日本の名盤 vol.1 | 井の頭天文台

日本の名盤 vol.1

僕がクラブイベントで初めてDJをしたのは1992年でした。

池袋のライブハウスの深夜のクラブイベントで、当時はまだ US/UKのインディーロックを廻していました。その後いろいろな変遷があり、1996年に日本のロック専門のクラブイベント『Rock.jp』を始めました。1999年には『フィッシュマンズナイト』、2006年には『ナイトミーティング』というやはり日本のポップス中心のイベントを始め、今は不定期にDJをしています。つまりなんだかんだ言って今年2017年はDJ25周年的な感じだったりします。

そんなわけで何か新しいイベントを始めたいなと漠然と思っていたのですが、ちょうど六本木varit. の TKC から1/24に何かやりませんか?とお誘いを頂き『日本の名盤 vol.1』を開催することとなりました。

この企画は元々2016年にフィッシュマンズのアナログボックスの発売があった際に、アルバムを発売順にアルバムの曲順で廻すイベントを行ったことに端を発するアルバムそのまま聞く系のイベントです。「それってDJ?」とか「CD聞くだけじゃん」という意見があるのは重々承知です。

しかし、DJが同じアルバムの曲を一曲しか廻してはいけないとか、音が途切れないように繋がなければいけないとか、同じ曲を2回かけてはいけない等々といったルールはありません。僕は以前から、あえて繋がないで無音を一拍入れるとか、同じ曲を2回連続で廻すとか、そういうことを普通にあるいは意図してやっています。それと同じでアルバム単位のDJというのも今後も普通にやっていきたいと思っています。

しかし、そこは腐ってもDJ。アルバム単位でのセレクトでも手は抜けません。人生の大半を音楽を聞くことに費やして生きてきたDJとしてのセンスというか人としての生き様が問われるところですから、死ぬ気でセレクトします。そして、記念すべき第一回に選んだアルバムが下記の4枚です。あえて1990年代の最も音楽を聞いていた時代、そして最も愛するバンド達のアルバムに絞ってみました。

 

『生活』 / エレファント カシマシ

『クロスブリード・パーク』 / ニューエスト・モデル

『空中キャンプ』 / フィッシュマンズ

『kocorono』 / ブラッドサースティ・ブッチャーズ

 

すべて何十回いや百回以上は聞いたアルバムで、人生や価値観の一部になっていると言っても決して言い過ぎではないアルバムです。4つのバンドはデビュー時期こそ微妙に違いますがメンバーがほぼ同年代です。ブッチャーズの吉村さんが1967年生まれですが、エレカシの宮本さん、ニューエストの中川さん、フィッシュマンズの佐藤さんは1966年生まれ(ちなみに佐藤さんが一番早生まれってのは驚き)。その同世代の人たちが作ったアルバムが全く違う音楽性であるということの面白さ。そしてそのクオリティの高さ。更にその異質さを楽しんで頂きたいと思ってセレクトしました。ちなみに、エレカシとニューエスト(現ソウルフラワーユニオン)は現在も現役バリバリでアルバムごとに音楽性や世界観を更新し続けています。残念ながらフィッシュマンズの佐藤さんとブッチャーズの吉村さんは他界されていますので、彼らの新しい音を聞くことは叶わない状況です。しかし、このまま忘れ去られてはいけない偉大なミュージシャンです。

前置きが長くなりましたが、各アルバムの簡単な紹介をしたいと思います。

 

『生活』 / エレファント カシマシ

1990年リリースのエレカシの通算4枚目のアルバム。初期エレカシの最高傑作としては『THE ELEPHANT KASHIMASHI II』をあげるファンが多いと思います。個人的にも作品のクオリティではそちらを上げたいと思います。しかしここで選んだのは『生活』です。もう個人的な思い入れ最優先です。正直、いつも正座して聞いていました。ロックやポップスのフォーマットから完全に逸脱した楽曲、歌唱、そして歌詞。また、とにかく演奏があまり聞こえません。ほぼ宮本の歌です。正直、これで良いのか?とメンバーを問い詰めたい。しかし、とにかくこのアルバムは日本人にしか作り得ないまさに日本の名盤の一枚です。ハイライトは「偶成」のラスト "俺はこのため生きていた ドブの夕陽をみるために" と歌われる瞬間です。混沌の果てに何一つ解決しない圧倒的なカタルシスとその美しさ。

