2005-11-13 08:19:51

シリコンバレー物語(6)

テーマ:特集・シリコンバレー物語

■失敗がキャリアの汚点にならない理由

 ジェリー・カプランは、さしずめシリコンバレーに棲む亡霊の典型といえる。
 カプランが最初の会社、ゴー(GO)を立ち上げたのは1987年のこと。ペン入力コンピュータを開発するという同社のアイデアはベンチャーキャピタリストらの投資意欲をおおいに刺激し、合計3000万ドル以上もの資金がゴー社に投じられる。
 が、期待のペン入力コンピュータは技術的な問題から製品化に至らず、1994年、同社はAT&Tに吸収合併されることになる。カプランの目論見は失敗に終わった。シリコンバレーに新たな墓標が立った。3000万ドルを超える投資が水泡に帰した。
 ところが、他の起業家がそうであるように、カプランも1度や2度の失敗でへこたれたりはしなかった。ゴー社が吸収合併されて間もなく、カプランはネットオークションの先駆けとなるオンセール社を立ち上げる。
 オンセール社はごく短期間に急成長を遂げ、早くも97年には株式を公開するまでになる。その瞬間、カプランの個人資産は一気に1億ドル以上に膨れ上がり、シリコンバレーのニューヒーローになった。ゴー社の失敗からわずかに3年後のことである。
 ジェリー・カプランの例からも分かるように、シリコンバレーでは1度や2度事業に失敗したからといって、ただちに『社長失格』というような烙印を押され、再起の道が制限されたり、閉ざされるようなことはない。
 なぜ失敗がキャリア上の汚点、前科にならないのか? その理由を思いつくまま上げてみると・・・。
【失敗するのが当たり前と了解】
 ベンチャービジネスのベンチャー[venture]とは冒険とか投機という意味である。動詞では「危険を冒してやる」「一か八かやってみる」という意味になる。こうした言葉が使われることからも分かるように、アメリカでは、とりわけシリコンバレーでは独立起業は多くのリスクを伴うものであり、失敗するのが当たり前という社会的了解がある。だからこそ、わずかな成功の可能性を少しでも高めようということで、ベンチャーキャピタルをはじめとした各種の支援サービス=起業のためのインフラが整備されているのである。「成功と失敗は紙一重であり、紙一重の差を知るには2回失敗することが必要だ」という金言さえシリコンバレーにはある。
【失敗を「実績」としてプラス評価】
 ゴー社の失敗によって、ジェリー・カプランは3000万ドルもの投資を無駄にしてしまった。日本でならば“3000万ドルを紙くずにしてしまった男”というようなレッテルが貼れ、経営者としての再起の道は閉ざされてしまうところだ。
 しかし、シリコンバレーでは違う。3000万ドルもの資金を集めることができたという事実、それ自体がひとつの実績として高く評価されるのである。結果的にAT&Tに吸収合併されてしまったとはいえ、AT&Tやマイクロソフトなどと互角に渡り合った経営手腕も、やはり高い評価の対象になる。
【失敗を帳消しにする成功報酬の大きさ】
 カプランの例からも分かるように、2度、3度失敗を重ねても、1度成功すれば過去の失敗をすべて帳消しにして余りあるほどの成功報酬をごく短期間に手にすることができる。
 事業が成功し、株式公開を果たした途端に墓場から蘇った亡霊(起業家)は資産数百億円の金持ちになり、投資家は膨大なキャピタルゲインを手にし、従業員もまたストックオプションのおかげで億万長者(ストックオプション・ミリオネアと呼ぶ。さしずめ“自社株長者”といったところ)の仲間入りを果たす。
 どの会社にも、どの起業家にもその可能性すなわち失敗を帳消しにする大きな成功の可能性があるから、だから何度か失敗しても大目に見てもらうことができるわけである。
【誰も損をしない構造?】
 ベンチャー企業の運転資金はベンチャーキャピタルやエンジェル(個人投資家)、コーポレート・パートナーと呼ばれる企業の投資によって賄われる。
 あくまでも投資であるから、仮に会社が倒産するようなことがあったとしても、経営者は提供された資金を返済する必要はない。日本のように社長個人が多額の負債を抱え、そのために身ぐるみはがされたり、自己破産に追い込まれたりすることがない。
 失敗しても傷が浅い。被害が少ない。したがって立ち直りが早い。いくらでもやり直しがきく。
 ベンチャーキャピタルやエンジェル、コーポレート・カンパニーは多くのベンチャー企業に分散投資をしているため、投資先(ポートフォリオ・カンパニーという)のいくつかが事業に失敗し、仮に倒産したとしても、それによって大打撃を被ることはほとんどない。10社投資した中で1、2社が株式公開でもすれば十分すぎるキャピタルゲインを得ることができるのだから。
 会社が倒産してしまえば従業員は職を失うことになるが、路頭に迷うようなことはない。年に3000社ものベンチャー企業が誕生し、一方には人手が足りなくて困っている大企業や中堅企業もたくさんあるからだ。能力さえあれば職にあぶれるようなことはない。
 このように、失敗が失敗として表面化しにくい構造になっているわけである。

