有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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5話はこちらから

 

 

 

 

「零、彼、麻生慧の教育係になってくれないか?」

 

 …麻生慧って誰?突拍子もない円城寺司の言葉は俺を現実に引き戻し、零と改めて対峙するきっかけとなった。俺より10cmくらい背が高いせいで見上げる格好となるのが惨めだ、せめて身長ぐらいこの男に勝っていたなら多少は優位な笑みを浮かべたかもしれないのに。

 

「それってつまり好きなように使っていいってこと?」

 

 コイツも円城寺司に雇われている身であるはずなのに対等に喋るだけでなく途中でフリスクまで貪って…何様だよ。さっきまでの羨望が誤解であったかのように俺は無性に腹正しい気分になった。

 

「まあそうだな。お前の元に居れば自然と身に付くだろう。えっと…立原仁くん、君は今日から麻生慧と名乗ってもらう。詳しいことは零とキョウコに訊いてくれ」

 

 …何で名前まで勝手に決められなきゃならないのか、俺としても多少の抗議はしたいところだが円城寺司は付け入る隙を見せないようにナギを促して足早に去っていった。口調は穏やかだが、表裏のあるキナ臭い人物なのは間違いない、黙って従う方が得策だろうか。

 

「君も寮に入るんでしょ?正式な仲間だ、よろしくね」

「あ、ああ。よろしく」

 

 ナギに握手を求められて反射的に応じるとその手の小ささを改めて思い知る。コイツは中身を窺うより先に見た目に慣れる必要があるだろう、まあ、それを除けばこの中では一番まともに話せそうな気もするが慣れるまでが険しい道程だな。

 

 円城寺司の背中に向かってナギが出て行くと騒々しさの一切はシャボン玉の泡のように儚く消え去り、重々しい沈黙だけが残った。虚ろな表情を保持し続けるキョウコと傲慢な態度が鼻に付く零、こんな2人に囲まれるのは針の筵以外何物でもない。効き過ぎた空調のせいかヒンヤリとした空気までもが俺の敵であるかのように思えてくる。緊張の糸がピンと張り詰めてここに味方など居ないことを思い知らされる。

 

「では麻生慧さん、カバンの中身を拝見させていただきます」

 

 返事をする隙間も与えずキョウコは俺のボストンバッグを半ば強引に奪い取ると床の上に中身を全てぶちまけた。

 

「ちょっと!乱暴に扱うなよ!」

「衣類一式と洗面具…スマートフォンはこちらで回収致します」

「これも回収しとけ」

 

 背後から放たれる零の囁くような声に俺は愕然と身体中が震えるのを感じた。尻のポケットに手を突っ込まれ中から抜かれたのはいざという時の切り札になるはずだった小型のレコーダー、膨らみが露わにならないものを選び、気付かれないように細心の注意を払っていたというのに…

 

「ここに来る奴は大概こういうのを持ち込む。お前らの考えなんかお見通しなんだよ」

 

 床に投げ捨てたレコーダーは零の高価そうな革靴によって木端微塵にされ、俺は身の危険にただ怯えるしかなかった。だが、零もキョウコもそれ以上レコーダーについて追及することはなく、何事もなかったように他の荷物チェックを淡々と行う、俺の行為に対するお咎めはナシってことか?

 

「ダッセー服ばっかだな、キョウコ、荷物は全部処分しろ」

「了解しました」

 

「いやいやいやいや!生活に必要なもんばっかっすよ!」

 

 Tシャツの裏地まで入念に調べていたキョウコは零のたった一言により全てを掻き集めて透明なゴミ袋の中へと詰め始める。そりゃ確かに零に比べりゃ俺の服などボロ切れでしかないのかもしれないが、ここの寮に入るのを前提に生活必需品をありったけ詰めた俺としてはさすがに制止の手が伸びる。だが、咄嗟に零は俺の腕を掴んで身動きを取れなくさせた。後ろ手に回されると手首に強い力を掛けられ「痛い!痛い!」と、叫んでいる隙に衣類は勿論、洗面具やスマホまでもが無惨にゴミ袋へと押し込まれていく。

 

「ス、スマホ!スマホは絶対ダメ!!」

「スマホの持ち込みは禁止だって聞いてなかったのか?残念だが外部へ勝手に連絡を取られるわけにいかないんだ。キョウコ、後でデータとか消しとけよ!」

「分かっています」

 

 涼しい顔のキョウコは不様な俺の姿に気に留めることなく、ロッカーから一台のスマホを取り出し掲げてみせた。

 

「こちらを使って頂きます。発信や着信の履歴などは私のもとに情報として入りますのでくれぐれもお気を付けください」

「要するに仕事用のものってことだ」

 

「そんな…家族でもダメなんですか?」

 

 振り返るのが何となく怖くて俺は俯いたまま溜息混じりに吐きだした。多少の期待も抱いていたがそれもまた無惨に潰されてゆく。

 

「ここにはプライベートなどというものは存在しない。お前は常に見張られ監視されてると思え。万が一規則を破ったら…」

 

 躊躇いなのか、言葉を選んでいるのか、グッと詰まった零にようやく人間らしさが垣間見えたと思ったがそれも束の間、キョウコは容赦なく死刑宣告みたいなのを淡々と告げる。

 

「あなたの家族の命が危機に晒されるでしょう。ですから大人しく従った方が身のためかと」

「自分の立場ってのをわきまえるんだな。お前に拒否権はない」

 

 …そこまで言われるとぐうの音もでないのだけど、キョウコはともかくどうして零まで上から目線なのか、それだけはどうしても納得出来なかった。この男の立場だって俺と同じはずなのに、借金を抱えて流れ着いた鼠に違いないはずなのに。

 

 

 カーテン越しの陽射しの眩しさに家族の面影を感じつつも俺はもう陽のあたる場所には戻れないのだと奥歯を噛み締める。けれど、俺の選んだ道だ。後悔はしていない。俺はようやく解かれた両腕をポケットに突っ込んで陽射しから目を背けた。次の命令を待つ従順な鼠に成り下がった瞬間だったのだろうけど、歯向かうほどのプライドなど生憎持ち合わせてはいない。

 

 プライドで金は稼げない、そういう類のものは俺にはもう不要なのだ。

 

 

(続く)

 

 

 

 

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