青子の本棚

「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。


テーマ:
救命―東日本大震災、医師たちの奮闘/著者不明
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9人の医師たちが綴る東日本大震災。


ページのいたるところに、涙して読了しました。
まぶたの裏にワイパーが欲しい。



大変な状況でも、ちゃんと産声をあげる長男の誕生に感動する医師。


ひきこもりだった兄弟が、自分の命を守れたことで自信をとりもどしたことに喜びながら、彼らを治せなかった自分の治療に、冗談交じりに落ち込む医師。
<扉を閉められても、窓は開けられる>いい言葉ですね。


入院中の末期患者さんに、「頑張れ~、頑張れ~」と声をかけられ励まされたという医師。


「後で生きている人のために働いてもらわないと困るからと説得され、避難先の公民館に患者さんを残し、泣き泣き山へ逃げた看護師さんたち。



涙したエピソードを拾ってみました。
人の数だけ、涙があります。



趣味の登山でビバークの経験があり、臨機応変に自宅兼用の医院の屋上に避難したツワモノ開業医のお話も興味深かったです。

医師という命を預かる職業である人が、そこにいるだけでも頼もしいのに、それが冷静に現状を把握し行動できるリーダーであれば鬼に金棒。
どれだけみんなの”生き残る”励みになったことでしょう。


また、今まで薬を飲まずともなんとかしのいでいた食事制限の必要な糖尿病の患者さんが、避難所の食事が、次第に良くなっていくにつれ、病状の悪化が予測されるなど、医師ならではの指摘にも頷かされました。


他にも、この震災を通して浮き彫りにされた過疎地の医療についても、苦言が呈されていて盛りだくさんの内容です。

医者は自己診察が禁止されていて、自分に対しては処方箋も書けないという縛りに、改めて気付かされました。
災害の有る無しに関わらず、たった一人で奮闘する医師。
蜘蛛だって命綱の糸は、二本なのにね。



自らも被災しながら率先して働き、思うように回らない現場に時に苛立つ。
彼らだってスーパーマンじゃないんだから。
そんな中どの医師たちも共通して、被災者であることで、「共感」ではなく「同感」したい、逆に患者さんから癒されること、励まされることもあり、決して自分たちがヒーローではないと、慎ましやかにおっしゃっているのが印象的でした。




震災からもうすぐ9ヶ月。
今までに、いろんなメディアやら、ネットなどで得ていた情報で、なんとなく知ってるつもりになっていた事柄も、この本で、あぁそういうことだったんだと改めて深く思い至ったことばかりでした。


瓦礫に埋もれ外科的治療が主だった阪神大震災とは、必要とされる医療も違い、津波により”オール・オア・ナッシング”とはっきり線引きがあった今回の地震。

しかし、多少なりとも、これまでの経験は生かされていたようです。
たとえば、ボランティア医師の問い合わせ一つとってみても、関西圏からの連絡では返信不要なように工夫された文面が届き、現地の気候など問い合わせる等のぶさいくな連絡はなかったという記述には、ほっとしました。



そんな中、一番衝撃的だったのが、身元確認のための検死を担当された歯科の先生のお話で、今更ながらそのお仕事の大変さに震えました。


死後硬直と寒さのせいで閉じられた口を、スパチュラや開口器を使ってこじあけ、デンタルチャートを記入していくという作業。
金属製の開口器が折れることもあったそうです。
亡くなられた方の無念さが、ひしひしと感じられました。

そんなご遺体を前にして、検死を行う医師が動揺し、手が震え、検死が進まなかったり、記入の文字が乱れたりしたとしても、当然だと思います。


しかし、<身元不明者が一人でもいるという現実が許せない>とおっしゃる先生方の奮闘に医師としての矜持を見た思いがしました。




だって、その人にも人生を歩んできた歴史があるんですよ。身元不明のままだったら、この世に生きたという証がどこにもなくなるんじゃないですか。





海堂尊監修は、特に必要なかったのでは?と思えるほど、とても充実した内容の濃いルポでした。

では、なぜ、海堂尊監修なのか?
それはですねぇ、<検死にAiを!>だったんですね。
この監修者あとがきは、いらなかったと思われますが、これはこれで、相変わらず執念を感じました。



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