夜桜☆

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$寝ても醒めても ~ Nuit et Jour ~-nail


ピンクミンクのファーから覗いた爪に
夜桜を描いた
春が開こうとして躯の底が熱い

やむことのない雨
「爪の綺麗な女は男の胸をかきむしるというよ」
トップオブアカサカから
真っ黒い空のむこうに電光が奔った
春雷
「また春になったんだ」
私はジューンブライドになる
「君を花嫁にする彼はきっと幸せだろう」
胸を爪でひっかいたのは私だけど
胸の中をかきむしったのはあなた
暗い雨の街の中にきえていった

20年がたった
私は痛みを忘れようと嫁ぎ
奔放に安息を見出して別れた

春が疼く
あゝもう一度
胸をかきむしられたい
あなたを覚えている爪先に
夜桜を描いた
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寝ても醒めても ~ Nuit et Jour ~-sitagi.jpg






















マサミが私の胸をまさぐられる。
私は全身の孔から水や気を滴らせながら、くすぐったいのか、痛いのか、
気持ちいいのかわからない触感に身もだえしている。声を出したら笑われると、
頭の隅では思っているのだが、うめきか、泣いているのか、わからない声が、
唇を噛んでいるというのに、漏れあふれていくのだ。

マサミの指がようやく探し当てたかのように(それともじらされていたのかも)、、、
乳首でとまった。左の乳首。マサミの親指、人差し指、それに中指も? 

”キュッ”とつねられた。
「あっ!」
笛のような高い音がのどの奥から空中に飛んだ。
”キュッ”
短く、すばやく、強い指の力。
「痛い!」
眼の中が涙であふれる。痛い、本当に身を切る痛さ。私は泣き始めた。
嗚咽のしのびが低音で流れる、でもからだは身もだえを続ける。
痙攣して、くねくねして、空気の隙間ができないくらいにマサミのからだに密着しようと動く。
「痛い?」
とおっしゃる。にじんだ涙の向こうで、マサミが私の顔をのぞかれている。
「ええ」
かすかに答える。
「じゃやめる」

指の動きが止まる。痛さが遠のき、いろいろな触られ感がなくなっていく。
私はほっと安堵する。
まだ私はマサミの腕のなかにある。私の唇はおとがいの下、鎖骨の間のネックレスに触れている。
かすかに汗ばんでいい香りがする。
唇を離してマサミを見上げると、私をじっと見つめられている。
指は乳首の上にまだ残っている。なにを言わせたいの? 私はあなたのものよ。
「でも、あなたはおもしろいし、楽しいんでしょ?」
マサミがコックリされる。
「じゃ、やって! もっと! もっと、私を弄んで! めちゃめちゃにして。お願い!」
かすれた声だったか、叫ぶように言ったのか、覚えていない。
私は訴えて、マサミの胸に顔を埋めた。
「よし」
という声が聞こえた気がした。
でも、それは風の音。マサミがさっと動かれて立った風。

私にはわかる。実際にこの眼で見たわけでなくとも、
私のお願いにマサミが破顔されて覆いかぶさってこられたことを。
暖かい感触を敏感な場所に感じた。足を開かれて舌の動きがこまめに動く。
吸われる。舐めまわされる。押し出される。
舌そのものに新たな何かが宿ったような予測不能な動き。
執拗に繰り返される。快感の証がしたたり落ちる。
自然に動き出す腰。

確認したかのように、突然マサミの筋肉が一瞬固くなったのを感じた。
見えもしないのに、マサミの紅潮した唇が一瞬微笑んだのがわかった。
私にのしかかってきたマサミは
”ギューッ”
強力な万力で、いっきに私の乳首に吸い付き噛んだ......
「アーッ!」
マグマの爆発のような、ものすごい快感。私は身を瞬時に灼いた。
そして真っ暗な奈落に転がり落ちた。

「どうした、白目をあけてよだれを垂れ流していたよ」
笑いながら、マサミが私のあごの下を撫でてくださった。
私は失神していたのだ。
恥ずかしかった。おそるおそる乳首を見ると、赤黒い傷跡が残っていた。

