手当たり次第の読書日記

新旧は全くお構いなく、読んだ本・好きな本について書いていきます。ジャンルはミステリに相当偏りつつ、児童文学やマンガ、司馬遼太郎なども混ざるでしょう。
新選組と北海道日本ハムファイターズとコンサドーレ札幌のファンブログでは断じてありません(笑)。


テーマ:
北村 薫
六の宮の姫君 (創元推理文庫)

芥川龍之介の話から思い出した本。

北村薫デビュー作から続く「円紫さんと私」シリーズ、第2長編です。「日常の謎」派の代表ともいうべきシリーズですが、長編は2つとも、ちょっとそこからははみ出した感じになってますね。『秋の花』は珍しくも人の死の謎についての話でしたし、これはタイトル通り、芥川の短編「六の宮の姫君」についての話。

出版社でアルバイトを始めた主人公「私」。若い頃に芥川に会ったことがあるという老作家から、芥川が「六の宮の姫君」についてふと漏らしたという言葉を聞きます。

「あれは玉突きだね。……いや、というよりはキャッチボールだ」

それは執筆の動機というか、契機にかかわることであるらしい。誰か他の作家の作品に触発されて書いたということ? 興味をそそられた「私」は、卒論そっちのけで(笑)この謎を追いかけ始めます……。

という、いわば文芸ミステリ。

作者北村薫さんが大学の卒論で選んだテーマが、まさにこの「六の宮の姫君」だったのだそうです。つまり彼は、卒論を小説に直す、ということをやっちゃった訳なんですね(驚)。

と説明すると、引用と考察ばかりが延々と続く難解な作品だと思われるでしょうか。確かに芥川や菊池寛の作品の引用があり紹介があり、発表は何年何月の何という雑誌で、誰の書評がこうで、なんていう話が山のように出てきます。しかしそれでいながら、いつものこのシリーズの基本線をしっかり押さえた青春ミステリなんですよ。

「私」が大学1年で始まったシリーズも、作中時間3年が経過。卒論を書き、就職を考える。友達の1人は早々と結婚。「私」の姉にも恋人ができたみたい。高校の後輩が同じ大学に入ってきて、お世話になった教授は来年の春には退官で……。

少しずつ、しかし確実に、時は皆の上に流れています。

という感慨が起きるのは、実はレギュラーキャラについてだけじゃないんですよね。「私」がその作品や書簡を追っかけている、芥川や菊池たち、何十年も昔の若き流行作家。彼等もまた、紛れもなくこの小説の「登場人物」です。

「私」の調査結果という形で語られる、当時の2人の立ち位置というか、見られ方。菊池寛は、文学が判らないことの尺度にされるような作家、だったというんですから凄過ぎる(汗)。(今でいうなら、ケータイ小説のベストセラーみたいなもん扱い?) 芥川とは一見、正反対。でも2人は親友だった……。

この「謎」は、作中時間を大正時代に設定して芥川や菊池を生の形で主人公にしても、書こうと思えば書けたと思うんです。或いは現代物だとしても、ノンシリーズの単独長編でもよかったでしょう。

でも「円紫さんと私」シリーズの中に置かれたことで、より余韻が深くなっていると思います。特に最後のページ。あの場面はどうしても、「私」の目を通したものでなければならなかったでしょう。まだ少女の顔をした19歳の頃から、読者がずっとその成長を見てきた彼女でなければ。


余談:

ところでこの作品、アルバイトの理由は卒論を書くのに「ワープロ」を買いたいため、なんていうことからも判る通り、結構前に出た本です。それを踏まえた上で今読むと、ちょっとびっくりさせられますよ。

菊池寛の『真珠夫人』を読んだ感想を聞かれた「私」、ドラマ化すれば面白いと思う、と答えてるんです!

北村薫の慧眼、畏るべし。

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