美術館見学【東京国立近代美術館】 | しもりえにっき

 12月になり冬の寒さになってまいりました。まだ緑が残っていた銀杏や紅葉もいっきに色づき始めました。数日前に行った神宮外苑の銀杏並木も美しい黄色に染まっていましたよ。
 この秋、本教室は生徒作品展や写生会など楽しいイベントが目白押しでしたね。その中でとりを飾ったのが
美術館見学でした。
 本教室は毎年一度はみんなで美術館に名作を鑑賞しに行っているんですよ!

 今年は竹橋にある
東京国立近代美術館へ行って参りました。これまでは毎回、講師の僕が作品解説のガイドをしていましたが、今回は美術館のスクール・プログラムに参加し、美術館のガイドスタッフによる解説ツアーを体験して参りました。

 この日、鑑賞した展覧会は、近美所蔵の13点の重要文化財をはじめとする選りすぐりのコレクションを紹介する、
「美術にぶるっ! ベストコレクション日本近代美術の100年」です。



 1時45分に近美の前庭に集合しました。実はこの日は、生徒先品展  「SHIMORIENNALE2012」の最終日でもあり、午前中にみんなで新宿のギャラリーにて搬出作業をして来たので、美術館見学は、この日の第二部スタートという感じでした。

↑新宿駅西口プロムナードギャラリーにて搬出作業の様子
 エントランスに移動してまいりました。ここで、美術館の学芸員とギャラリートークをして頂くガイドスタッフの方々から挨拶と本日の説明がありました。

 今回の鑑賞方法は本教室の参加者が約40名と大所帯でしたので、3チームに分かれて、それぞれのチームが違う作品を鑑賞するスタイルとなりました。

 さあ!いざギャラリーツアーへ出発です!
 こちらは
のメンバーを集めたAチームです。始めにみんなで手遊び歌を歌って子供たちの緊張をほぐします。
グーチョキパーで♪  グーチョキパーで♪           なに作ろう♪  なに作ろう♪

 そして美術館での基本的なマナーを教わります。「作品には触らない事。館内では走らない事。そして静かな声で話しましょう!」


ロベール・ドローネーの≪リズム 螺旋≫
を鑑賞しました!
           この絵には なに色が 使われているかな?

       見て見て! 色が水の 波紋みたいだよ!       オレンジがあるよ!

 子供たちは次々と自分のまなざしで、あらゆるものを発見していきます。どんな色が使われているのかな?オレンジの隣にブルーがあるとどう見えるかな?この色の下には他の色がかくれているよ!絵の全体を観て色がどういう動きをしているように感じるかな?音にするとどんな感じ?「ポワン、ポワン、ポチョン、ポワワワ~ン」

 続いて
アントニー・ゴームリーの≪反映/思索≫です。この人は なにをして いるんだろう?              う~~ん??


裸んぼだ!
 この人物像はいったいいくつあるの?一見、ガラスに映り込んでいる虚像に見えますが、実はガラスの向こう側にも、もう一体実像があるのです。
「ガラスの向こうに行ってみよう!」

     ふむふむ!   背中に 雨が垂れた 跡があるよ!   

*ゴームリーのこの作品について、もう少し詳しく知りたい方は、こちらをクリック
ブログしもりえにっき<東京国立近代美術館②【ゴームリー】>

 さてさて、一方こちらはBグループ午前クラスのメンバー達です。

 4階展示室まで上がって来ました。まず最初の作品は・・・

 中村彝≪エロシェンコ氏の像≫です。この中村彝は、本教室がある下落合ゆかりの画家なんですよ!アトリエ跡がもうすぐ新宿区立の中村彝記念館になる予定です。楽しみですね!

 重要文化財に指定されているこの作品、モデルは盲目のロシア人詩人エロシェンコさん。中村が目白駅前で出逢い、その造形に一目で惚れ込みモデルになってくれるよう頼み込んだそうです。この作品はルノワールの影響が見られますね。レンブラントに強い影響を受けた作品(ブリヂストン美術館蔵)もあって、僕はそっちも大好きなんですよね。

 続いて中村つながりで、
中村宏≪階段にて≫

 以前このブログにも書きましたが、なにを隠そう中村宏先生は僕が
造形大時代に師事し、今に至るまで大変お世話になっている恩師なのです!「先生!みんなで観に来ましたよー♡」
詳しくはこちらをクリックブログしもりえにっき<中村宏先生>

 これこそ
「ぶるっ!」とくる作品ですよね。いっぱい便器も描いてあるし。中村宏先生はじめ日本における1950年代の美術社会的な出来事に深い関心を寄せながら、現実への働きかけを図りました。中村先生も砂川闘争や日米安保などの社会的問題を題材にしながら、その時代におけるリアリティーをARTの世界に取り組もうと、表現の実験と研究を重ねられました。僕は先生の初期の頃の作品に比ると、この頃の作品から表現内容的にも技術面においても幅が広がり、自由を獲得されたんだなと感じたので、その事を先生にお伝えすると、「あー、そう言ってもらえると嬉しいね。」とおっしゃっていました。
 ちなみに≪階段にて≫の右側に描かれている首の長い女性は、先生が今でも想いをよせる
ブリジット・バルドーだそうですよ!

