有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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前回の話はこちら

 

63話はこちらから

 

 

 

 

「水でもぶっかけるか?」

「いや、さすがにそれは…俺はソファーで寝ますから」

 

 

マンションに着いたのはいいが、瑛斗くんの部屋の鍵がなかなか見付からず、おまけに当の本人はグーグーいびきを掻いて熟睡中、仕方なく今日は俺の部屋に泊めることにした。華奢な体型のナギとは違い、図体のデカい瑛斗くんじゃベッドの殆どを占領、しかも酒臭いし、俺はベッドに寝るのを諦めざるを得ない。

 

 

「零さん、珈琲でも淹れましょうか?」

 

 

車からここまで零がおぶってくれたのを思えば少しはサービスしないとバチが当たりそうだ、しかし、零のことだ、てっきり「お前が淹れたコーヒーなど不味くて飲めるか」とでも言いそうな気がしたが…

 

 

「そうだな、淹れてくれ」

「は?」

「は?じゃねーよ、お前が淹れるっつたんだろ!」

「す…すぐ淹れます」

 

 

熱でもあるんじゃないだろうか?湯を沸かしながら俺はただただ首を傾げるばかり、まあ、怒られるよりかはいいんだけど、ああいった素直な反応をされると張り合いが無い、とも思ってしまう。

 

 

「あっち!お前、熱過ぎだろ!」

「す、すみません…淹れ直します」

「もういい、俺がやる」

 

 

別にわざとじゃないのだが、ひと口飲んでみると確かに熱く、零は「唇、火傷したらどうしてくれんだ」と、ぶつくさ垂れながら湯を沸かし始めた。申し訳なさより、普段通りに怒られた事に嬉々となる、熱があるのはどうやら俺のようだ…

 

 

「珈琲ってのは湯の温度で味が全然違う、お前も日陰ならそれくらい勉強しろ」

 

 

確かに、零が淹れ直した珈琲の熱さ加減は絶妙で、安いインスタントなのに喫茶店に近い味わいを引き出している。珈琲の淹れ方一つを取っても俺が零に届くまでまだまだ先は長そうだ。

 

 

「そういや、瑛斗くんなんですけど…」

 

 

石倉純の教育係となった零と向かい合わせに2人っきり、今後は滅多にこういう機会も無いだろうと察した俺は、思い切って瑛斗くんの言葉を伝えてみた。「卑怯なことはしない」って言い張り、その主張を崩さなかった瑛斗くん、それはつまり零への絶対的信頼の証拠である。

 

 

「ふん、買い被りだ。トップに立つ人間に真っ白な奴など居ない、真っ白な奴は大抵、潰されるってのがこの世界の本質だ、政治家も芸能人も一般庶民も…勿論、日陰も」

 

「まあ、そうかもしれないっすけど、少なくともあの計画に関しては加担してなかったんですよね?」

 

「加担してると言えばしてるし、してないと言えばしてない。加担の定義次第だな、俺とお前の「加担」は多かれ少なかれ違うものだ」

 

 

「それって…」俺が言い掛けると零は静かに首を横に振り「お前が知る必要は無い」と、普段通り、クールに呟いた。含みを持たすだけ持たせて正解を教えない、そのやり方は零の十八番だけど、俺が絡んだ…というより中心人物な事案だ、充分に知る権利はある。

 

 

「俺や瑛斗の言葉を真に受けてばかりじゃ、今日を繰り返すだけだ。お前も懲りたなら人など信じるな」

「だけど…」

「お前は無力だ、俺から何かを訊き出したいなら…」

「零さんを追い抜くしかない。分かってますよ」

 

 

…何だよ、勿体ぶりやがって。やはりコイツとは相容れない、しかめっ面で冷めかけの珈琲を飲み干した俺は自ら話を切り出すのを諦め、零の言葉を待つことにした。

 

しかし、腕組みしながらチビチビと珈琲を啜る零を前に、この沈黙は重い。それに「冷めちまったら美味しく淹れた珈琲も台無し」と、ツッコミたい衝動にも駆られ、俺の脳内はモヤモヤだらけ、加えて、少し、尿意を催しているのだが、俺の意地っ張りな部分は「席を立ったら負け」だと囁き、この体勢の保持を先決させる。

トイレに立ったら零もきっと勿体ぶったまま帰ってしまう、そういった危機感も合わさった結果だ。

 

 

「お前、そんなに俺を抜きたいのか?」

 

 

暫くして零が見下すように言い放った瞬間、俺は「勝った」という達成感に見舞われ、返事に詰まった。口調や言葉の意味を理解するのに発生したタイムラグに、零は顔をしかめてもう一度同じ質問を投げ掛ける。

 

 

「お前、そんなに俺を抜きたいのか?」

「…はい。俺だけじゃない、ナギだって狙ってます」

 

 

ナギのくだりは余計な一言かもしれないが、苛立ちを感じる口調を前に俺はつい口走った。だが、零は格別驚くことも無く、淡々と続きを語り始める。

 

 

「ナギの闘争心はかつての俺だ。恐らくお前の闘争心もそうだろう」

 

「それじゃ、俺とナギが同じみたいじゃないっすか!?少なくとも俺は人を陥れる真似なんかしません!」

 

「ナギも最初はそうだった。人を陥れる真似なんかしない、同じ台詞を吐いてたな」

 

 

…零の口振りじゃ、ナギは未来の俺だと暗に決め付けているようなものだ。さすがに心外だが、零は俺の憤りに構う素振りさえ見せずに続けた。

 

 

「顧客がそうであるように日陰もまた、過去を背負っている。ここは十字架を持つ輩の集まりだ」

「…零さんも?」

「ああ。俺もナンバーワンに憧れた。だが、それは十字架から目を逸らすための悪足掻きだったんだろう」

 

 

十字架から目を逸らすための悪足掻き。

 

 

俺はその言葉に零の闇を垣間見た気がした。それは同時に弱さの露呈でもあり、当たり前のことだが、この男はちゃんと血の通った人間だってようやく思えたんだ。

 

 

結局のところ俺も同じなのかもしれない、借金返済以外の目的は救いという名の誤魔化しだ。

 

零を目の敵にして、彼を抜くことに何の意味があるのか?

 

誤魔化しによって作られた目的を果たせば俺は満足するのか?

 

きっと違うんだ、俺の選んだ道は形は違えど父さんみたく家族を棄てた行為でしかなく、その罪を抱える限り平穏な日々など訪れやしない。

 

 

邪魔な感傷と零の存在の狭間で俺は静かに、されど確かに揺らいだ。抜け出せない街に抗う術も無ければ任せる覚悟も無い、零の言葉の一切は激しく俺の胸を打ったのである…

 

 

(続く)

 

 

 

 

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