手当たり次第の読書日記

新旧は全くお構いなく、読んだ本・好きな本について書いていきます。ジャンルはミステリに相当偏りつつ、児童文学やマンガ、司馬遼太郎なども混ざるでしょう。
新選組と北海道日本ハムファイターズとコンサドーレ札幌のファンブログでは断じてありません(笑)。


テーマ:
山前 譲
文豪の探偵小説

この前話題にした『文豪の探偵小説』の中の1篇、「途上」はこんな話です。
愛妻がありながら、先方の実家に反対されているので未だ内縁関係のままという男。会社帰りの路上で、私立探偵に呼び止められます。結婚問題であなたの身元調査を依頼されたのですと言われて、実家が折れてくれたと思ったか、喜んで応じるのですが──話の主眼は、彼の先妻の死についてでした。
インフルエンザから肺炎になり、治ったと思ったらチブスにかかって他界。その間にも、病室でガス漏れがあったり、乗ったバスが事故にあって怪我をしたり……それらの事実をおさらいした探偵は、こんな話を始めます。
妻を殺そうと決意したある男。しかし直接手を下しはしない。病気が流行れば、病人の見舞いに行かせたり菌のいそうなものを食べさせたりして、伝染するように仕向ける。車に乗る時は、事故にあった場合危険の大きい前の席に坐らせる。心臓が弱いのに冷水浴をさせ、煙草を吸わせる。飲み水の良くない土地へ転居する。そしてとうとう、妻はチブスにかかって──どうですか、これはあなたの場合に、外形だけはそっくり当てはまりはしませんかね?


「ええ、──そ、そりゃ外形だけは──」
「あはははは、そうです、今までのところでは外形だけはです。あなたは先の奥さんを愛していらしった。ともかく外形だけは愛していらしった。しかしそれと同時に、あなたはもう二、三年も前から先の奥様には内証で今の奥様を愛していらしった。外形以上に愛していらしった。すると、今までの事実にこの事実が加わって来ると、先の場合があなたに当てはまる程度は単に外形だけではなくなってきますな。──」


会社から家への帰り道の筈が、いつの間にか、話しながら歩くうちに辿り着いていたのは探偵の事務所。そこには、先妻の父が彼を待ち受けています……。
下手くそな紹介でどこまで伝え得たか心もとないですが、何とも見事な切れ味です。
これはプロバビリティーの犯罪、というものですね。『文豪の探偵小説』の解説に、江戸川乱歩の賛辞が紹介してあります。北村薫さんは『謎物語あるいは物語の謎』の中で、「あわよくば型殺人」とも言っていますが、このほうが判り易いかな。
ところが北村さんがこの自著の中で紹介しているのですが、有吉玉青さんは、この短編をこんな風に読んだらしい。


 ある事件を巡って、探偵とある男が話をしていくんです。男の妻が死んだ事件なのですが、探偵に誘導尋問をされて、男は自分の心の中で妻の死を願っていたことを知ってしまうの。


うわあ……こう言うと、死や罪を扱ってはいてもミステリではなく、普通小説の範疇ですね。こういう小説を実際に読んだら、有吉さんの言うように怖く、そしてまた非常に面白いだろうなと思いますが、でも「途上」に描かれているのは、紛れもなく意図的な殺人です。
有吉さんは多分、普段ミステリを読まない人なんでしょうね。或いは、「谷崎潤一郎」という名前が先入観になったというのもあるかなあ。

北村 薫
謎物語―あるいは物語の謎
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