 次は
ブリジット・ライリー≪賛歌≫。すっごい目がチカチカします。

 これはオプティカル・アート、略して
オプ・アートといいます。観る者に特殊な視覚的効果を与えるような作品です。当然、絵画はアニメのように動くことはありませんが、ライリーの絵をじーっと見ていると、色が手前に出てきたり、奥に引っ込んで行ったり、線がうねったように感じたりします。これは錯視の知覚心理学的なメカニズムにもとづいて描かれた、一種のだまし絵です。

 この絵はとても大きいです。ロスコやニューマンといった抽象表現主義の作家達の作品も非常に大きなものが目立ちます。これは人間の身体の大きさと密接な関係があるのです。この絵は画面から離れて観るより、近づいて観た方が、作者の意図に沿うと言えるでしょう。近づく事によって、
大きいゆえにキャンバスの縁は視界から消え、視界は色と形に包み込まれます。するとやがて画面との距離感は麻痺し、同時に身体は色と形の世界に投げだされる感覚に陥るのです。観る者は色と形の純粋な効能を味あわさせられる事になるのです。

 ライリーの画面は、絵画がずっと格闘してきた
二次元表現の属性としてのイリュージョンを明解な方向へ解決しました。しかしそれは明解なゆえに一般性を持ちましたが、絵画への根源的な問いかけは弱いとされます。オプ・アートは次なる展開としては、必然的に絵画のスタイルとしてよりも、光や動きの芸術などへと引き継がれていきました。

 さあ、そしてBグループ一行は2階の
「疑うことと信じること」という展示室にやって来ました。
 みんなが観ているのは、
河原温≪Date Paintings≫です。

 これはコンセプチュアル・アートと呼ばれる作品です。一日に一枚、決まった方法で制作されます。絵画という形式を用いながら、意味を極限まで削ぎ落とした記号を用いています。

 「概念芸術」とも言われ、作品それ自体よりも、制作の着想とプロセスこそ芸術である、という考えのもとに表現されます。それはそれまでの表現を問い直し、美術の在り方を批判し、「芸術とは何か?」という仕組み自体を探求するムーブメントでした。


ロバート・ラウシェンバーグ≪ポテト・バッズ≫



高松次郎≪No.273(影)≫

 ここでガイドツアーは終了。残りの1時間は各自で
自由鑑賞です。

上村松園≪母子≫

藤田嗣治≪アッツ島玉砕≫
 東京国立近代美術館には、このような数多くの
「戦争画」と呼ばれる作品が無期限貸与という形で所蔵されています。
詳しくはこちら→ブログしもりえにっき<東京国立近代美術館③ 【戦争画】>

鶴田吾郎≪神兵パレンバンに降下す≫
 この鶴田吾郎さんも下落合ゆかりの画家です。
下落合周辺には本当に多くの画家が居たんですね!安井曾太郎も下落合に住んでいて、安井の曾孫と僕は小学校・中学校の同級生だったんですよ!ちなみに本教室のアトリエに掛かっている時計は安井の曾孫の結婚式の引き出物です(笑)。

安井曾太郎≪金蓉≫

マックス・ぺヒシュタイン≪版画集「われらの父」より≫


 
最後は再び前庭に集合し、締めのお話をして解散となりました。生徒の皆様方には楽しんで頂けましたでしょうか。一流のARTに触れるという事は、美術を学ぶ上で重要である事は言うまでもありませんが、人生を歩んで行く上においても、たいへん有意義な事であると言えるでしょう。
 この日観た展覧会は「美術にぶるっ!」というユニークなタイトルでしたが、皆さんは今までに出会った美術作品で
「ぶるっ!」としたことはありますか?本当に自分の心に突き刺さり、感情の奥底を鷲づかみにされ、ぐらんぐらんと揺さぶられて涙が出るほどに感動した作品と出会うというのは、実はとても稀な事なのではないかと僕は思います。実際僕も、これまでに数多くの作品を観てきましたが、そういった作品と出会った経験はたった3回しかありません。しかし、そのたった3回の機会で出会う事ができた3作品が、今の僕の生きていく上での重要な心の拠り所となっています。まるで運命の人と出会うような確率ですよね!
 皆さんにも運命の作品との出会いがありますように!

絵画教室 下落合アトリエ
講師 村尾 成律
www.shimorie.com