青子の本棚

「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。


テーマ:
猫を抱いて象と泳ぐ/小川 洋子
¥1,780
Amazon.co.jp

少年は、唇が癒着したまま生まれた。彼は生まれてすぐメスを入れられ、脛の皮膚が唇に移植された。大きくなりすぎてエレベーターに入れず、一生をデパートの屋上で暮らした象のインディラ。壁の隙間に入り込んで人知れずミイラとなり壁に食い込んでいる少女。このふたりが少年の友だちだった。ある日、少年は学校のプールに浮かんでいる死体を見つける。それは、バス会社の若い運転手だった。彼の住む独身寮の裏庭で、廃車となったバスを改造し、そこで猫のポーンと暮らすお菓子好きの巨体の男:マスターと出会い、少年はチェスの手ほどきを受ける。




この本の感想をUPされた方々のブログにお邪魔するたびに、ぜったい「青子さん好みだ」とみなさんにオススメいただいていましたが、

ビンゴ!


いいですねー。

大好きです、こういう作品。


ただねー。

なんか「博士の愛した数式」 の焼き直しのような気もして、不満といえば不満ではあるのですよ。

私自身チェスは全く知らなくて、その点でも数学が得意じゃない読者である私の読者としての位置も「博士~」とかぶってるし。。。

意識的に成長を止める少年は、グラスの「ブリキの太鼓」をちらりと連想させたりもして。



でも、よかったです。

正直なところ、迷ったのですが「イチオシ」に分類しました。



心臓がきゅーんと縮んでいくような切なさを伴った、エレガントで美しく、そして、なんとも滑稽なフェアリーテール。



象と鳩、奇形を持つ少年。

少年を囲むのは、貧しいけれど正直な生き方をする祖父母と心優しい弟。

少年の前に現れるのは、清楚で賢く、美しい少女。

メンターの死を乗り越えて、外の世界へと旅立つ少年。

彼の前に立ちはだかるのは、不条理で歪んだ世間。


うーん、絵に描いたような設定、定石ではないですか。

”いしいしんじ”っぽいですね。

特に象と鳩、そして、後半には双子まで登場です。


ぜーんぶ、ツボです。




本「ちょっとくたびれている奴にこそ、目を掛けてやらなくちゃならん」

と、修理専門の家具職人の祖父。


やさしい祖母と一体化した布巾。

 ↑ 

これは、ちょっとヤダけど、想像するだけで気持ち悪くなるんですが、上手い小道具です。

この使い方はあっぱれです。

それは、少年の唇に生える脛毛とともに、なんともおぞましくて、滑稽で、せつなくもあります。


祖母が少年に話す神様の仕掛けが後に彼を奇妙な運命へと導くのですが、祖父のことばと共に彼女のことばが胸に詰まります。




本「それを見つけ出して生かすのは、神様じゃない。お前だよ。神様のお考えを表せるのは、人間なんだ。いくら神様でも人間がいなかったらお手上げだ。そうだろ? でも神様が慌てるくらいだから、きっと素晴らしい仕掛けに違いない。おじいちゃんに似て手先が器用なのか、それとも駆けっこ、歌、計算、絵が一番か。ああ、お前が大きくなるのが、おばあちゃんは楽しみでならないよ」




そんな祖母の願いを否定するように「大きくなる」ことを極端に恐れる少年は、自ら小さいままでい続けることに細心の注意を払います。


バスの中で死んだマスターの巨大になりすぎた遺体搬出のシーンは、なんの冗談かと思うほどおかしくて、それゆえに切なくなるシーンでもあります。


そして、マスターの死を境にいなくなった猫のポーン。


入れ替わるように少年の前に登場するのは、少年の想像するミイラそっくりの少女。

彼女は、ミイラという呼び方を受け入れてくれるほどやさしい子でした。


ホテルの地下にある「パシフィック・海底チェス倶楽部」で、盤上の詩人と呼ばれたチェスの名手:アレクサンドル・アリョーヒンに似せて作られたからくり人形の中にもぐり、マスターから残されたチェステーブルでチェスを指すことになった少年は、人形とともに”リトル・アリョーヒン”と呼ばれます。

ミイラは、”リトル・アリョーヒン”の傍について、棋譜を記録する係を務めます。

その彼女の肩には、彼女を守るかのように、いつも鳩が載っています。

ミイラは、ホテル専属の亡くなった手品師の娘でした。



元女子シャワー室で、自動チェス人形として数々のチェスを指す”リトル・アリョーヒン”は、どんな相手にも美しい棋譜を残すことで評判になり、「盤下の詩人」として名を馳せます。


しかし、思わぬ出来事が、ふたりを悲劇に導きます。



「博士~」の数学と同等、もしくはそれ以上の美しさをもって語られるチェス。

それに反して、ふたりの所属する世界の醜さが暴かれたとき、読者としての無力さ、痛みに胸を衝かれました。



本大きくなること、それは悲劇である。



またしても、成長を拒むリトル・アリョーヒンは、人形の中で、ますます身体を小さく歪ませます。



その後、リトル・アリョーヒンは、人形ともどもチェス好きの老人たちの住む【老人専用マンション・エチュード】に住み込み、雑用をこなしながら、さまざまな老人たちのチェス相手をするのですが、ここでも、また、体格のよい総婦長さんの健啖ぶりに怯え、なんとか彼女の夜食の量を減らそうと画策します。


それほどまでに、大きくなることを杞憂するリトル・アリョーヒンの恐怖はいったいどこからくるのでしょうか。



また、【エチュード】での老人たちとのチェスを通して人間が語られるのですが、その本質を突いた人間描写にドキリとさせられます。

チェスの中に見え隠れする老人たちの人生が、人の普遍性を浮かびあがらせているのです。


そして、思いもかけぬ人との再会。





何度も繰り返されるマスターから教えられた「最強の手が最善とは限らない」という言葉とともに、人の在りかたを教えられたような気がします。


【ー】 ← 降参を示す記号






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