手当たり次第の読書日記

新旧は全くお構いなく、読んだ本・好きな本について書いていきます。ジャンルはミステリに相当偏りつつ、児童文学やマンガ、司馬遼太郎なども混ざるでしょう。
新選組と北海道日本ハムファイターズとコンサドーレ札幌のファンブログでは断じてありません(笑)。


テーマ:
語り女たち (新潮文庫 き 17-10)/北村 薫
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今更ながら、どうにも釈然としない訳であります。

何でこの連作、評判悪かったのかなあ。

直木賞の候補に入りながら落っこちるのは北村さんの恒例行事のようなものですが(笑)、この時は相手が奥田英朗というのが悪かっただけで、この作品それ自体の出来が良くなかったというようにはどうしても思えないんですよ。でも、文学賞メッタ斬り豊崎大森コンビにも思いっきりダメ出しされてたんですよねえ。北村薫ともあろう者が、こんなもんを書いてはいかん!と。

……うーむ。

北村作品の中ではちょっと変わった部類に入る作品であることは確かですが、そんな、失敗作呼ばわりするようなものではないのでは、という気がしてならないんですけれども。


 実務家の弟に比べ、彼にはいささかの空想癖があった。

 サイダーの泡が、コップの壁面から離れ、勇ましく上方へと飛翔し、やがて水面に達し、わずかの間とどまっては弾け散る。その姿に星々の生誕から死を重ね合わせ、打ち続く興亡に、飽かず眺め入っているようなところがあった。


そんな男が、目が悪くなってきた時に思いついたのは、本を読む代わりに人の話を聞こうということ。


 人の募集は、全国の雑誌、新聞に広告を載せた。アラビアの王は、若き娘を語り部にしたという。ひそみに倣って、語り女を募集し、そのソプラノかアルトの声に耳を傾けてみようと思った。


というプロローグ、そしてそれに続く最初の話「緑の虫」、これを読むだけで、この連作の世界がどういうものかはたちどころに了解される筈だと思うのですが……私には当惑させられることに、評者の言はそうではないのです。

たとえばトヨザキ社長は、プロローグでもう引っかかってしまうらしいんですね。この男が裕福な家に生まれ育って、自身は働かずともいいらしい、というのが読み過ごせない。いまどき高等遊民かよ、と思ってしまうらしい。

うん、その感覚は判りますよ。普通の小説なら、ね。

でも、この作品の場合は、どうだろう。

「不景気な世には、まことに暮らしにくい人間の筈だが、よくしたもので、彼の家は空想のみが生み出せるような金持ちであった」──裕福であるということを表現するのに、殊更にこういう形容を用いているということに注目しないではいられません。

そして、「緑の虫」の、最初にやって来た女が語る話の中のこんなくだり。彼女は雑誌の編集者で、作家のお供をして嵯峨野の竹林に行ったという話をしているのですが。


 竹林に入る時には、誰もがいわれることですが、口をきけば竹になってしまいます。もう少し年を取ればそれもいいかと思いますが、まだわたしには仕事もあります。責任上からも、ここで竹になってしまうわけにはいきません。まして、先生には変わらぬ姿のまま、お帰りいただかなければなりません。


いかがですか?

これは、普通の小説じゃあないんですよ。

舞台は明らかに現代の日本です。嵯峨野という地名、『走れメロス』、「一之木」「箱田」などの苗字。イケメン、なんていう言葉まで出てきます。

でも、読んでいる私達のいる場所と、そのまま地続きになっている世界ではありません。

高等遊民かと腹を立てたトヨザキ社長も、直木賞選考委員の井上ひさし先生も、この大前提を本当には呑み込めていなかったのではないかと、まことに僭越ながら思わざるを得ないんですね……。

「男が聞きたかったのは(枠組からするならば)実人生の最中にふと生まれる人間の真実のようなものだったのではないか」というのが井上ひさし選評です。無礼を恐れず敢えて言うならば、私は苦笑を禁じ得ませんでした。

その他の直木賞選考委員諸氏、「一人よがり」だという渡辺淳一先生も、「あっけない」という林真理子さんも。

彩りも美しい季節の和菓子、宝石のようなゼリーやキャンディー、プチフール。そんなものを作る菓子職人に向かって、「これはステーキではない」「これは味噌汁ではない」と、あまりにも的外れの文句をつけているような、そんな風にしか思えなかったのです。

読み巧者だとばかり思っていた人達の、思いもかけなかった頭の固さに、正直、いささかの幻滅がありました。

「おはなし」を読むのは、そんなに難しいことなんでしょうか?

或いは、綺麗な風景を描いた絵を、ただそのままに美しいなあと眺めることは。

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