手当たり次第の読書日記

新旧は全くお構いなく、読んだ本・好きな本について書いていきます。ジャンルはミステリに相当偏りつつ、児童文学やマンガ、司馬遼太郎なども混ざるでしょう。
新選組と北海道日本ハムファイターズとコンサドーレ札幌のファンブログでは断じてありません(笑)。


テーマ:
トニイ ヒラーマン, Tony Hillerman, 大庭 忠男
聖なる道化師

先日、俳優の浅野忠信さんのお祖父さんがアメリカのナヴァホ族出身だったと新聞で読みました。彼はアメリカで、「アメリカにルーツを持つ日本人俳優」と報じられたとか。

特別に浅野ファンという訳ではないし、ネイティブ・アメリカンについて特に詳しい訳でもないのですが、ナヴァホと聞くとちょっと身を乗り出してしまうのは、トニイ・ヒラーマンという作家のためです。

ナヴァホ族警察の2人の刑事、ジョー・リープホーン警部補とジム・チー巡査を主人公にしたシリーズがあるんですよ。これが実にいいんです。

リープホーン警部補は、沈着冷静にして思考は常に合理的、内面は心優しいという、ミステリにおける「中年の名刑事」の典型みたいないい男。いっぽうチー巡査は、熱意は非常にあるものの、いささか警察の規律を無視しがちなところのある困ったちゃん(しかも本人に悪気は全くないので余計に始末が悪い/汗)。年長のリープホーンがナヴァホの伝統をあまり気にしない合理主義者なのに比べ、若いチーは昔ながらのシャーマンになろうとしていて、警官の仕事と両立させようと本気で考えている伝統主義者です。という風に、全てにおいて対照的な2人の、それぞれのキャラクターを活かした活躍が読めます。

この『聖なる道化師』のストーリーの中で、チーは恋人のジャネットに結婚を申し込もうと決意するのですが、ここで困った問題が持ち上がります。

どこの社会でもそうであるように、ナヴァホにも近親相姦のタブーがあります。「母親が違ってれば兄弟姉妹でも結婚可」などという古代日本のような例もありますが(汗)、ナヴァホのタブーはそんなのとは比べ物にならないくらい厳格。2人の両親の属する氏族が、どちらか片方だけでも同じだったら、もう結婚はできません。

ところがジャネットには、自分の氏族が判らないのです。彼女の母はスコットランド人で、父はナヴァホ。しかし幼い頃に部族から引き離され白人社会の中で育ったために、ジャネットの父には自分の氏族の記憶がありません。かろうじて母方について「もしかしたらそうだったかも」というくらいの推定が成り立つだけで、父方については全く不明なのです。

困り果てるチー。ジャネットと自分が宗教的タブーの意味合いで「兄妹」だと決まった訳ではない。しかし絶対にそうではないという確証も得られない。

ジャネットもまた傷つきます。彼は本当に自分を愛しているんだろうか? このタブーは本当にそこまでも重視しなければならないものなのか?(だって、語の普通の意味では近親相姦の関係なんかじゃないのは判りきっている訳ですから)

「ジムはたぶん結婚する気がないと思います。ですから、はっきりしない、あいまいな氏族のタブーでも役に立つんですわ」とリープホーンにこぼしさえしたジャネットでしたが、事態打開の糸口は実に、チーが伝統主義者だったからこそもたらされました。

困った彼はシャーマン達の知恵を求めますが、彼等の意見も自分と同じ。ジャネットとのつながりは、ないかもしれないけれどあるかもしれない──しかし。


「たいへん年をとったおばあさんがいたと言ったわね。賢いおばあさんが。その人はなんと言ったの?」

「そうだね」チーは言いかけて笑った。「ぼくたちはきみのお父さんの氏族のことばかりしゃべったんだ。きみのお母さんはナヴァホじゃないからね。そしたらそのおばあさんがみんな時間をむだにしている、本当に重要なのは母方の氏族だけだと言った」


ジャネットの母はスコットランド人です。最初にこの言葉を聞いた時は、白人に氏族はないとしか思わなかったチーでしたが、別の解釈ができるのです。ナヴァホの氏族ではない、したがってタブーには触れない、という解釈が。

浅野忠信さんのお祖父さんは、リープホーンとチーと、どちらに近い考えだったんでしょうね。「日本人はナヴァホじゃないから氏族のタブーはない」って思ったのかな、やっぱり。

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