有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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3話はこちらから

 

 

 

 

「やあ、よく来たね。話は聞いてると思うけど私が「honey moon」のオーナー、円城寺司だ。まあ、座って」

「は、はあ…」

 

 手渡された名刺には確かに「honey moon 代表取締役兼社長 円城寺司」と印字されており、俺は少々面を喰らった。honey moonは「ハネムーン」と同じ意味だと記憶しているが、敢えてこの名前を付けた円城寺司のセンスは俺にはさっぱり理解不能だ。

 

「会員制」と掲げているくらいなのだから室内はクラブかバーのような雰囲気かと予想していた。だが、まず俺を待ち構えていたのは所々カウンターに汚れのある受付と受付嬢。スーツに身を包んだ彼女はモデルのような端正な顔立ちと豊満な胸、カウンターの隙間から覗く長い素足は俺の男の部分を見事に擽る。

 

 しかし、端正な顔立ちを全て否定するかのような生気の失せた瞳は陰を感じさせ、薄幸という言葉が相応しい印象を受けた。笑みの一切零すことなく奥へと案内されると薄っぺらいカーテン一枚を隔てて円城寺司がマッサージチェアーに腰を下ろしていた。デスクや棚などの並びは申し訳程度に置かれているだけで、それ以外は実に殺風景だ。マッサージチェアーを椅子代わりにしている辺りは哀愁さえ感じて果たしてこんなとこで金が稼げるのか、不信感を抱かずにはいられない。

 

 

 

「どうぞ」

「…どうも」

 

 テーブルを挟んだパイプ椅子に腰掛けると受付嬢は冷たい烏龍茶を運んできて、俺は今更ながらさっきの少年の姿が見えないことに気付いた。

 

(もしかしたらあれは幻だったのではないか?)

 

 …などと思い込めるほど俺はお気楽な人間ではない、あの少年…ナギとか言ったっけ?彼は確かに存在してここに入るまで一緒だったのだ。とはいえ、恰幅の良い強面の円城寺司を前に俺は尋ねる勇気もなく烏龍茶をチビチビ飲みながら彼の言葉を待った。

 

「殺風景で驚いただろ?勿論、ここが本社じゃない、裏稼業は秘密厳守だからね、あくまで面接用の場所だ」

 

 黒々と日焼けした肌と真っ白い歯のコントラストがギラつきと若さへの縋りを彷彿とさせる。見た目は30代半ばくらいだが実年齢はもっと上なのだろう、白いシャツと黒のパンツはシンプルながらも光沢があって、アンチエイジング効果に拍車を掛ける。かといって無理して若作りしている風にも見えないのはシャツ越しからも確認出来る逞しい筋肉のお陰かもしれない。

 

「君、セックスの経験は?」

 

 あまりにも突拍子のない質問に俺は戸惑いながらも「一応あります。高校生の時に一度だけ」と、若干震えた声で呟いた。正直なところ本当に愛人業なんてものが存在するのか半信半疑だった俺としてはこの質問に現実を突き付けられた気分だ。闇というのは表面上では計り知れない濃度がある、愛人業の存在もその内の一つなのだろう。

 

「こんなところに売られて気の毒だとは思うがこっちもビジネスだ。質問にはしっかりと答えるように」

 

「はい」

 

 ビジネス…勿論、改めて言われなくても分かってはいるのだが、このギラつきを目の当たりにすると生々しくて反吐が出そうだ。それと同時にさっきの少年の幼気な顔が鮮明に過ぎって俺は軽い混乱に陥る。

 

(あんな幼い子が愛人業?)

 

「その一度のセックスの相手は?」

 

 俺の混乱などお構いなしに円城寺司は矢継ぎ早に性的な質問をいくつも投げ掛け、怯みを見せればまた注意されそうだったので俺は羞恥の一切を排除して堂々と答え続けた。性が露わになる様はまるでアダルトビデオの面接みたいに思えたけど、身体を売るという点については違わないのだし、これらの質問の内容は正しさの上に立つのだろう。

 

「質問は以上。じゃあ最終試験だ」

 

 セックスやらオナニーやら性癖やら洗いざらい喋るのは少々疲れたけれど、円城寺司の実に不快な笑みを前に表情を変えるのはシャクだ。まあ、立場的には当然なのだろうが、金持ちが貧乏人を見下すのと同じ類の笑みほど俺の神経を逆撫でするものはない。だから俺の胸は熱さに熱さを帯びて怨念みたいな生臭さがそこから込み上げてくる、視線を逸らせば負け、そんな勝手なルールに従って円城寺司と対等に向き合うのだ。例えそれこそが円城寺司の思うツボだったとしても染み付いた習慣はそう簡単に引っ込みやしない。

 

「キョウコ!ナギを連れてこっちに来てくれ」

 

 酒焼けしたような低く渋い声が響くとしばらくの間沈黙が流れてドアの開く音がした。さっきはあまり意識していなかったが軋みが酷く「ギーッ」という鈍い音が俺の不快指数を底上げする。

 

 

「おやっさーん、ウナギ食いたい、ウナギ!」

 

 こういう雰囲気に不釣り合いな無邪気なナギの騒めきに円城寺司は苦笑しながらも「少し待ってろ」と、やけに優しい口調で放ち、もしかして親子だろうか?とも思ったけれど親子なら「おやっさん」などという呼び方はしないだろうし、一向に疑問は解消されず歯痒さだけが喉元に詰まった。一方のキョウコと呼ばれた受付嬢は相変わらず世捨て人みたいな虚ろな顔でナギより一歩下がった位置に立ち止まる。

 

 

「じゃあ、脱いで」

「は?」

「ここで全裸になれるかどうか、それが最終試験だ。君の覚悟を証明してもらいたい」

 

 …ポーカーフェイスはすっかり崩れて唖然となる俺に対しナギは相変わらずの人懐っこい笑みを浮かべてキョウコも一切の表情を変えることはなかった。ここに面接に来た人間は全員、この最終試験とやらを受けているのだろう。どっかに隠しカメラでも仕掛けてあるんじゃないか?と、疑ってもみるが、円城寺司の「嫌だったら帰ってくれて結構」とでも言いたげな不敵な笑みに俺の熱は更に昂った。

 

 それに、俺にはもう帰る場所など無いのだ、唯一の選択肢は従順になること。

 

「分かりました」

 

 俺は徐に立ち上がるとストリッパーの如く一枚一枚脱ぎ捨ててゆく、例え本当に隠しカメラがあったとしても人生を積んだ俺に失うものなんかありゃしない。無言よりかはストリップショーで流すようなBGMでも掛けてくれりゃいいのに、そんな開き直りを自身に言い聞かせると、俺は三人の視線を存分に浴びながら最後の一枚、つまり下着にそっと手を掛けるのだった…

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

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