歩道に猫がいた。
白い猫で、少しだけ尻尾に茶色い毛が混じっている。
奴は俺と目が合うと、前足の片方だけをすっと前に伸ばし、地面から離して、その姿勢でじっとしていた。
黒い瞳は、前を見据えている。
俺も立ち止まって奴を見ていたが、しばらくして何事もなかったように歩き出した。
そのうち逃げるだろうと思っていた。
ゆっくりと近づく足音。
それを聞いても、奴は動かない。
しかもそれを確認したかのように、今度はこちらに向かって歩き出した。
やがて疾走して近づいてくる。
獲物を見つけたようなその勢いに、俺は驚いて身を引いた。
(あ…)
奴は足元ギリギリすり抜けて。
通り過ぎてから離れたところで止まり、俺が振り返って見ているのを同じように振り返って見ていた。
「ふん」
と、言ったかどうかは、定かでない。
家に帰ってデスクに座り、パソコンの画面を立ち上げた時、ふとそのことを思い出したので書いておくことにした。
『今日、猫に道をゆずった』