有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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前回の話はこちら

 

27話はこちらから

 

 

 

「頼む!頼むよ!一晩だけでいいからさ!!」

「嫌だよ、一晩じゃ済まないでしょ?諦めなって」

 

 

 具体的な内容は怖くて訊けなかったけど昔、凄惨な殺人事件が起こり、しかも現場は俺の家とちょうど重なるらしい。当時は一軒家でその後更地になったのだけど取り壊しの最中に作業員が事故死したことと、夜中に足の無い少女が現場ですすり泣くのを近所の人が多数目撃したこともあり暫く買い手がつかなかったのだ。

 

 

 しかし、オーナーだけは違った。ほぼほぼ廃虚と化したここら一帯の土地を安価で買い上げ賃貸マンションや寮として使うことにしたのだ。上の階の入居者たちにおいては事故物件だと承知どころか「そういうところに住んでみたい」という到底理解出来ない考えの中で暮らしているそうだ。まあ、こういう物件は一般的な不動産屋じゃなく闇ルートでしか知り得ないらしいけど…

 

 

「じゃあ、部屋替わってくれよ。俺の家が一番出る確率高いんだろ?」

「試しに泊まったこともあるけど別に何も無かったよ。むしろ俺のとこの方がけっこう出るかも。カイルが見たんだって和服を着た少女が…」

「わー!いい!その話いい!聞きたくない!!」

 

 

 瑛斗とカイルが居る前では冷静さを装っていられたものの、歓迎会も終わりナギを連れて部屋に戻ると俺は「臆病者の本来の自分」を思う存分垂れ流すこととなった。ナギに「ビビり」だの「情けない」だの言われようとも俯瞰で見ればとんでもない醜態を晒しているのだとしても「平気」と強がって1人になるよりかはマシだ。

 

 

「けどさ、実際問題、他の寮は空きが無いんだよ。引っ越すにしてもお金が掛かるし…それともネットカフェで暮らす?」

「…そんな余分な金なんか無い」

「じゃあ観念しな」

「ナギが泊まるなら観念する。頼むから一緒の部屋に居てくれよー」

「瑛斗くんに頼めば?優しいから添い寝してくれるよ」

「あんなのと一緒に寝る方が怖えーよ!」

 

 

 …瑛斗には非常に申し訳ない失礼な発言ではあるが、それを口にしてしまうほどの錯乱状態なのだ。時計は夜10時を示しており、玄関先の押し問答もかれこれ一時間、明日の支度とかシャワーを浴びるとかしなきゃいけないことは多々あるのだけど一時間も説得に費やしてるのだ、今更大人しく帰すわけにはいかない。大人しく帰すくらいならもういっそ朝まで押し問答を続けてもいいとさえ思えてくる。

 

 

「もう…仕方ないなぁ。いいよ、一緒に寝てあげても」

 

 

 朝まで付き合わされることをナギも想像したのだろうか?深い溜息と呆れ果てた表情で「敗北」を宣言すると俺はナギの辟易に構うことなくガッツポーズを掲げた。だが、そんな喜びは束の間、ナギはニヤリと笑って表情を一変させ「ただし…」と、続きを口にした。

 

 

「昼間の提案、呑んでくれるならね。呑まないならそれでもいい、瑛斗くんに君の御守りを頼んであげる」

「!!」

 

 

 あの歓迎会の圧が強過ぎて今の今まですっかり忘れていた…もしかしたらこの一時間はナギの筋書きによるものなんじゃないかと思うくらいほくそ笑む姿にコイツの悪魔が顔を出したのだと悟る。

 

 

「顧客の中にはセックスを鑑賞したいって言う人も居るんだよね。今じゃ女性向けのボーイズラブものAVだってあるくらいだしオーナーはBLセックスショーもビジネスに取り入れてるんだ。というわけで君さえよければ僕と絡まない?」

 

 

 最初に聞かされたときは何かの冗談だと思った。だってさ、セックスを鑑賞するっていう時点で意味が不明過ぎだ。自分も加わって3Pしたいとかならともかくセックスを鑑賞したところで自らの性欲が満たされはしない、俺だってもし目の前で男女が絡み合っていたら…鑑賞するだけなんて生殺しだ、その絡みに疼く勃起を交わることで解消したくなるに違いない。

 

 

「…ナギは抵抗ないのか?俺を相手にするなんて」

「別にゲイじゃないけど金になるなら抵抗なんて無いさ。君にとっても悪い話じゃないと思うけど」

 

 

 …1人で眠ること、或いは瑛斗に添い寝してもらうのと比較すればナギとのセックスを受け入れた方がいい、昔から幽霊の類に傍から見れば尋常じゃない恐怖を抱く俺とすれば頷くしかなく、ナギの「サービスで今日からしばらく一緒に寝てあげる」という言葉が神の救いにさえ思えた。

 

 

「客には俺から言っておくからよろしくね、兄ちゃん」

「兄ちゃん?俺ら、兄弟って設定なのか?」

「そうだよ。つーわけで風呂入ろう。押し問答のせいでクタクタだよ」

 

 

 何が「つーわけで」なのか不明だけどこの時の俺の選択は多分間違いじゃなかった。いや…例え1人で眠る方を選んだとしてもその先にあるものに違いは無いのだと思う。ナギと絡む日付がほんの少し遠くなる程度だ。

 

 

「あ、言い忘れてたけど恋愛は禁止、あと、ビジネス以外のセックスも禁止だからね」

 

 

 バスタブに溜まっていく湯を楽しそうに眺めながらナギは軽い口調で言い放ったが「ビジネス以外のセックス」という聞き慣れないフレーズに俺は戸惑う。別に恋人を作る気でも無ければ風俗に行くつもりもないけど俺の性は単なる商品だって遠回しに言われた気分だ。理解していても実際に言葉にされると違和感があり、それも幼気な少年の姿を晒すナギに言われりゃ尚更だ。

 

 

「けど、ビジネスに繋がるセックスなら許される」

「…どういう意味だ?」

 

 

 脱衣所から腕を組んで見下ろす俺を振り返るとナギは徐に立ち上がりこっちに歩み寄る。そして、次の瞬間…

 

 

「!」

「予行演習は必要でしょ?ぶっつけ本番の下手なショーを客に晒すわけにいかないんだから」

 

 

 不意打ちのキスに動揺しながらも俺はナギの言葉に同意を示すよう頷いた。コイツも零も、きっとカイルや瑛斗も日陰業に対する熱情は本物だ。そして、小久保真里とのプレイを経た今の俺もひたむきに真正面からこの日陰業に向き合いたいのも確か…

 

 

「怖いなら無理強いしないけど」

「んなわけねーだろ。俺が怖いのは幽霊だけだ」

 

 

 挑発的なナギに向かって今度はこちらからキスしてやると俺らは互いの衣服を脱がせ始めた。長い夜になりそうだ、と、胸の中で溜息を付きながらも俺の身体は不思議と高揚感に満たされ、零に近付く一歩であるのを確信するのだった…

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

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