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2005-11-13 08:17:32

シリコンバレー物語(5)

テーマ:特集・シリコンバレー物語

■「失敗」もまたひとつの実績であり財産


 一説によれば、シリコンバレーでは1年間に3000社ほどのベンチャー企業が誕生し、そのうち2500社ほどが1年以内に潰れるか、休眠状態に陥ってしまうといわれる。3年後の生存率はせいぜい5%ほどだとか。
 シリコンバレーは毎年数多くのベンチャー企業が誕生する産院であり揺りかごであり、そして数多くのベンチャー企業が衰滅し、消滅していく墓場でもあるわけだ。屍累々、である。
「潰れていった会社の跡に墓標を立てていったら、シリコンバレーはそれこそ墓標で埋まってしまう。まさにシリコンバレーはベンチャー企業の墓場ですよ」
 DVD用オーサリング(編集ソフト)システムの開発を軸に事業を展開しているベンチャー企業、スプルース・テクノロジーズの曽我弘社長はそういって苦笑する。1935年生まれの65歳。新日鐵を定年退職したのちにシリコンバレーで起業した他にあまり例を見ない熟年起業家である。
「シリコンバレーで成功しているヤツは、みんな、その墓場から出てきた連中なわけですよ。亡霊なんです(笑)。1回失敗し、2回失敗し、3回失敗して、失敗するたびにだんだん賢くなって、あるときパッと大きな成功を納める。それがシリコンバレーでは普通なんです」(曽我社長)

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2005-11-10 21:47:21

シリコンバレー物語(4)

テーマ:特集・シリコンバレー物語

 ■ネットワークの中にはいることが成功への第1歩


地縁、血縁関係が濃くなればなるほど、そこにおける人間関係は濃密なものになる。人と人とのつながりが重要視され、その分だけ排他的になる傾向がある。シリコンバレーもまさにそうである。有力な人の紹介がなかったら何も進まない人的ネットワーク社会なのである。
 当然のことながら、ネットワークの中に入り込むことができなければ、シリコンバレーでいい職にありつくことはできない。自らの才覚で起業しても、成功はおぼつかない。

 現地で活躍する起業家の1人は次のように話してくれた。
「たとえば、レジュメの中にインテルで5年間勤務した経験があると書いてあったとします。シリコンバレーではこれほど分かりやすい記号はない。彼らはすぐにインテルの関係者に電話をしてその人物の評判を聞き、信頼に足る有能な人物だという返事が戻ってくれば、その人をネットワークの一員として認めるわけです。社員として雇ったり、経営陣として迎え入れたり、資金援助をしたり、ビジネスのパートナーとして手を組んだり・・。 シリコンバレーでの実務経験がない場合には、学歴が有力な記号になります。シリコンバレーはものすごい学歴社会ですから。MBAやエンジニアリングのマスターを持っていれば、ネットワークの一員として認められやすいということがいえます」

                            (たきた)

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