日本の景色の中で現代技法により再構築したものであることが見て取れる。この点がすぐれて21世紀的であり、作家が意識をしようとしまいと、いわゆる「オルタナティブ・モダン」──ポストモダンを超えて再び「モダン」のアプローチに取り組み更なる発展を遂げようとする国際的な動向──に沿った作品となっている。かつてムンクが「叫び」を表現した舞台設定と画面構成において、木谷安憲が描く女の子たちは、とても現代日本的な、骨抜きで幸せなほほえみを浮かべている。また確固たるブラッシュ・ストロークと構築的な画面から、本様式が作家にとって完成されたものであることが判る。
【準優秀賞】
田中俊之 「dwarf tree fountain (盆栽泉)」 銅、樹脂、木、陶器、ポンプ、洗剤、他 1200×420×420mm
ガラスで作った盆栽が枝から気泡を吹き出し続けるキネティックな立体作品である。あたかも木の葉が二酸化炭素を吸い込み、光合成して酸素とするがごとく、台座に仕込まれた機械仕掛けのポンプが、洗剤で作った泡をオブジェの枝から吐き出していく。本作品は、こうした動力の仕掛けをもってキネティック概念の外延を延伸していくという、20世紀終盤以降の立体作品の展開に沿っているほか、「泡」というエフェメラルな素材を使用する点で、素材の多様化という流れも踏まえている。枯れた木の枝からシャボン玉が膨らんで破裂し消えるといった、見た目の滑稽さもさることながら、台座から盆栽の器、盆栽本体に至るまで、熟練したものづくりの手技を感じさせる。本来は環境問題等の含意もあったものと推測されるが、作品内容や題名からは判然とせず、コンセプトが十分に伝わって来ない点がやや残念であった。
【奨励賞】
斎藤藍 「お婆さんとねっことなみだ」 刺繡糸、レース糸、ロープ、きばた、竹、タイル 1200×700×30mm
作家がある日、「お婆さんに、ねっこ(roots)について諭される夢を見た」ことから、この作品は生まれたという。刺繍という美術作品においては特殊な技法を採用したがゆえに既視感が強く感じられた点や、他の作家の影響を受け過ぎているように見える点、作品の最終仕上げに安定感がない点に不安が感じられることも事実だが、本作品の「お婆さん」と「ねっこ」と「なみだ」という主題の重層性と物語性、刺繍をミクスドメデイアの一部として利用し、支持体を立体キャンバス化する工夫、同時に応募された他の作品で透過性のあるメディウムを2層化して刺繍したイメージを多層的に展示する工夫など、単なる刺繍にとどまらず様々なイノベーションを試行する努力が認められる。2009年東京造形大学彫刻科卒業の新人であり、これら新表現主義的な立体刺繍作品から始まる今後の展開が楽しみである。
三友周太 「QP in the box @ GINZA」 ピンホールカメラ、キューピー人形、写真 600×450mm
Ray Projectsの中心メンバーのひとりとして、これまで「サイトシーング・バス・カメラ」等で展開してきたピンホール・カメラの系列に属する新作である。従来のトレーラーやバスをピンホール・カメラに仕立てた作品では、内部に乗り込んだ人間の正立像が、外部の景色の倒立像とともにスクリーンに映写され、印画紙に焼き付けられていたが、この作品で作家は小型ピンホール・カメラの中に人間の代わりに倒立したキューピー人形を置き、モノクロの倒立した銀座の街並みの中に倒立したキューピーの影を滑り込ませている。不思議な浮遊感を持つキューピーが町並みの中に映り込むことにより、キューピーのみならず街並みもフィクショナルな世界に見える効果を引き出している。このような写真の内容は高く評価できるが、パネルの仕上げが荒く、作品の本来の良さを減殺してしまっていたことが残念であった。
2010年10月20日
アート・コンペティション「龍門」審査委員長 深瀬 鋭一郎
















