今回は平成28年3月12日(土)~3月13日(日)に
法政大学 小金井キャンパスにて行われました
日本樹木医会と法政大学植物医科学センター共催の
「樹木医実践技術講座」での内容を
3回のシリーズに分けてお届けいたします。

1)屋敷林・里山の歴史と音
2)屋敷林・里山で発生する音の特性(そよぎ音・せせらぎ音)
3)音が人に与える影響ー優しい音の原点・ゆらぎ特性ー

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「樹々とそよぎ -樹木、庭園、里山、ひとと、風・音とのかかわり-」
     法政大学生命科学部 福原博篤(㈱エーアール)
第2シリーズ:屋敷林・里山で発生する音の特性(そよぎ音・せせらぎ音)

4.風による樹木発生音の樹種による違い

 私たちの住居に近い屋敷林や里山を構成している樹木・竹類は風がそよぐことで揺れ、それに伴い音が発生し、耳に届く。音はその発生源から離れるにつれ小さくなる。しかしながら音発生源で音量が同じであっても、面的寸法の大きさの違いにより、音源と受音点の距離が同じであっても耳に入る音の大きさは異なる。寸法の小さな音源の場合音源と受音点の距離が2倍になれば基準点における音源の1/4つまり6dB小さくなる。しかしながら大きな面積を持つ音源の場合、面寸法(直径)の約1/3の距離までは音量はほとんど変わらず、それより遠くなるにつれて次第に小さくなる。そこで風のそよぎにより樹木類がどの程度の音量でどのような音の性質(周波数特性)を持っているか調査し、屋敷林や里山と住居の距離や林の規模により私たちの耳に届く音量を推定することが出来る。

 図2は樹木、竹類が風によりそよいでいるときの音を測定した例である。風は約1m/秒~4 m/秒程度の風速時であり、風速が大となればやや音も大きくなる傾向はある。

 風により樹木の葉や枝が揺れ、空気の流れ(風)が乱れる。また葉同士がぶつかり合い、そこに音が発生する。これらの現象が生じ始めるのは樹種、季節で葉の柔らかさが異なるものの、風速では約0.5m/秒~1m/秒程度、それ以上の風速になると音量の増加につながる。ここで示した資料は樹木等から58mの距離で、1m/秒~4m/秒程度の風速時における可聴音の測定結果である(図中の太線は平均値を示す)。



樹種により風のそよぎで発生する音量が風速により大きく変化するものと、あまり変化しないものがあり、私たちの聴覚の特性を考慮した騒音計の周波数重み特性(A特性)で測定した結果は、ほぼ50dBA65dBA強まである。

 落葉広葉樹の場合、葉が柔らかい初夏前は2kHz4kHzの高い周波数に音の主成分があり、中域(250Hz1kHz程度以下)、低域(125Hz以下)になるにつれ、レベルが小さくなる傾向がある。初夏から初秋の葉が割合硬い期間は、中域から低域の周波数がやや大きくなり、落葉前から落葉後は低域の周波数が更に大きな音となる。

 常緑広葉樹は通年において落葉広葉樹の夏場の周波数特性と同じようなパターンである。

針葉樹では、松が主体の場合1kHz2kHzの周波数に大きなレベルがあり、低周波数域が中域と同じくらいのレベルになる。風により発生する松独特の音が「松籟」と言われるゆえんではないかと考えられる。

杉は500Hz5kHzの広い帯域が大きなレベルになり、松のような独特の音色と言われる特徴は見られない。しかしながら風速が大きくなると樹先端部で「ゴーッ」というジェット機の音に似たような音が聞こえるようになる。

 竹林の場合、種類による違いはあまりないものの、4kHz5kHzが最もレベルが大きく「サラサラ」という音が耳に残る。風がやや強くなると枝同士が衝突、絡み合い「カラカラ コツン」という音が中域の周波数で発生することもある。


5.水の流れ、動きにより発生する音の特性

写真7は湧水等からの自然の流れ(土水路)、写真8はコンクリート3面貼り、写真9は水の漏水防止施工後、川岸底に石や砂利、草などを配置した近自然水路である。それぞれの流れにより発生する音を測定した結果を図3に示す。なお3つの図は周波数重み特性は平坦特性で、パワースペクトルを測定したものである。


写真7











落水は少量の水が糸状や水滴のような場合、多量の水が滝のように落ちる場合、岩肌を滑るように流れ落ちる場合では音量とその周波数特性は異なる。糸状や水滴様の場合、いくつかの特定の周波数が卓越した楽器を奏でるような音となり、滝状の場合広帯域の周波数特性を持ち、俗に「ホワイトノイズ」的な性質を示し、恐怖を感じるような音色である。それに対し岩肌を流れ落ちる形状の場合、柔らかな音色で割合耳に優しい「ピンクノイズ」的な性質である(写真10、図5)



波音は鹿島灘、九十九里浜のように外海の波浪が直接打ち寄せる場所、瀬戸内海のようにやや小さな波、沖縄やそれより南のように珊瑚礁内側の浜に寄せる波では全く異なり、外海が直接寄せる浜は音量が大で、波打ち際から10mくらいの地点で75dBAを超えるレベルになる。瀬戸内海の波音の場合波打ち際から5mくらいの地点で60dB程度である(写真11、図6)。また岩場に寄せる波は音の強弱、周期は一定とは言えず、細かな変化になる(写真12、図7)。




参考資料
6)福原博篤「水の形態と音響特性」日本騒音制御工学会 技術発表会講演論文集 1995

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