私は幸福感に包まれた。
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はじまりのレクイエム

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わたしは、死んだ。

名前は……ニーナ、だったと思う。
仁奈? だったかしら……。
そんなふうに呼ばれていたような気がするのだけど。

いつ死んだのか、なぜ死んだのか。
よくわからない。
瞬間瞬間の間に少しずつ記憶が薄れていく。
なぜ死んだのか。
持病の不整脈からか心臓発作か、そんなところだろう。
最後の肉体の記憶は五体健全だったから、事故とかではなかったはず。

わたしの記憶。
あるとき突然、あっというまもなく自分のハコ
──欲望や苦悩、快楽と痛苦のいれものであった──が、
肉体が消滅した。
そうじゃないかもしれない。
消滅したのではなくリセットされた、
原点に、カオスのゼロにね。

わたしは、もう存在しないけれど、
まだわたしは、ここにこうしている。

色もなく形もなく、透明でやわらかな心地いい、
意識だけとなって浮遊している。
どこにでも飛んでいける、風よりも自由に。
なにもかも透き通り抜けできて、瞬時に移動できる。

こうした状態でいられるのも長くはない。
地球の時間で数日、いや数時間もないのかもしれない。
教わったわけでもないのに、それがわかる。
五官はとうにないのに、まだ見える、聞こえる、香りもする。

わたしは愛する人へ飛んでいった。

黒いネクタイを緩め、シャツのボタンを外し、
椅子に浅くかけ、右手にワイングラスをもって、
頭をたれて微動だにしない。

彼の意識の表も裏も、
60兆の細胞のひとつひとつの動きがただちにわかる。
ことばではなく、染み入るようにわかる。
—— 突然逝ってしまうなんてずるい、オレをおいて。

彼は悲しんでいる。
深く、さらに深く。

悲しむ必要なんてぜんぜんないのよ、あなた。
わたしは肉体のくびきから解き放たれて、
悩みも苦しみもなく、かろやかに舞っているの。

それをどうやって伝えればいいのかしら。
彼の首のまわりにまとわりついて耳に息を吹きかけた。

—— ニーナの匂いだ?
わたしに気がついたみたいだわ。
ほんとうに愛おしい。
意識があたたかくなった。
よかった。
わたしはあなたを通り抜けないで感じることができる。

ごめんなさい、あなた。
わたしはいい女ではなかったわ。
素直じゃなかった。
好きなのに、そうじゃないふりをしたり。
そうじゃないのに、もてたふりしたり。
あなたの思っていることの反対を言ったりしたわ。
わざとね。

いやな女。
ね、覚えてる?
夏の海岸でみた花火。
「ドンと咲いてパッと散る、人生も花火みたいにできたらいいね」と言ったら、
「なにを言うんだ」とあなた怒ったわ。
「ダメだよ。これからぼくたちはたくさん一緒にすごすんだよ。
たくさん笑って、たくさん犬もくわない喧嘩して、うじうじ悩んでお互いにたくさん執着して、
たくさん一緒に生きていくんだから」って。

あっ、涙。
泣いているの、ありがとう。
あなたのおかげよ、
こんな豊かな気持ちで逝けるのも。

約束は守れなかったけれど、
これからはもっと近くにいるわ。
あなたのこころのなかに、
覚えていてくれる間は。

あなたはおじぃちゃんまで生きるのよ。
愛する人を見つけて、暖かい家庭を築いて、
たくさんの孫にかこまれてね。

あなたに伝えたいことがある。
「死ぬことはなにも恐くないのよ」と。
死は、仄暗い未知の世界へ連れて行かれるのじゃないの。
自ら所有していたものすべてを自然に帰して、
生まれる前のふるさとに戻って行くだけのこと。
—— 身体は借り物であり、物質の所有は目の錯覚なのよ。
わかってくれた?
死ねばわかるわ、人はだれでも死ぬんですもの。

どんどん記憶も意識も薄れていく。
加速度的に亡失していっている。
もうすぐだ、
わたしは同化する、
大いなるものに。

経験したことのないオルガスムスが押し寄せてきた。
意識が透明にいよいよ遠くなっていく。
すべてが宇宙の空間へ無限大に広がっていく。


わたしは──永遠を知る。



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