手当たり次第の読書日記

新旧は全くお構いなく、読んだ本・好きな本について書いていきます。ジャンルはミステリに相当偏りつつ、児童文学やマンガ、司馬遼太郎なども混ざるでしょう。
新選組と北海道日本ハムファイターズとコンサドーレ札幌のファンブログでは断じてありません(笑)。


テーマ:
福沢 諭吉, 富田 正文
新訂 福翁自伝 (岩波文庫)

『風雲児たち』に幕末編8巻から出てくる福沢諭吉の、初登場シーンは20歳の時です。
適塾入門を決意するに至ったいきさつを緒方洪庵に語るという形で、彼のそれまでの生い立ちが説明されるのですが、そのくだりの章題が「福翁自伝」でした。
ということはこの部分は、福沢のこの自伝の内容を忠実に写してるんだな、と判ります。
みなもと太郎描くところの福沢青年はかなりの破天荒キャラで(高野長英よりかはマシですが/笑)、子供の頃に漠然と持ってた学問一途の人というイメージとは何やら微妙に違う感じ。これはひょっとしてかなり面白い人物だったということかい?と思い始めたところへ、見つけてしまった訳ですね、この『新訂福翁自伝』を。
一読驚愕。いやあ、想像以上の人でした!
適塾に入門するまでのことは『風雲児たち』で説明された通りなんですが、入門後の生活がまず凄い。読んでいて、北杜夫が自分の旧制高校時代を書いた『どくとるマンボウ青春記』を思い浮かべました。難しい外国語の原書を読みこなし、勉学に励んで時の経つのを忘れ、仲間同士で激論し、そして大酒を呑んでは闊歩する、身なりはボロボロ、鼻っ柱の強さは人一倍の若者達。幕末の旧制高校生ですよ!
緒方洪庵の適塾といえば幕末の最高学府という印象で、そこに集う学生達はさぞかし非の打ち所のないエリート揃いなんだろうと思っていましたが、ええと、学問への情熱はともかく、日常生活においては非の打ち所あり過ぎです(笑)。いくら夏だからって素っ裸で塾内をうろうろするなッ、洗面器でそうめんをゆでて食うんじゃないっ。居酒屋の皿小鉢をかっぱらってきておいて自慢をするなーッ(爆)。


 そのとき大阪中で牛鍋を食わせる所はただ二軒ある。一軒は難波橋の南詰、一軒は新町の廓の側にあって、最下等の店だから、凡そ人間らしい人で出入する者は決してない。文身だらけの町の破落戸と緒方の書生ばかりが得意の常客だ。どこから取り寄せた肉だか、殺した牛やら病死した牛やらそんなことには頓着なし、一人前百五十文ばかりで牛肉と酒と飯と十分の飲食であったが、牛は随分硬くて臭かった。


梁山泊ですよ(爆)。
幕末史の本筋には何らの関係もない単なるおバカな青春でしかありませんが、『風雲児たち』の中でどれか1つのエピソードでもいいから描いて貰えたらなあと、強く思ってしまいました(笑)。漢方薬の材料になる熊の胆目当てに熊の解剖を頼んできた横着な医者と薬屋をこらしめる話なんか、もう最高ですよ。
この自伝は、60代の福沢が速記者に口述して筆記させ、それに自ら手を入れて出来上がったものだそうです。彼は天保に生まれて「江戸時代」に成人し、後半生を明治に生きた人な訳ですが、その思考や感覚には驚かされます。まるで現代人のようなんですよ。
中津藩士の家に生まれ、成人後は幕府に仕えたりもしていますが、藩に対しても幕府に対しても、所謂「忠誠心」を全く見せない人なんです。といっても、殊更に背くとか、或いは上辺でいい顔をしながら内心で舌を出す、とかではないんですね。


 およそ人間の交際は売り言葉に買い言葉で、藩の方から数代奉公を仰せ付けられて難有い仕合せであろうと酷く恩に被せれば、失敬ながら此方にも言葉がある、数代家来になって正直に勤めたぞ、そんなに恩に被せなくても宜かろうと言わねばならぬ。これに反して藩の方から手前たちのような家来が数代神妙に奉公してくれたからこの藩も行立つとこう言えば、此方もまた言葉を改め、数代御恩を蒙って難有い仕合せに存じ奉ります、累代の間には役に立たぬ子供もありました、病人もありました、ソレにも拘わらず下さるだけの家禄はチャント下さって、家族一同安楽に生活しました、主恩海より深し山より高しと、此方も小さくなってお礼を申し上げる。これが即ち売り言葉に買い言葉だ。


こういうことを、クールな態度を咎める藩内の人に向かって公言している訳です。これ、まるで現代の企業と従業員の関係にもそのまま当てはめられる主張じゃありませんか。
更には、この時代の武士といえば、勤王か佐幕かで大騒ぎな訳ですが、この人はそのどちらに対してもしらけている。


 第一、私は幕府の門閥圧制鎖国主義が極々嫌いで、これに力を尽くす気はない。
 第二、さればとて、かの勤王家という一類を見れば、幕府よりなお一層甚だしい攘夷論で、こんな乱暴者を助ける気は固よりない。
 第三、東西二派の理非曲直は姑くさておき、男子がいわゆる宿昔青雲の志を達するは乱世に在り、勤王でも佐幕でも試みに当たって砕けるというが書生のことであるが、私にはその性質習慣がない。


この人、筋金入りの開国主義、文明開化推進論者です。時々「シナ」「朝鮮」という語を悪い意味で使っているのですが、水戸学風の攘夷論で言っているのではなく、日本もひっくるめて東アジア3国、儒教道徳で成り立つ社会の旧弊さ鈍間さ加減が我慢ならないんですよね。
明治30年の彼は、今の世の中に特別不満もないとご機嫌ですが、それは日本が攘夷をやめて西洋風を取り入れ、文明開化を進めているから。ただもうそれだけです。皇国の発展がどうしたとか帝室の繁栄がこうしたとか、本気で言っているかどうかはともかく「お約束」として出てきてもよさそうな言葉ですが、彼はこうしたことは一切言っていません。見事なほどです。
国家の品格だの武士道だのがもてはやされる昨今、たとえば藤原正彦先生などが、この慶應義塾大学創設者の言を読んだらどう感じるかと、ふっと思ったりしました(笑)。

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