ソフトウェアの開発プロセスは、時折、建築のプロセスに例えられる。しかし、決定的な違いがある。ソフトウェアには物質的な「材料」がないのだ。だから、材料費を削ろうにも削れないので、安心 ・・・ なんてことは全くない。
ソフトウェアは、ほとんど「人力」で出来ている。削れるものがあるとすれば、人間の作業時間、つまり開発工数なのである。費用面でも、人月(にんげつ)ベースの価格設定をしているような受託開発では、開発工数(期間×人数)が少ないほうが、安くなる。
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もちろん、普通のシステム開発会社が、悪意のある「偽装」をすることはないだろう(と思いたい)。問題は、顧客から無理な納期を設定された場合である。金額面での要求なら、営業的な対応もできる。しかし、開発期間が十分に確保できないにもかかわらず、納期を延ばしてもらえず、要件も削ってもらえない、といった状況は、どうしようもない(※1)。
当然、開発者は、出来ないものは出来ないと主張するだろう。見積精度云々の問題もあろうが、その道のプロが出来ないと言うのだから、出来ないとみなすのが正しい判断だ。しかし、顧客は「なんとかしてくれ」という。そして、商売上の理由だとか会社の力関係だとか、技術者には理解できない暗黒の力が働いて、結局は開発がスタートしてしまうのである。
開発者が、無理な納期を守るために、まずできることは、残業や休日出勤による作業量の確保である。この業界では、徹夜続きでおかしくなってしまった人の話は珍しくない。鉄筋を削る前に自分の命を削るあたり、耐震偽装の連中とは違うのである。
もちろん、開発手法の工夫や技術的な工夫によって、効率化できることもあるだろう。しかし、それにも限界がある。
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もともと出来る見込みのないことが出来るはずはない。やってみたら出来ました、なんて都合のいい話は期待しないほうがよい(※2)。結局、「出来たように見せかける」ための偽装が始まる。
システム開発で削られる「鉄筋」は、「テスト工数」だろう(※3)。結果としてモノが出来る工程ではないため、削りやすいのだ。もちろん、品質を確保する上で、最も重要といってもよい工程のはずなのだが・・・。
ひどいときには、発注者の側から「テスト工数は減らしてもいいから、納期内に納めてくれ」といった要求が出されることすらある。建築業者に「鉄筋を減らしてもいいから、安くしろ」と言うのと全く同じではないか。
品質はどうあれモノが出来ればよい、という考え方が、耐震偽装問題と同じなのである。しかし、こうして納期内に納められたモノは、実は全く「出来ていない」のだ。
品質の悪いシステムを使うことは、システム化をしない場合よりも悪い結果になることも多い。それなら、最初から納期を延ばしておけばよかった、ということになるのである。
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もちろん、開発側の問題で、納期に間に合わなくなることもある。しかし、私の経験からいえば、顧客側の無理なスケジューリングや、無理な仕様変更、要件提示の遅れなどが原因となることのほうが多いように思う。
納品を「する側」と「される側」とでは、どうしても納期というものを受け止める重さが違う。そのことが、スケジュールに対する姿勢の違いに現れるのだろう。
納期が動かせないようなプロジェクトなら、どうしてもっと早く取り組まないのか、と言いたくなることがよくある。開始が1ヶ月早かったら、無事に開発できただろうに、というケースもよくあるのだ。
システム開発を発注しようという人には、「納期厳守」という言葉がどういう意味を持つか、よく考えてもらいたいものである。
※1
単純に作業者の数を増やせばよいという問題ではない。1人で100日掛かる仕事が、100人いれば1日でできるか、といえば、そんなことはない。システム開発は「袋貼り」のような単純作業ではないのだから。そんな簡単なことも分からない人は多いのだが・・・(→ 関連記事: 続・プログラマは誰でも同じ? )
※2
この業界は見積の精度が低いので、十分ありうることではある(→ 関連記事: やってみなきゃわからないという現実 )。しかし、それを期待すべきではない。
※3
「悪魔に心を売っても納期を守る! 裏技術 (@IT) 」を読めば、システム屋は共感し、そうでない人は驚愕するだろう。これが現実である。
■リンク
・悪魔に心を売っても納期を守る! 裏技術(@IT)
・耐震強度の偽装問題(Yahoo!ニュース)
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