手当たり次第の読書日記

新旧は全くお構いなく、読んだ本・好きな本について書いていきます。ジャンルはミステリに相当偏りつつ、児童文学やマンガ、司馬遼太郎なども混ざるでしょう。
新選組と北海道日本ハムファイターズとコンサドーレ札幌のファンブログでは断じてありません(笑)。


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ダルジールの死〔ハヤカワ・ミステリ1810〕 (ハヤカワ・ミステリ 1810 ダルジール警視シリーズ)/レジナルド・ヒル
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これはまた、シリーズ愛読者が見るなりぎょっとするようなタイトルがついてます。主人公を名指して、その「死」だ、というんですから。

訳者あとがきにもある通り、「名探偵はときに作者の手で消されることがあるが、レジナルド・ヒルもとうとうダルジールを退場させようと決めた?」と思ってもおかしくありません。

……ただ、ね。

これは言ってしまってもネタ割りにはならないという信念のもとに敢えて書きますが、このシリーズに馴染んだ読者なら、本気でそういう心配をすることは実は一瞬たりともないんじゃないでしょうか? どう考えてもアンディ・ダルジール警視はそういう「退場」がしっくりくるキャラじゃないし、ヒルもそういう作家ではないですよね。

はい、そういうことにはなりません。ダルジール、爆発に巻き込まれて生死の境をさ迷いはしますが、結局一命は取り留めます。

じゃあ何でこんな物騒なタイトルがついてるのか。読者の目を引くためだけか。いや、そもそもその前に、何でほぼ全編ダルジールが昏睡状態なんていう作品がシリーズに登場することになったのか。作中ではしばしば「巨漢」の一言で表現される彼です。この存在感なくしてはシリーズの魅力は半減するだろうに、何でわざわざそういう設定を作者は選んだのか……?

ダルジールが意識不明となれば、捜査に奔走するのは主任警部ピーター・パスコーの役どころです。いつもの上品さ爽やかさはどこへやら、今回の彼は、時にダルジールが乗り移ったかと思えるほどの強引さや口の悪ささえ発揮して、爆発事件の捜査にのめり込んで行きます。

彼のこの常軌を逸しかかった熱意はどこから来るのか。職務に熱心な警官としての当然の使命感? 否。妻や上役や友人など、周囲の人々の目には火を見るよりも明らかなことです。

ダルジールが被害者だから。

本作には「テンプル騎士団」を名乗る特異な団体が登場します。正義のためという大義名分を掲げて、イギリス国内在住のイスラム教徒過激派を次々殺害していく謎の組織。テロと闘う、過激派と闘うといいながら、彼等自身が過激なテロリストに他ならない。

彼等の「正義」には思わず眉をひそめたくなりますが……ただ、この「正義」とパスコーの熱意とは、本質的に異なるところはないともいえるのです。

自分にとって特別な相手に危害が加えられたら、人は容易に冷静さを失う。

それは当然の反応でしょう。

当然の反応だから、最近のミステリでは、復讐殺人を声高らかに正当化するようなものもしばしば見受けられます。

本作も、一見そういう線に則っているのかと思われますが……ヒルは、そんな単純な作家ではありません。


 エリーは数分間じっとすわっていた。いろいろなことを考えた。真実と欺瞞、正義と復讐、人間の残酷さと人間の権利、道義と実利、良心と結果。親と子供のことを考えた。親は子供を通して生き、ときには子供を通して苦しむこともある。父親と息子、誇りと希望、砕けた希望、ゆがんだ誇りのことを考えた。


緻密で堅牢な構成のミステリであると同時に、現代社会の諸問題を真っ向から書いた小説でもあります。伏線の巧みさ、語りの見事さに爽快感を味わうと同時に、人間の愚かさいとおしさに思わず溜息をもらしもする。

このシリーズでは毎度のことですが、今回もまた、傑作です。

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