手当たり次第の読書日記

新旧は全くお構いなく、読んだ本・好きな本について書いていきます。ジャンルはミステリに相当偏りつつ、児童文学やマンガ、司馬遼太郎なども混ざるでしょう。
新選組と北海道日本ハムファイターズとコンサドーレ札幌のファンブログでは断じてありません(笑)。


テーマ:
ドロシイ セイヤーズ, Dorothy L. Sayers, 松下 祥子
箱の中の書類

セイヤーズの長編の中で、唯一のノンシリーズもの(つまりピーター・ウィムジー卿が出てこない)だそうです。ご贔屓シリーズのある作家のノンシリーズものって、私はどうも手が出にくいんですが、これはちょっと興味をひかれました。全編、事件の関係者達の手紙もしくは手記で成り立ってるんですよ。

前にも書いたと思いますが、一人称形式と手記形式、似ているようでいて決定的に違うのは「手記には嘘が入る可能性がある」ということ。故意の虚偽とまではいかなくとも、書き手の先入観や偏見や情報不足等により、事実とは全く異なることを事実と信じて主張している可能性がありうる訳です。小説の読者は行間からそれに気づくけれども、作中人物である手記の書き手は、物語の最後まで自分の誤認を悟らないまま……ある意味、非情な手法ですね。

さてこの作品の場合、単に手紙で成り立っているというだけではありません。タイトルでも判りますが、物語冒頭の時点で、これらの手紙・手記は既にひとまとめになって存在しているんですね。関係者のひとりが、その書類の束をどこかに送って意見を仰ごうとしているところから始まります。事件はもう起こってしまっている、のです。

ということを頭に入れた上で本編を読み始めるとどうなるか。初老の男ハリソン氏が若い後妻と暮らす家の、独身中年の家政婦が妹に宛てた手紙が最初です。この家政婦、精神科医のカウンセリングを受けてたりしてどうも少々不安定、平凡な子持ち主婦の妹とは仲良くやってるように見えるけどどっかで決定的にズレている、というのが単なる近況報告の筈の文面からまざまざと読み取れるんですね。この家政婦の判断力に100%の信用はおけない……読者にまず生まれるのはこの認識。この後ずっと、全ての手紙について「書き手の偏見」を疑いながら、いつの時点でどんな事件が起こったのかと身構えつつ読み進んでいくことになります。これが何ともサスペンス!

というと心理サスペンスが主眼の作品のように思われるでしょうが、完全犯罪を暴く堂々の本格ものでもあります(こういう手があったかと舌を巻きました)。そして更には、ここがセイヤーズの真骨頂だと思うのですが、「ああ面白かった」だけでは終わらない読了後の余韻。

真相の判ったミステリは面白くないという人も多いようですが、これは再読三読に値する小説ですよ。

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