歯。

テーマ:


晴芝居 第1回公演

『ぼくのはとははいらないはとは』

作・演出 天晴一之丞



場面はとある街の歯科医院。
…とは言えオーソドックスな建物とは少し違い、
そこはマンションの一室。
男は歯の詰め物がとれてしまい、緊急で日曜でも診てもらえる歯科医院を探し、ここにたどり着く。

時間は昼過ぎ。受付の女性は60歳を過ぎたくらいに見受けられ、言葉使いは終始おだやか。
歯科医も同じくらいの年齢の女性なのだが、性格てきには少し強め。


客入れ音楽下がり
徐々にM0 に切り替わり

暗転

M1 【日常】(明転後徐々にFO)

明転


男「◯◯歯科医院…◯◯歯科医院…あった。え?ここ?」

(マンションを見上げる)

男「なになに、【エレベーターで3階へ】…えー…マンションの一室、ってこと?…こえぇな……まぁでも…急に予定なくなったし、歯医者行ける絶好のチャンスだしな…日曜に診療やってるとこも近くにはここしかないし…」

(「チーン」エレベーターがあいた音)


男「(エレベーターに乗って、ドアを閉める)」


(「チーン」エレベーターがあいた音)


男「303号室…303号室……ここか…いや…普通の一室だなぁ……大丈夫かよ…」

(「ガチャ」歯科医院のドアが開いた音)

男「こんにちは…」

受付「どうぞ」

男「あの…初めてなんですが」

受付「では、こちらの問診票にご記入ください」

男「はい。(記入し始める)」

受付「保険証お持ちですか?」

男「あ、はい。(取り出す)」

受付「ちなみに今日はどういった症状ですか?」

男「…あ、歯に詰めてた物が最近とれてしまいまして、新しいものにかえるか、付け直していただきたいのですが…」

受付「かしこまりました。もう少々お待ちください」

(男、問診票を書き終え、雑誌を見て時間を潰す。数秒あって)

歯科医「猪俣さーん(男の名前)。猪俣さーん」

男「はーい」(男、診察室へ)

歯科医「今日は…詰め物が…とれた?」

男「えぇ。奥歯の詰め物がとれたので、付け直すか新しいものとかえていただきたいのですが…」

歯科医「はいはい。では、こちらのイスにおかけください。少し口の中を診ていくね」

男「お願いします」

歯科医「ふむふむ」

男「……。」

歯科医「ふむふむふむふむ…」

男「…………。」

歯科医「猪俣さん?」

男「はい?」

歯科医「素敵な名前ね?」

男「…はぁ。どうも」

歯科医「(食い気味で)で!歯の詰め物はもちろん治すんだけど…」

男「えぇ。」

歯科医「…その前に。猪俣さん歯医者にかかるの、久しぶり?」

男「はい、こちらの前に歯医者にかかったのは、たぶん20年以上前になると思うので…」

歯科医「そっか…」

男「なんか、え、もしかして口の中汚かったですか?だとしたら恥ずかしい…」

歯科医「いや、そういうことではなくて…」

男「はい…?」

歯科医「猪俣さんね?」

男「えぇ。」

歯科医「上の歯が、普通の人より2本多いんです」


M2 【混乱】


男「……はい?」

歯科医「ですから、上の歯が2本多いのよ」

男「…上の…どこの歯ですか?」

歯科医「(食い気味で)上の歯の、左右一番端っこのふたつが…いらないんです」

男「…それは、僕あまり詳しくないんですが、親知らずとは違うんですか?」

歯科医「(食い気味で)違います。ただただ…ただただ、ただただいらない、2本です」

男「……。」

歯科医「(手鏡を男に渡す)ご自分で、見てみて」

男「…はい」

歯科医「わかるでしょ?一番奥の歯の周りの壁が、ズタズタになってるの」

男「…たしかに。あまりちゃんと見ないし、痛みもそんなにないので気付きませんでした」

歯科医「そのいらない歯達が成長しすぎて、そろそろ壁を突き抜けてきますよ」

男「…え!?え、え、え?この壁のむこうに薄く白く見えるの…」

歯科医「(食い気味で)そう。いらない歯。ただただ、いらない歯」

男「あれ?でも伸びてるってことは、親知らずではないんですか?」

歯科医「(食い気味で)違う違う。親知らずとは別もの」

男「……」

歯科医「猪俣さんのぉ…口の中にあったぁ…ただただ、ただただ、いらない歯です」

男「ただただ…いらない歯」

歯科医「そ!」

男「え?じゃあ僕ずーっと…人より歯ぁ2本多い状態で生きてたんですか!?」

歯科医「そ(笑)!」

男「えーーー!!それって…なんか得してたんですか?」

歯科医「そんなもんないわよ(笑)だって…」

男「ただただ、いらない歯…!」

歯科医「(食い気味で)ご名答(笑)!!」

男「うれしくないですよ!」

歯科医「しかも、このままだと噛み合わせが悪くなって口を閉じにくくなりますよ?」

男「…え…そんなにひどかったんですか?」

歯科医「まぁ、そうね(笑)」

男「…ちなみにこれって、今日抜けるんですか?」

歯科医「抜けるわよ。麻酔して…まぁトータル10分もあれば。抜く?」

男「(食い気味に)抜く。」

歯科医「(笑)オッケー」

男「よろしくお願いします」

歯科医「ただ、明日の朝くらいまではウガイしちゃダメなのと、夕方くらいまで血がダラダラ止まらないからガーゼ噛んで過ごしてもらうのと、一度に2本抜けないので片方だけ抜くので落ち着くまでは右だけで咀嚼してね」

男「けっこう色々あるんすね。わかりました」


麻酔をうち、待合室で少し時間をつぶして、再び診察室のイスに座り、ものの数分で男のいらない歯は抜けた。


歯科医「はい!終わり!」

男「けっこう…思ったより力任せで抜くんですね。ゴリゴリゴリゴリ聞こえましたけど」

歯科医「みんな最初はびっくりするのよ」

男「とりあえず、ありがとうございました。また来週来ます」

歯科医「お待ちしてまーす」



受付「あ。抜いた歯、持って帰ります?」

男「いらないですよ(笑)【ただただいらない歯】、なんで」

受付「でも…何年も猪俣さんのために食べ物を噛んでくれた歯よ?」


M3【感動】


男「…いや、先生も言ってたんです。【いらない歯】って」

歯科医「でも…」

男「でも?」

歯科医「(食い気味で)歯の写メ、SNS映えするわよ?」

男「(食い気味で)いります」


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※意外とリアルな汚れかただったので、加工してあります。


そんなわけで、普通の人より2本歯が多かったらしいわたくし、とりあえず左上の歯を急遽抜きました。

ちなみに、そこそこリアルに上記通りの会話でした。


いたわって。



では、股。






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