有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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前回の話はこちら

 

46話はこちらから

 

 

 

「ワオ!慧じゃありませんか!奇遇ですね、いや、これは運命かもしれません、僕らは結ばれる運命なのさ、ハッハハー!」

 

 

…帰宅する前に事務所に立ち寄るとここら辺の空気に全く馴染まないカイルの爽快な声が響いた。既に慣れているのかキョウコは気に留める素振りを一切見せず相変わらずタイピング中だ。

 

 

「カイルも来てたんだね。キョウコさん、保管庫を使わせてもらいます」

 

「どうぞ。ナギさんご紹介の顧客のデータも入っておりますので」

 

「ありがとうございます。あれ?キョウコさん…昨日より髪が伸びてません?」

 

「はい?」

 

 

カイルの笑いは聞き流せてもさすがに今の一言は俺自身、違和感満載の言葉であり、キョウコが眉をひそめて上目遣いになるのも無理はない。でも、昨日は確かに耳が見えるくらいのショートカットだった。「髪切ったんですか?」って聞いたら「鬱陶しいので排除しました」みたいな言葉が返ってきて冷や汗を掻いたのを鮮明に覚えている。だが、それが今は黒い髪が腰の辺りまで及んでいるのだ。俺の問い掛けは間違いじゃない。

 

 

「仰っている意味が分からないのですが…」

「いや…だって昨日は短かったじゃないっすか。もしかしてウイッグとか?」

「これは地毛です。触って確かめます?」

 

 

…明らかに不快感を示す挑発的な口調に俺は触れない方が身の為だと察した。昨日怒らせた件からしてもその方が賢い選択である。

 

 

「勘違いでした。ハッハハー」

「オー!慧は実につまらないジョークを言うね。髪が伸びるだって?呪いの人形じゃあるまいし、ハッハハー」

 

 

フォローのつもりかディスってるのか知らないがカイルの言葉によって緩んだ空気は俺を保管庫まで誘う。顧客情報の記載と閲覧に来ただけなのにどうしてこんなに疲れなきゃなんねーんだ…

 

 

パソコン操作も多少は速くなり、成長に笑みを浮かべる中、ナギの顧客のデータファイルに触れると、俺は最初に表示される顔写真の衝撃に一気に顔が引き攣った。プリンセス桜はあのままの状態の写真が載ってたし小久保真里の場合は元有名人だったのを考慮してか写真の掲載は無かった。しかし…今度はどちらにも当て嵌まらないケースだ。

 

 

(仮面?)

 

 

白く、目と口元が不気味に笑う仮面、カイルと初めて会った時の「スケキヨ」に似てはいるが笑みのあるせいか、ここに映った仮面はホラーの領域に思える。顔写真がNGならば小久保真里のように何も載せなければいいのに敢えてこんなものを掲載している辺り、俺の背筋に冷たいものが走った。

 

 

本名の記載も勿論無く、「ドロシー」という通称で呼ばれているらしい。オズの魔法使いのドロシーの事か?まあ、特に理由の存在しない通称かもしれないけど、年齢も性別も不詳、その下には「常に仮面を被っていて顔写真に使うのもドロシーの指示」と、恐らくナギが記載した文字が並んでいる。

 

 

ドロシーは自らセックスをするわけではなく、キャスト同士を絡ませてそれを見学するのが目的。セックスショーの主催も兼ねており、かなり大口の顧客であるのが予想される。

 

 

…ドロシーの正体に辿り着けそうな記述は無いが、こういうのを顧客に加えるナギもナギだ。ま、だからこそナンバー2のポジションに立てるのかもしれないけどさ。

 

 

一通りデータファイルをチェックして事務所に戻るとカイルとキョウコの他にオーナー、円城寺司の姿があった。面接時以来、初めて顔を合わせたのだが、光沢のある紫のシャツに金ぴかネックレス…俺が言うのも何だがセンスの欠片も無い。

 

 

「おお、慧か。話は聞いている。新人だってのにもう契約を二つも結んだそうじゃないか」

「まあ、零さんのおかげですけど…」

 

 

マッサージチェアーに座るのは前も見た光景だが、1つだけ大きな違和感があった。キョウコはオーナーの存在をスルーするかのようにパソコンに集中して、代わりにカイルがお茶を出しているのである。そもそもカイルは何のために事務所を訪れたのだろう?

