「笑顔の奥へ」 第一章 笑顔の人(六)
「君、いつもこの活動写真館にいるよね。」
「いや・・・、たまにだけど・・・。気になる活動写真のときだけ・・・。」
「へえ!」
ユキが強い口調で突然声をあげた。
カンスケは驚いて、思わず横目で警察官のほうを見る。
「じゃあ、この映画は気になったの?」
「う、うん・・・。」
カンスケの返答に、ユキは満面の笑みで応えた。
その笑顔を見て、カンスケは決めた。
彼女の出演する映画は、初日に絶対見ようと。
その日から、父の目も、警察の目も盗んだ、たった2時間のデートが始まった。