- 私家版 (創元推理文庫)/ジャン=ジャック フィシュテル
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イギリスで出版社を経営するわたし:エドワード・ラムは、古くからの友人である作家:ニコラ・ファブリに復讐するため、本を凶器とする完全犯罪を計画する。フランス軍の戦闘機のパイロットから外交官を経て作家に転身したニコラの身辺に、女性が絶えることはなく、華やかな生活を送ってきた。そして、今、また、彼の新作『愛の学校』は、フランスでもっとも権威のある文学賞:ゴンクール賞の栄誉を得んとしている。一方のわたしの人生はというと、ニコラとはまるで正反対だった。嫉妬と憎悪に身を委ねたわたしは、ニコラへの復讐を着々と進める。
ミステリーとしては、ラストは、はぁ?な感じでした。
いや、こういう終わり方が、ある意味リアルでもあるのですが、なんだかなぁとちょっと脱力してしまいました。
ところがですねー、わたしという一人称で語られるエドワード・ラム卿の心理描写が、興味深いのです。
華やかでチャラいニコラとは対照的に、地味で暗い人生を送ってきたエドワード。
その彼が、ニコラへの復讐を誓うに至る過程で、ニコラに対する憧れと嫉妬がくるくる入れ替わる若かりし日の思い出が丹念に描かれています。
腐れ縁のように、人生で幾度も出会う二人。
アレキサンドリア駐在のフランス総領事の息子:ニコラと、同年代の若者たちとは距離をおき、同人誌「オリエント文学」を発刊するエドワード。
フランス空軍パイロットのニコラと、イギリスの地下組織の情報機関でスパイ活動をアシストするエドワード。
フランスの外交官試験をパスしたニコラと、出版社:<ターナー・プレス社>に就職したエドワード。
作家としてデビューしたニコラと、彼の作品の翻訳とイギリスでの出版を引き受ける<ターナー・プレス社>の社長となったエドワード。
出会うたびに光のあたる場所にいるのは、いつもニコラ。
エドワードはというと、彼とはまるで正反対の目立たない陰のような場所に甘んじています。
エドワードの視点で描かれているため、ニコラが、かなり嫌なヤツとして描かれているのですが、どんな人でも、自分には甘いもの。
だから、自分こそが本当に才能があり、敵役のニコラに鼻持ちならない感情を抱いているエドワードに、どれほその実力があるかは、あやしいところです。
真逆な二人のキャラクターの人生が交差するたびに、エドワードの心は乱れ、ニコラの最新作『愛の学校』を読んだとき、ついに犯行を決意するのですが、その後の彼の無駄のない行動が、イギリス人のイメージも加わって、女癖が悪いニコラのフランス人という設定と好対照をなしています。
犯行のセッティングよりも、エドワードの心理状態の方が納得して読めました。
犯行は、もちろん、ページに毒が塗られているとか、その重さを利用して撲殺するとかではなく、ちょっと特殊な方法を使っているんですが、最期までニコラへの相反する二つの感情を抱くエドワードに、人という生き物のミステリーを
見たような気がします。
期待を抱いて過ごすということは、疑惑と希望、苦悩と喜びを、代わる代わる味わうということである