 

 

「慧もお茶、飲みますか?」

「あ…うん。ありがとう」

 

 

ニコニコしながらも口調はどこか落ち着いており、それもまた違和感を覚える。まあ、普通に考えりゃ雇い主の前なのだから当然なのかもしれないが、どうも空気が重いというか…さっきまでのが嘘みたいにピンと張り詰めている。

 

 

「慧、零から「教育係を辞めたい」と言われたんだが何かあったのか?」

「あっ…いえ、大したことじゃ…」

 

 

オーナーに手招きされると俺は叱責されるのを覚悟で彼のすぐ隣に立った。零を怒らせたのは確かだし、ナギから「零さんを怒らせるとここじゃ生きていけない」と忠告を受けたのも確か、キョウコから何も言われなかったのでてっきりお咎め無しかと予想していたのだがあまりに考えは甘過ぎたようだ…

 

 

「アイツは1人でやっていけます」

「は!?」

「零は君を高く評価してるらしい。いやー、まさかこんな数日で零に認められるとは大したもんだ」

 

 

…ガハガハ、と、下品に笑いながら俺の肩を叩くオーナーを前に俺は狐につつまれたような、キョトンとした表情になった。会う度に俺を不快ばかりにさせ、見下した態度しか取らない零が「高く評価」とか…信じろってのが無理な話だ。

 

 

「君にはこれからも大いに期待してるよ。なあ、お前もそう思うだろ?ミサ」

 

 

ミサ?キョウコに向かってミサ?首を傾げる俺に構わずキョウコは「そうですね」と同意し、カイルはお茶と菓子を運んで来る。聞き間違い…かな?もしくはどっかのキャバ嬢や風俗嬢の名前を口走ってしまったとか…

 

きっとそうだ。というよりそれくらいしか考えられる可能性は無い。俺はこれ以上気に留める事無くグラスに入った烏龍茶に口を付ける。すると…突然ドアが勢いよく開き、その向こう側の景色に俺は危うくグラスを落としそうになった。

 

 

「「お待たせしました」」

 

 

夢でも幻でもない奇妙な出来事ってのはこれほどまでに突発的なものなのか?服も靴も姿勢も歩幅も全く同じ2人に口をあんぐり開けた俺は念の為、キョウコの姿がパソコンに向かっているのを確認した。間違いない、確かにキョウコはパソコンの前に座って特に面白くも無さそう…即ち、普段通りの表情で2人を眺める。

 

 

服も靴も顔も表情さえ全くそっくりな2人を…唯一の違いは髪の長さくらい…そうだ、右の女は昨日見たキョウコと同じショートカット…

 

 

「驚かせてすまないね。別に隠していたわけじゃないんだが…」

 

 

驚愕は隠さぬままにドッペルゲンガーの仮説を立てた頃、オーナーはまた下品な笑い声を上げて極めて単純な種明かしをしてくれた。そしてそれはキョウコに抱いていた疑問も解消されたのである。

 

 

「改めて紹介しよう。髪の短いのがキョウコ、パソコン前に居るのがミサ、腰まで髪が伸びてるのがアイカ、三つ子の姉妹だ。ここの事務所は3人体制で稼働している」

 

 

…8時間の3交代制勤務、確かにそれなら24時間誰かが常駐してるわけでこれだけそっくりじゃキョウコがたった1人で働いているのだと誰もが勘違いするだろう。

 

 

「ちなみに3人とも私の娘だ」

「は!?」

 

 

このままじゃいつか本当に心臓発作を起こしそうだ…

 

混乱状態の頭が痛みというSOSを送る中、俺の視界は彼女たちの後ろに立ち尽くすカイルの表情を捉えた。正直、三姉妹に圧倒されてカイルの存在をすっかり忘れていたのだけど、その表情に俺ははたまた驚愕する。

 

 

昨夜、瑛斗くんと見たあの強張った顔…しかし、恐怖という印象は受けない、どちらかというとカイル自身が何かに怯えるようなそんな表情である。

 

 

「すまないがゆっくり話している時間は無い。カイル、行くぞ」

「はい。慧、君は先に帰ってなよ、お疲れ様」

 

 

「姉妹は娘」発言くらい説明してほしかったが、オーナーもえらく真面目な顔付きに変わったので俺はただ黙って彼らとやって来たばかりの姉妹が去るのを眺めるしかなかった。

 

 

「あの…ミサさん…でしたっけ?」

「キョウコで構いません。私たちは髪型以外の違いなどありませんので」

 

 

…あくまで機械的な口調を通すミサにありとあらゆる疑問などぶつける無駄のような気分になり、俺は1人取り残された孤独感の中、マンションに帰った。明日は何の予定もないし難しいことを考えるのは明日でいい。

 

ドロシーについても記憶の片隅に追いやられるほどの混乱と疲労困憊に今の俺は眠り以外欲するものなど何も無かった…

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

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