 

『クロスブリード・パーク』 / ニューエスト・モデル

現在はソウル・フラワー・ユニオンとなったバンドの前身であるニューエスト・モデルのメジャー2枚目のアルバム。これも1990年リリースです。この後にリリースされる『ユニバーサルインベーダー』も名盤中の名盤ですが、敢えて今回はこちらを選んでみました。『生活』と同じ年にリリースされたこちらは、一転、世界中の音楽を貪欲に吸収するジャパニーズミクスチャーロックの先駆けといえる名盤です。この時期の中川敬にはまだ自己告発的な内省的な歌詞が見受けられるのが特徴。このアルバムにはいわゆるロックだけではなく、カリプソやアイリッシュトラッドやらファンクやら色々な音楽がまさに「雑種天国」のように織り込まれています。個人的には、このアルバムが無かったら世界の音楽を聞いてみたい!という底知れない欲望も芽生えなかったかもしれない悪魔の一枚。そしてこの雑種を全面肯定するこのアルバムこそ2017年に最も聞かれるべき音楽の一つだと思います。

 

『空中キャンプ』 / フィッシュマンズ

1996年リリースのフィッシュマンズの5枚目のアルバム。個人的な思い入れでは『ネオヤンキース・ホリデイ』と悩ましいところですが、日本の名盤と言った以上このアルバムは外せません。当時、フィッシュマンズの音楽性はトリップホップへの日本からの回答的なことを言われたりしていましたが、『空中キャンプ』によってそれは日本からの回答どころか世界最先端の音楽がフィッシュマンズであることを高らかに宣言し周知させることになったと言っても過言ではありません。今なお、一切の古臭さを感じさせないその音楽は必聴中の必聴。あと、やはり佐藤伸治はメロディと歌、そして圧倒的に俯瞰的な視点を持っていた人なので彼の作る素晴らしい歌詞にも注目して欲しいと思います。良く佐藤伸治の歌詞は日常のささやかな幸せに着目したうんぬんとか言ってる音楽評論家がいますが、意味がわかりません。もちろんそういう部分をすくい上げることに長けていた側面はありますが、少なくとも僕の日常のささやかな幸せはこんなに恐ろしいものではありません。

 

『kocorono』 / ブラッドサースティ・ブッチャーズ

1996年リリースのブラッドサースティ・ブッチャーズの、というか日本のロックの至宝とも言える名盤中の名盤。僕が「一番好きな曲ってなんですか?」と聞かれた際に迷わず即答する「7月」はこのアルバムに収録されています。当時のインタビューで、吉村秀樹がこのアルバムさえ出来れば死んでも良いという覚悟で作った的なことを語っていた記憶がありますが、まさにそんなアルバムです。オリジナル版では「2月」からはじまり「12月」で終わります。それとは別にリリースされたシンデレラV.Aというコンピレーションに「1月」が入っています。なお、今回は最後に「1月」が入っている完全盤の方を廻します。この1年で構成されるアルバムに吉村秀樹は自分の人生のすべてを表現しようとしたのでしょう。歌もあまりうまくないし、歌がそもそもあまり聞き取れなかったりとか、歌詞の意味がさっぱりわからなかったりもします。ただ圧倒的なギターサウンドとともに歌われるとすべてがわかったような、あるいは全く何一つわからないような気がしたりして、ただただ胸が熱くなります。ロックという音楽は一体なんなのだろう?と思ったら、このアルバムを聞けばいいと思います。僕はここにすべてがあると思います。

 

『日本の名盤 vol.1』

 

2017年1月24日(火) 六本木 VARIT.

 

LINE UP: DJアラカワ
OPEN/START: 19:00 (22:45 END)
ADV./DOOR.: charge free
TICKET: door only

 

日本のロック専門のクラブイベント「Rock.jp」 / 「ナイトミーティング」の DJアラカワが日本のポップミュージックの名盤4枚を紹介するイベントの第一回。