SS 『猫』 | 空っぽの時間

空っぽの時間

本の感想や日常の記憶

++迷い人のモノローグ

歩道に猫がいた。

白い猫で、少しだけ尻尾に茶色い毛が混じっている。
奴は俺と目が合うと、前足の片方だけをすっと前に伸ばし、地面から離して、その姿勢でじっとしていた。

黒い瞳は、前を見据えている。
俺も立ち止まって奴を見ていたが、しばらくして何事もなかったように歩き出した。

そのうち逃げるだろうと思っていた。



ゆっくりと近づく足音。

それを聞いても、奴は動かない。
しかもそれを確認したかのように、今度はこちらに向かって歩き出した。


やがて疾走して近づいてくる。
獲物を見つけたようなその勢いに、俺は驚いて身を引いた。

(あ…)

奴は足元ギリギリすり抜けて。
通り過ぎてから離れたところで止まり、俺が振り返って見ているのを同じように振り返って見ていた。


「ふん」

と、言ったかどうかは、定かでない。




家に帰ってデスクに座り、パソコンの画面を立ち上げた時、ふとそのことを思い出したので書いておくことにした。


『今日、猫に道をゆずった』