手当たり次第の読書日記

新旧は全くお構いなく、読んだ本・好きな本について書いていきます。ジャンルはミステリに相当偏りつつ、児童文学やマンガ、司馬遼太郎なども混ざるでしょう。
新選組と北海道日本ハムファイターズとコンサドーレ札幌のファンブログでは断じてありません(笑)。


テーマ:
道化の町 (KAWADE MYSTERY)/ジェイムズ・パウエル
¥2,310
Amazon.co.jp


表題作「道化の町」を、人に薦めたくてとてももどかしい思いをしたことがあります。数年前のことでした。

当時よく訪れていた個人ホームページで、管理人さんの好みに合いそうだなと思ったのです。掲示板で内容を簡単に紹介したら、思った通り、それはぜひ読んでみたいなあという反応を貰ったのですが……。

この短編、随分前の雑誌「EQ」に載ったものでした。直接の知り合いなら雑誌を貸し出すこともできますが、この場合そうはいかない。作者個人の短編集でなくてアンソロジーでもいい、とにかく何かの形で本になっていてくれれば、読んで貰うことができたのに……と、当時ひどく残念に思ったものでした。

それから幾星霜(←大袈裟)、今年の春。

新聞の新刊広告を見てあっと叫びました。忘れもしない「道化の町」!(←いや、忘れるも何も掲載誌まだ持ってるし)

遂に単行本化です。ありがとう河出書房新社!

と、斯様に私が大騒ぎしている「道化の町」、一体どんなミステリなのかといいますと。

道化師の町クラウンタウン。道化師バンコの家に誕生祝いのカスタード・パイが配達されました。配達の青年はいつも通りに、ハッピー・バースデイ!と叫んで見事にパイを命中させたのですが、何とその場でバンコが急死してしまい、殺人課ボゾ警部の出番となります。


「医者によると、パイは毒入りだったそうだ」と、ボゾはいった。「つまり、口か鼻かにカスタード・クリームが入ったわけだな。ところが、そんなことはありえない」道化師が最初に学ぶのは、いかにしてカスタード・パイを顔に受けるかというテクニックだった。命中する前に、口をしっかり閉じて、鼻から息を吐くのである。

「嘘じゃありません。あの人が死んだのは《ごちそうさまギャグ》をやったからなんだ」と、配達係はいった。

 今でも後輩が使っている小味の利いたギャグをたくさん発明した偉大な道化師、ジョゼフ・シュティックは、カスタード・パイを投げつけられたあとどうするかという問題に一つの解答を示した。まず、顔からクリームを滴らせながら、世にも情けない顔でその場に突っ立つ。そのあと、指先でクリームをすくい取り、不思議そうな顔でそれをながめる。そして、一口味わってみて、にっこり笑うと、唇を鳴らし、むしゃむしゃ食べ始めるのだ。ボゾは不明を恥じた。ごちそうさまギャグ。そうだったのだ。


ちょっと思いつかない設定でしょう!

しかも、引用部分でお判りと思いますが、ぶっ飛んでるのは設定だけ。文章はあくまでも大真面目に、刑事が殺人事件を追うミステリのオーソドックスなスタイルそのものなんです。何しろクラウンタウンなので、警官が敬礼するのにも消防車が出動するのにもいちいちギャグやボケがついてますが、それはこの町の住人が当然するべき行動をとっているだけのこと。小説それ自体には「ここは笑いを取るところ」は1箇所もないんですね。笑いを取るどころか、生活に疲れた中年の刑事の苦悩、小悪党の狡さ哀れさ等々が描き出され、おおこれはいかにもアメリカンミステリの警察小説という書きっぷりなんですが、でも舞台はクラウンタウンで、登場人物は全員、顔には赤い鼻をつけ、挨拶する時には警笛をブッブーと鳴らす道化師なんです。

というような作品を書いて「EQMM」誌読者人気投票第1位を勝ち取るような作者なので、この本のその他の収録作品も、どれも一筋縄ではいきません。

たとえば「魔法の国の盗人」は、魔法使いがいる世界での盗難ミステリ。魔法嫌いの国王は、豆の木ジャックから金の卵を産む鶏を取り上げ、竜が見張りをする塔に閉じ込めます。ところがその鶏が盗まれました。犯行に魔法が使われたのは間違いない、しかしどんな魔法が──? っておいおい、魔法なんか持ち出してきたらミステリにならないじゃないか、と思われるかもしれませんが、これがどっこい、ちゃんと成立するんですよ。この世界設定における論理的解決、が見事に成り立っているんです。

パウエル作品を1冊に編んでくれた、というだけでまず嬉しいこの本なのですが、巻末に、更に嬉しいおまけがついていました。邦訳作品の一覧。ハヤカワ文庫や光文社文庫のアンソロジーに入っているものもありますが、大半は「ミステリマガジン」や「EQ」に載っただけ。でも、何年の何月号か判っていれば、古書店や図書館で探すことができます。

ぜひ読んでみて、面白いから!という編集サイドの熱意がストレートに伝わってくる1冊です。

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